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#白い結婚
夕凪ゆな
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かんな
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#ギャップ
ひより
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ひより
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コメント
1件
みぅです🤍🥀 第1話、読ませていただきました…! 冒頭の花嫁姿のシーン、すごく美しいのにどこか寂しげで、読んでるこっちの胸がぎゅっとなりました。ジェニエルがずっと我慢してきた王妃としての日々と、最後に「捨てられるのはあなたです」って静かに告げる瞬間の強さが、本当に印象的で。 ゼツィオードの登場シーン、あの空気感が変わるところ、好きです。続きが気になります…!
――ああ、私、貴方を捨ててとても幸せよ、セオドール。
その言葉を、胸の奥で静かに噛みしめながら、ジェニエルは鏡の中の自分を見つめていた。
「美しいですわ、ジェニエル様」
メイラードのうっとりした声が、陽光に満ちた控室に溶けていく。
「ドレスが綺麗だから、そう見えるのよ、メイラード」
「いいえ、着る人が輝いてこそドレスは美しさを増すのです」
真剣に訴えるメイラードに、ジェニエルは小さく笑って肯定した。
昔ならメイラードの言葉を否定していただろう。
けれど、今のジェニエルは違った。
この幸福を、もう誰にも譲る気はなかった。
「私はずっと、この日を待ち望んでいました」
メイラードは珍しく目元を潤ませながら仕上げに、唇へ艶やかなグロスを引いた。
チューベローズの濃厚な香りを纏うと、鏡の中には幸福に微笑む花嫁の姿があった。
その時、扉が開いた。
「……ママ」
泣きそうな顔でドレスに抱きついてきたのは、幼い少女だった。
「ターニャ……」
「こら、ターニャ!ママのドレスに皺がついちゃうだろう」
後ろから慌てるような声と共に少年、ロベルトが飛び込んできて妹を叱るが、彼自身もジェニエルを見上げた瞬間、言葉を失っていた。
「……とても綺麗だ、ママ!天使様かと思っちゃった」
「ありがとう、ロベルト。ターニャも、待たせてごめんなさいね」
ジェニエルはドレスが汚れる事も構わずに二人をそっと抱き寄せた。
「お前たちだけ、ずるいぞ……」
メイラードの微笑ましそうな声と共に、低く拗ねたような声が響いた。
「「パパ!」」
三人が振り向いた先に居たのは、ゼツィオードだった。
わっと子供達がゼツィオードに抱き着き、そんな二人を抱えたゼツィオードはジェニエルを真っすぐに見つめた。
「ゼツィ……」
「……とても綺麗だ、ジェニー」
その一言に、ジェニエルの胸が締め付けられた。
――ようやく私は皇后としての全てを手に入れた。
愛しい者たちに囲まれ、ジェニエルは幸福を胸いっぱいに吸い込んで笑った。
それは、これまでの人生で得た全てを肯定するような、満ち足りた微笑みだった。
♢♢♢
侯爵家令嬢ジェニエル・フィンガルドは、幼い頃から王妃候補として育てられてきた。
数多くの候補者の中でも、ジェニエルは頭一つ抜きんでていた。
王家に忠実な家臣を父に持ち、生まれながらの美貌を備えたジェニエルにとって、セオドール第一王子との結婚は、ほとんど定められた未来だった。
歳が一つしか違わないせいか、ジェニエルとセオドールは幼い頃から兄妹のように遊び、年頃になると周囲の貴族たちからも「お似合いだ」と噂された。
そんな関係を築きながらジェニエルは、朝も夕も王妃教育に励み、国母としての努力を惜しむことはなかった。
すべては、国のために。
ジェニエルは幼い頃から完璧であろうと、微笑みに全ての感情を隠して耐え続ける人生を歩んできた。
そして二十歳になったとき。
ジェニエルはセオドールと結婚した。
国で最も美しく、才知に優れた彼女にとって、セオドールとの結婚は彼女の決意が実を結んだ結果だった。
そんな順当ともいえる結婚式を終えて三年。
国の良き母であろうと努力してきたジェニエルに、ひそやかな噂が立ち始める。
『お世継ぎが生まれないのはジェニエル様に問題があるらしい』
その声はどこからともなく現れ、何の傷もなかった王妃像を簡単に打ち砕いた。
ジェニエルには、誰にも知られてはいけない秘密の力があった。
例え侍女であっても知らない、その力を発露したお陰でセオドールと結婚したとも言っていいほど強力な力。
王族の男子は皆、ギフトと呼ばれる異能を持って生まれる。
この国でそれを知らない者はおらず、ギフトを持って生まれる王家を国民はとても敬っていた。
だが、強い力を持つことの代償についてはごく限られた者しか知らなかった。
――ギフトには代償がある
瞳の色が原色に近ければ近いほどその力は強いとされ、必ず異能を持って生まれる代わりに代償として時には生活もできないほどの呪いに苦しめられる。
そんな彼らの呪いを鎮められるのは限られた者達だけ、その中でも相性があったが癒しの力を持つ者は別だった。
