テラーノベル
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「と、取り敢えずっ、へやに戻ろうか…」
声を裏返しながらも花魁坂が平常を保とうと言えば、全員が無言で頷いた。
(よし、帰ろう…うん!!!)
「…あれって…」
「「「幻覚」」」
「全員で見たのに?」
「「幻覚」」
(体力テスト後の花魁坂達の対応は、確かに厳しいとは言えないが…)
(膝枕…そう言えば柔らかかったな…保健室の先生と話す声も優しげだったように思うし)
(クソ教師は、クソ教師でしかねぇだろ…あのアドバイスは…嫌な訳じゃねーけどよ…)
(あの冷たい目、女子だったら興奮するんだけどねぇ〜…優しくはないけど…厳しいだけじゃないのか?)
(にゃんとも言い難い性格だよなぁ…もし優しいんなら、俺が化けの皮剥がしてやりたいにゃぁ…)
(強大な壁であることは事実だ…言葉も行動も突き放すものが多い。だがこの違和感はなんだ…)
(あの耳も、僕たちに協力させるような動き方も…一ノ瀬先生は何を隠してるんだろう…)
(…厳しいというより、何か別の考えで動いているような…分からん!!)
布団に入りながら目を瞑り、8人はそれぞれ考え尽くす。あの人は何者なのか。
あの人はなんなのか…。
疲れによって重くなってきている瞼に抗いながら、揺蕩う意識で思う。
知りたい。アイツをーー。
食堂で1人朝食を食べていた四季の元に、目が覚めてしまった無陀野が近寄った。
「…!」
「無陀野か…早いな」
「…おはようございます、先生」
声をかける前に箸を置いて振り返り無陀野を見る。
「眠れなかったのか?」
「…!いや、別にそんなわけじゃない」
気遣い程度でもないその言葉がやけに耳に付いたのは、昨日の一言のせいだろうか…。
「朝食食べんなら、取ってこい」
「食べないなら寝てても良いぞ…」
五時半前の時刻を指す時計を見ながら四季は隣にいる無陀野から目を逸らした。
「…食べないのか?」
「何を」
「朝ごはん」
指さされたトレーの中は未だ白米と味噌汁が残っている。そういうことか…と見やる。
「…そうだな」
譫言のように呟きながら四季はふと口に触れた。
「……なぁ、無陀野」
「なんだ」
「……お前らに取って、俺は…」
「…いや、なんでもない」
『厳しい教師か?』そう聞こうとした自分の口を閉じて、残った朝食の味噌汁だけを飲みほして立ち上がった。
この傷はまだ知られてない。縦に裂けた口の傷を。その意味も。
見える場所にある傷は、見慣れない子供にとっては異質で不気味に見えるだろう。
『生徒の前で食事はしない』
月詠達とした約束した日から、己をすり減らそうとも平和にさせようと誓った日から、そう決めた。
「俺は戻る」
「…なぜいつも逃げるようにする」
「なぜ俺らから目を逸らす」
その言葉に四季は歩みを止めた、頭を埋め尽くすのは何故。だけ。
(なんで、バレた…いつだ。いつ尻尾は出さないようにしてきた筈だぞ…)
動きを止める四季に図星だったか…と確信を持ち再度聞く。
「なぜだ?」
「…逃げてない」
「逃げてるだろ…」
「目を見ようともしない」
「一ノ瀬四季、おまえh…」
「無陀野っ!!」
ガシャ!
トレーを思い切り机に置いて、何かに怯えるように四季は無陀野の胸ぐらを掴んで、真っ正面に見た。
「っ!」
「あ、あぁ…ごめん、忘れてくれ」
「みんな起きたら、朝食食って遊摺部に地上に案内してもらえ」
「先生は…」
「俺は先に行ってる、」
「本当に、ごめん」
顔も見せることなく四季は走り去った。
「何か…聞き方を間違えたのか?」
「………」
勢いよく自分の泊まっている部屋に駆け込んで、扉を閉めた。
荒れる息を整えることもせず壁にもたれかかりずり落ちるままに床に座り込んだ。
「なに…してんだよ…俺」
「何聞こうとしてんだよ…」
「ちゃんとしろよ、俺」
震える自分を抱きしめるように腕を抱えた。
「ダノッチおはよ〜」
「四季先生は?」
「先に行ってるそうだ…」
落ち込んでいるような声で言った無陀野に花魁坂は寝起きの頭を覚ましながら、不思議に思う。
「ダノッチ、なんかあったの?」
「一ノ瀬先生を怒らせたかもしれない…」
「ハハッ…ヤったな、無陀野」
鼻で笑った真澄に、
ヤバいな〜と顔を乾いたような笑いを出す紫苑、
マジか…と唖然とする花魁坂、
四季が怒るのか…と驚く馨、
あの無陀野が…とビビる猫咲、
何がったのか不思議そうに首を傾げる印南、
みんなを落ち着けようとハーブティーを入れようとする大我
「朝食を取ったら遊摺部のところに行け…だそうだ」
「ん〜じゃあ、早く行かなきゃだね」
「…そうだな」
内容は短かったんですけれども、入れたかった話。
四季先生の核に触れそうになった無陀野さんが、無意識的防衛反応によって四季先生に喉元を噛みつかれそうになる話です。
題名がなかなか思いつかなかった…
今回の『五斂子』(ごれんし)はスターフルーツの和名です。
花言葉に意味を持たせてみました、よかったら調べてみてください…
コメント
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最高すぎるぅ!