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 アンダー・ジャスティスを名乗る女性たちと怪物化アイリスディーナとの戦い。それを見れば見るほどベアトリクスはアイリスディーナであることを事実だと認めるしかなかった。


 美しい銀髪。

 魔力の色。

 そして何よりアイリスディーナの魂の叫び声だとベアトリクスには理解できた。


 力任せに暴れまわる怪物化アイリスディーナに数で勝るアンダー・ジャスティスも流石に劣勢になってきた。剣戟と魔力による砲撃を無尽蔵の体力で放出する怪物。

 そして強いが体力も魔力量も限界があるアンダー・ジャスティス勢力。それが持久戦で戦いになった場合、どちらが劣勢なるかは明らかだった。

 ベアトリクスの目の前でアンダー・ジャスティスの女の子が倒れる。その女の子に向かって、怪物化アイリスディーナは魔力砲撃の準備を行う。


(アイリスディーナ……アイリスディーナが人を殺してしまう。守らなければ、あんな醜い姿にされて、心も体も破壊されたのだろう。ならば尊厳だけは守らなければ!!)


 ベアトリクスの背後の床面が、大きく抉れ消し飛んだ。

 爆発的加速。魔力放出は、身体能力のブーストに使用するのが常であるが、このアイリスはその有り余る魔力をロケットのように噴射して、尋常ならざる破壊力をその一刀に乗せることができるのだ。


 荒れ狂う魔力の奔流を、その勢いを殺すことなく怪物化アイリスディーナに向けて剣を振り下ろした。 


『その怪物化、致命的だぜ』


 パリン!! とアイリスディーナを覆っていた仮面が半分剥がれ落ち、体に纏っていた異形の肉体も硝子のように砕け散った。


「アイリスディーナっ!?」

「ベアトリクスお姉様」


 二つの刃が激突する。周囲の瓦礫を吹き飛ばし、巨大なクレーターを構築する。理由は分からないが、アイリスディーナが正常に戻った。それにベアトリクスは涙を流す。


「良かった! 良かった! アイリスディーナ!」

「……私、私は」


 光の帝国・星十字騎士団所属。

 アナキン・スカイダイブ

 その能力は致死量操作。

 生物が物体をどのくらい摂取すれば死亡するかの値を致死量という。たとえばふぐ毒、テトロドキシンのヒトの半数致死量は0.01mg、ニコチンは1~7mgである。(条件を管理した生物たちに投与した場合、半分が死ぬ量)


 アナキンの能力は、「標的個人の」「絶対致死量(摂取すれば100%死に至る物質量)」を正確に計測し、その数値を操作することができる。つまり、100kgとらなければ人体に影響を及ぼさないような物質も1mg摂取しただけでその効果を発揮することができるのである。人体の中にある物質にも効果を発揮でき、相手の体内に瞬時に毒を生み出せる強力な能力といえる。


 そしてこの能力を応用して、アナキンの中にある怪物化の力を減らしたのだ。正確にはアイリスディーナが自我を保てる程度に怪物の力を減らした。 


「大丈夫!? 意識はしっかりしてる? 怪我はない?」


 ベアトリクスはアイリスディーナのことを心配して言葉を掛け続ける。見た目上は傷ひとつないが、万が一を考えて病院へ行こう、とベアトリクスはアイリスディーナの手を引っ張る。しかしアイリスディーナは動かなかった。

 アイリスディーナは黙ったまま、自分の体の様子を確かめる。そして剣を何度か振る。そして語り始めた。


「かつて、ある言葉を言われたわ。武神祭の舞台で無様に負けた私に、ベアトリクス姉様が言ったわよね」 


『私、アイリスディーナの剣が好きよ』 


 唇を歪めて声真似をするアイリスディーナ。 


「貴方にあの時の私の気持ちなんて分からないでしょうね。あの時私がどれほど惨めだったか。私はあの日からずっと、自分の剣が大嫌いよ」 


 瞬間、再び怪物の仮面がアレクシアを覆った。


「■■■■■■■■■!!」


 咆哮し、ベアトリクスに向けて剣を振るう。

 振るって振るって振るう。その斬撃は音速を超え、常人の目には月光を反射する軌跡しか残らない。白銀の刀身は、夜闇を切り払い、大気はズタズタに切り裂かれて悲鳴をあげる。だが、止まらない。嵐の夜の海の如く、轟と吹き荒れる剣風は、時間と共に激しさを増していく。


