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「ありがとう」
偶然にも僕と彼女の声が重なった。僕がそう言うのは当然だ。今まで僕ばかりが好きだの愛してるだのと言わされてきた。彼女は陸たちにひどい目に遭わされた腹いせを僕相手にしているだけで、本当は僕のことなんてなんとも思ってないんじゃないかとずっと不安に思っていたから。
「君の〈ありがとう〉はどういう意味?」
「確かに初めはトラウマのせいで好きだと言えなかった。でも途中で気がついたんだ。トラウマを乗り越えるためにも夏梅に好きだと言わなければいけないって。ボクと陸の関係はボクが一方的に奪われる関係だった。夏梅がボクから何も奪わないのは分かってる。でも陸たちに汚され奪いつくされたボクには、君に与えられるものが何も浮かばなかった。ただボクが一方的に与えられるだけの関係になるんじゃないか。そうなることが怖かった。昨日、六車さんでなくボクを選んでくれて本当にうれしかった。どうせ後悔するならボクを選んで後悔したいと言っていたが、ボクは君に後悔なんてさせたくない。ボクが君に好きだと言ったのは、こんなボクでも君に与えられるものがきっとあるはずだから、ボクと交際を続けても絶対君に後悔なんてさせないという決意表明だ。それからボクが君にありがとうと言ったのは、これからは愛する人のために前向きに生きていこうという勇気をボクに与えてくれた君への素直な感謝の気持ちだ」
彼女の愛は重い。それを受け止めきれるほど、僕はまだ大人になれていない。彼女の性経験の方ばかり目がいっていたけど、それを抜きしても彼女の方がずっと大人だ。彼女が汚れている? そう感じる僕の心が汚れているだけだ。