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ゾムが顔を覗き込む。けれどショッピの目は、どこも見ていない。
視線は虚空をさまよい、肩は小刻みに震えている。
「……っ、は……っ、あ……っ……くる、し……」
「ちょ、ショッピ!? 落ち着いて!」
声が遠い。
音が、波のように反響して聞こえる。
どこかで何かが揺れている──それは自分の身体だと気づくまでに、少し時間がかかった。
ゾムは慌てて肩を抱きしめようとする。
だがその手を、ショッピが──はじめて、自分から振り払った。
「っ──……さわ、らないで……ください……っ」
それは、かすれた、震える声だった。
だけど確かに、“拒絶”だった。
ゾムは動きを止めた。
そして見つめた。
過呼吸に近い呼吸を繰り返しながら、必死で自分を保とうとするショッピを。
涙は出ない。けれど、目の奥には絶望があった。
──ああ。
なんでこんなに、綺麗なんやろ。
ゾムはそう思った。
壊れかけて、ボロボロなのに。
その姿に、どうしようもない愛しさが込み上げる。
「ごめんな、ショッピ……でもな、俺……お前がそうなるの、見逃されへん」
言いながら、ゾムはそっと離れた。
その表情は、優しく、けれどどこか“嬉しそう”でさえあった。
ショッピは、目を閉じた。
呼吸を、少しずつ、整えようとする。
息はまだ苦しい。
喉は乾き、指先が冷たく震える。
ベッドの隅に背を向けて、ショッピは膝を抱えて座っていた。
ゾムは無理に触れなかった。──いや、触れられなかった。
数分の沈黙。
だけど、やがてショッピがぽつりと、口を開いた。
「……こんなふうに泣くなんて、みっともないですね」
かすれた声。
涙が、音もなく頬を伝っていた。
「私は……ずっと、“平気なふり”をしていれば、なんとかなるって思ってました。
感情を隠せば、安全だって。
誰も近づけなければ、傷つけられないって」
語尾は、震えていた。
「でも……」
言葉が詰まる。
喉の奥で何かが引っかかって、息がまた浅くなる。
それでも、彼は続けた。
「でも……あなたたちは、違った……
無理矢理に踏み込んで……私の中を、かき乱して……
わたしを、ぐちゃぐちゃにして……」
ぼたぼたと、涙が落ちる。
押し殺してきた心が、音を立てて崩れ落ちていく。
「……怖いんです。
……こんなに誰かに近づかれるのが、
こんなに心を見られるのが……怖いんです……っ」
声が震える。
小さく、必死に唇を噛む姿が、あまりにも壊れそうで。
ゾムは、動けなかった。
抱きしめたい。けど、それは違うと、今だけはわかった。
「……ショッピ」
「お願いです……これ以上、私を壊さないでください……
私、もう……本当に、自分がわからなくなる……」