テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
🌙月見🌿
#狂気
892
乾いた音。
「……チッ」
苛立った舌打ちが、部屋に落ちる。
灰谷竜胆 が、ソファに深く腰掛けたまま、眉を寄せていた。
視線の先。
南暁音。
今日も、変わらない。
壁際。
無表情。
無反応。
「……なんなんだよ、あれ」
吐き捨てるような声。
「さぁ?」
軽い声が返る。
灰谷蘭 が、楽しそうに笑っていた。
「いいじゃん、面白くて」
「面白くねぇよ」
即答。
「気味悪ぃだけだろ」
その言葉に、
暁音は反応しない。
「……」
ただ、そこにいる。それが、余計に気に食わない。
「おい」
声をかける。
「……なに」
変わらない声。
「こっち来い」
数秒の沈黙。
それから、歩く。
目の前で止まる。
「……なに」
同じ言葉。
同じ温度。
「……は、」
竜胆の眉が、ぴくりと動く。
「その言い方、やめろ」
「……?」
意味が分からない、という顔。
「気に入らねぇんだよ」
「……そう」
どうでもよさそうな返事。
その瞬間。
「っ、」
竜胆の手が、暁音の腕を掴んだ。
ぐっと、強く。
普通なら、痛みで顔が歪む。
それなのに──
「……」
何も変わらない。
「……なんでだよ」
思わず、声が低くなる。
「痛ぇだろ」
「……わかんない」
即答。
間すらない。
「……は?」
「痛いって、なに」
その言葉で、
竜胆の手が、わずかに緩んだ。
「……お前」
言葉が、続かない。
目の前のそれが、
“理解できないもの”に変わる。
「……なんで、そんなになってんだよ」
ぽつり、と漏れる。
暁音は、答えない。
ただ──
「……任務?」
それだけ。
その一言で、
竜胆の中で、何かが引っかかった。
苛立ちじゃない。
嫌悪でもない。
もっと別の、
“説明できない違和感”
「……チッ」
手を離す。
「もういい」
視線を逸らす。
だが。
完全には、離せなかった。
ちらり、と見る。
暁音は、もう元の場所に戻っている。
何もなかったみたいに。
「……なんだよ、それ」
小さく、呟く。
理解できない。
なのに。
なぜか──
“放っておけない”
その感覚だけが、残る。
コメント
3件
うわあ、第8話、めちゃめちゃゾワッとしました……。暁音さんの「痛いって、なに」の返し、あれがもう全てを語ってるというか、無意識の怖さが滲み出てますね。竜胆くんが"理解できないもの"を見た時の困惑と、それでも目を離せなくなる感じ、ものすごくリアルで苦しくなりました。二人の距離感がどう変わっていくのか、気になって仕方ないです……!