 しかし、その荒々しくも間断のない攻め手が続いているということは、切り付ける対象が未だに存命しているということを意味している。


 突然、切りつけられたベアトリクスは、困惑しながらも縦横無尽に駆り、アイリスディーナの剣戟を受け止め、いなし、あるいはかわす。その曇りも見出せず、困惑の表情だけでベアトリクスの攻撃を見切り続けている。


《はは、ははは。才能って、本当にずるいわよね。この化物の力を使っても、貴方と対等に切り合うことすらできない。全然本気じゃないなんて。剣術でも、魔力でも、立場でも、全部お姉様には敵わない。だから私は望んだの、お姉様を圧殺できるくらいの強大な力を!!》

「アイリスディーナ? どういうこと!?」

《どういうことも何も全部、私が望んだ事なのよ。あの人の言うことを聞くかわりに、私は貴方を殺せる力を求めた》

「アイリスディーナ……」

《姉に劣り、それでも食らいつく為に才能がない者が必死で努力して鍛えた結果が、称号が凡人の剣!? 誰でも使える使い勝手良い剣術!? なんだそれは!! ふざけるな!! 私がどんな思いで!! 私が!! どんな気持ちで研鑽してきたと思ってるんだ!!》


 アイリスディーナは叫ぶ。


《才能ある者と無い者が同じ努力をした結果なんてわかり切っている。土台が違う。最初から立っている場所が違う。持っている総量が違う》


 努力すれば勝てるという嘘。

 自分が努力しているなら、相手も努力しているに決まっている。

 当たり前の理屈だ。

 当たり前の論理だ。

 当たり前の結果だ。

 最初から強い人が更に強くなるために努力したなら、それは才能無いものには届きえない領域に行き着くのが現実だ。


《もう他の人間なんてどうでも良い!! 剣術なんてどうでも良い!! 努力なんてくだらない!! ただお姉様を圧倒できる暴力的なほど強大な力を私は求めた!! 絶対に殺すと誓った!!》


 霊圧が一気に跳ね上がる。


《私の魂にだ!!》

 

 ゴウ!! と霊圧が吹き荒れる。砂煙に目を潰それたアイリスディーナが、再び目を開けた時。

 ベアトリクスの顔面が変化し、黒い模様が全身に迸り、そして胸に穴が空いた人型の怪物の姿をしていた。

 

《殺ㇲ。倒ス。ワタシガガガ》


 完全怪物化したアイリスディーナが剣を振るう。時に愚直に、時に技を織り交ぜ、首を、胴を、腕を、足を狙いながらその尽くが届かない。その度に力は増して行く。


 無論、これほどの苛烈な攻撃に曝されて無傷で済むほど、アイリスディーナは頑丈ではない。鍛え抜かれた心眼が、アイリスディーナの攻撃に対処する最適解を導き続けているからこそ、ギリギリの攻防を続けていられる。

 持久戦では敗北する。しかし決め手に欠ける。その時だった。

 空から漆黒のコートを身に纏った男が現れた。


「貴方は?」

「ホワイト」

「ホワイト……?」

「ホワイト様!? どうして!?」

「あの程度の拘束どうにでもなる。闇の力に飲まれたか、アイリスディーナ王女。貴方の理路整然とした努力の剣術は好きだった。しかし獣に落ちた者に容赦はしない。ここで朽ちろ」

《■■■■■■■■■■!!》


 三人が激突する。

 今のは三人は嵐の海に漕ぎ出した一艘の船だ。大波に翻弄されながらも、生き残る活路を探し出すため、知恵と技を一瞬一瞬に集約させている。そして、歴戦の勇士でもあるベアトリクスの目には、敵の完全怪物アイリスディーナの剣に粗が見え始めていた。