――癒しの力
相手の苦しみを全て受け入れる事が出来る器とも言うべき存在。
それがジェニエルだった。
そんな、魔法使いのような力を持って生まれたジェニエルの力に両親は喜んだ。
呪いを鎮められる力ともいえる力を持つ人が少しずつ減り、今では国の管理下で保護され守られる一族の一つがジェニエルの家だった。
力と引き換えに国王のバックアップを受け、国の重鎮を担う一族の中でジェニエルだけがセオドールに近い年齢で力を持って生まれた。
しかし、ジェニエルの力は未熟だった。
呪われた王の苦しみを解き放つことが出来る唯一の令嬢として期待されたものの、ジェニエルの力は少し使っただけで動けなくなるほどに代償が大きかった。
月に一度。
決まった時間に行われる妊娠検査は、今回でとうとう三十回目を迎えようとしていた。
白い天井を見つめたまま、ジェニエルは自分のお腹に手を当てた。
どれだけ撫でても一向に膨らむ兆しのない、薄いお腹がそこにあった。
「陛下、今回も……」
結果を告げる医者が重い口を開くと、ジェニエルを見下ろすようにして立っていたセオドールの小さなため息がおちた。
言葉にしなくとも、彼の思っていることは手に取るようにわかる。
――また、駄目だったのか。
そんな、ジェニエルに期待すらしていないとわかるため息だった。
「ジェニエル、君ももう限界だろう」
「……そうですね」
静かに返したジェニエルの声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
そんなジェニエルの態度にセオドールは一瞬だけ言葉を探すように視線を落とし、そして酷く緊張した表情をすると決めたように口を開いた。
「君は王妃として役に立たなかった。離婚してくれ」
その瞬間室内の空気が、凍りついた。
「陛下、それは……」
医者が非難の声を上げかけた。
慌てた表情をしたセオドールが止めるよりも先に、ジェニエルはゆるやかに首を振って医者の言葉を止めた。
3年間。
子供が産まれなければ、原因があるほうが去らなければならない事はこの国の決まりでもあった。
「……よろしいかと存じます」
穏やかな声だった。
まるで最初からそうなることを予め予想していた声で、ジェニエルは諦めにも似た微笑みを向けた。
「私達の間に子供が出来ないのであれば……仕方のないことです」
その言葉に、先ほどまで緊張で強張っていたセオドールの肩から力が抜けた。
「……わかってくれたか」
ほっとしたように息をつくその姿に、ジェニエルは内心でセオドールに語りかけた。
――最後まで、貴方が守りたいのは私ではなくて貴方自身だった。
出会ってからジェニエルは、セオドールと誰よりも長く共に過ごした。
彼が守りたいのは、王としての自分だけ。
世継ぎをもち、先王から託された国を治める。
形さえ保たれていればそれでいいというセオドールの考えは国政にも反映され、それはジェニエルに対しても変わらなかった。
「もうお話は終わりましたか?」
「……オリヴィア」
突然飛び込んできたのは、お腹が大きく育ったオリヴィアだった。
彼女は、当然のように部屋に入って来くると見せつけるようにセオドールの腕を抱いた。
ジェニエルを憐れむような表情を浮かべて、ベッド脇に立つと、ぽろぽろと涙を零し始めた。
「……お子様のこと残念でしたね、ジェニエル様」
「……ええ」
「でも、安心してください。オリヴィアが立派なお子を産みますから」
無邪気にそう言ったオリヴィアは歩み寄ってきたセオドールを見上げて微笑んだ。
自然な動作で、その腕に触れる。
セオドールもまた、それを拒むことなく受け入れた。
寄り添う二人の姿は、あまりにも親密だった。
「荷物は、いつまとめさせればよろしいでしょう」
ジェニエルの問いにセオドールは少しだけ驚いたように目を瞬かせ、それから口を開いた。
「いつでも構わない。君の気が落ち着いたときで――」
その言葉の途中で。
くつくつと、低い笑い声が室内に落ちた。
「……すまない。つい、面白くて」
そう謝罪を落として入ってきたのは、一人の男だった。
彼はゆっくりと歩み寄り、ジェニエルの傍に立った。
「……ゼツィオード様」
ジェニエルは安堵したような声で彼の名前をよぶと、セオドールの表情が強張った。
自分の従兄であり、この国一番の剣豪が呼ばれてもいないのになぜここに居るのかと戸惑っている。
「お前は、また思い違いをしているようだ」
ゼツィオードはセオドールに鋭い視線を向けた。
それから、身体を寄せ合って立つ二人を馬鹿にしたように目が眇められる。
その視線にセオドールは、嫉妬が滲んだ目でゼツィオードを睨みつけた。
「何が言いたい、従兄上」
「それは私の口から語るより、彼女に聞けばいい」
ゼツィオードはジェニエルへ目配せし、静かに微笑みをむける。
ジェニエルはゼツィオードの支えを受けながらゆっくりと身体を起こし、ベッドの上からセオドールを見上げた。
その瞳に宿るのは、これまでと同じ穏やかな光。
けれど、その奥には隠し切れない意志が見えかくれしていた。
「ここを出ていくのは……私ではございません」
一拍。
空気が張りつめる。
「――捨てられるのはあなたです、セオドール」