 それは、まさしく風と海流を掴んだ瞬間であった。


「セェア!」


 ベアトリクスが振り下ろした剣が床面を抉るのに合わせて踏み込んだアイリスディーナの黒い刃がベアトリクスの鎧に吸い込まれた。しかしそれをホワイトが防ぐ。


《■■■■■■!!》


 アイリスディーナは苛立ち、仮面の奥に隠れた顔を歪ませていた。高い耐久力に加え、頑丈な鎧に身を守られているベアトリクスには、一撃入ったところでダメージにはならない。更にアイリスディーナによる援護が邪魔をして攻撃が通らない。

 完全怪物化したアイリスディーナして自身が圧倒的な力を保持していると本能で理解しているだけにそのプライドが大きく傷つけられたのだ


「ダラアアアアアッ!」


 咆哮と同時に四方に赤い魔力が走る。魔力放出のはずだが、放出された魔力はアイリスディーナの性質に合わせて変化しているようだ。


《■■■■!!》


 膨大な魔力は、それだけで物理的衝撃を伴う。完全怪物化アイリスディーナは踏鞴を踏んで距離を取った。しかし、その僅かな後退は、完全怪物化アイリスディーナにとって一歩で詰め寄れる距離しか稼げず、下から切り上げられた剣を受け止めたが、剣が後方に弾き飛ばされてしまった。

 更にホワイトの魔力の流体刃がアイリスディーナを襲う。超高速再生によって傷は塞がるが憎々しげに唸り声を上げる。


《■■■■!!》


 瞬間的な突撃。

 アイリスディーナの拳がベアトリクスに突き刺さり、続いて蹴りがホワイトに向かって飛んでいった。

 そもそも筋力からして完全怪物化アイリスディーナとベアトリクスとホワイトでは格が違う。まともにぶつかっては人間側の敗北は必至であり、うまく衝撃を受け流すことで渡り合ってきた。が、今回は剣を捨てて完全怪物化アイリスディーナの魔力放出で強化された拳と蹴りをそのまま受け止めてしまったのだ。


 圧倒的な力を持つ完全怪物化アイリスディーナにとって武器はお荷物でしかない。心の中に残っていた剣術で姉に勝ちたいという願望を打ち捨てた事で、本気の力を出せるようになったのだ。


《■■■■■!!!!!!!!》

 

 にらみ合いは長くは続かず、再戦の火蓋はなんの予兆もなく切られた。

 完全怪物化アイリスディーナが攻め、ベアトリクスとホワイトが守る。


 初めから何一つ変わらない構図が維持される。戦局は膠着状態に陥った。剣士としての誇りを打ち捨て攻め立てるアイリスディーナに対し、二人は己が剣術で勝ることを理解し、堅実な守りを固めている。幾十、幾百の拳脚剣戟を交えてなお、互いに一歩も引かない切り合いが展開されていた。


 アイリスディーナの拳が、ホワイトの剣を弾く。しかしアイリスディーナが、二撃目を放つ頃にはすでにベアトリクスは万全の守りを固めている。


 これだけ、剣を交えれば、ベアトリクスとホワイトお互いの剣が見えてくる。二人の剣の鬼才は、お互い対極に位置する剣。才能のない者が、死に物狂いの努力の果てにたどり着いた極地であるホワイトとアイリスディーナの剣。 


 逆に才能に恵まれ、それを活かす為に血反吐を吐く努力して得た才能前提の強者の剣。

 これほどの剣技を手にするのに、一体どれほどの修羅場を潜ったことだろう。お互いの過去に思いを馳せながらも、アイリスディーナに向けて剣を振るう手を止めない。 


《■■■■■!!》


 アイリスディーナは大きく距離を取ると、爪を二人に向けた。そして魔力と霊子が収束して暴力的な光が放たれる。

 巨大な爆発が起きて、全てを吹き飛ばした。


《■■■■■!!》


 しかし更に二撃目を用意するアイリスディーナに対して、二人の殲滅者が立ち塞がった。


「悪いが、それ以上は致命的だぜお姫さん」

「貴方の勝利です。アイリスディーナ王女。おめでとうございます」


 仮面が砕け散った。

 崩れ落ちるアイリスディーナを優しく抱きかかえると、二人は姿を消した。


 

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