テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
紅
650
330
#糸師凛
りー
242
24
十四層で再会した探索者サークルのパーティーを追いかけるように十五層へ向かう。二匹居たら片方ずつ倒す、といったようなやり方で進んでいるため、どちらかのパーティーだけが戦うということもせず、うまくモンスターの譲り合いが出来ている。
本当は全部向こうに譲ってもいいぐらいなのだが、せっかく譲ってくれるというのならばありがたく……というところでモンスターを狩ってはたまに出るドロップ品を背中のバッグに入れて足しにしていく。これならないよりはマシだし、せっかくならスキルスクロールの一つでも出てくれればいいのに。
……とそういえばトレントが何のスキルスクロールをくれるかは調べてないな。今度調べておこう。さすがに木に擬態するスキルとかはなさそうだが、どんなスキルをくれるかは興味がある。家に帰ったらゆっくり調べることにしよう。
そのまま十四層を通り抜け、十五層へ到着したところで探索者サークルのパーティーとはお別れして、専用ダンジョンよりは広めの草原に出る。あちこちにまるでアカネのようにふよふよと浮いているケットシーに喧嘩を挑む。と言っても向こうが気が付いたらこっちが先にマジックミサイルを撃ち込むだけのお仕事なので、たやすい。
彩花も火魔法を派手にぶっ飛ばしてはケットシーを黒焦げにしてそのまま黒い霧に変えていく。あまり体力的な物を使わなくて済むのはケットシーの楽な所かもしれない。体力仕事なのはケンタウロスと戦う時かな。今日の所は二十層まで潜り込んでいくつもりもないし、この大荷物を背負ったまま二十層までたどり着くのは難しいだろう。
適当に一時間ぐらい時間を潰してから帰るとするか……と、その前に大事なお弁当タイムだな。アカネもどこからどう回ってきたかわからないが近くまで帰ってきたため、そのまま食事に入る。今日のご飯は甘い卵焼きとハンバーグと、彩りとして添えられたミニトマトとブロッコリー。そして硬めに詰められたご飯。量も質も完璧なことは、アカネが証明しているので後はこれを美味しく頂けばいいだけだな。
うむ、美味しい。冷凍ではない手作りハンバーグなんていつ以来だろう。自分で作っていた気はするが、だんだん面倒になってきてやらなくなってしばらく経つ。大学生になって彼女の手作りハンバーグを食べられることになろうとは誰が考えつくだろうか。それだけでも幸せでいっぱいだ。
卵も……ちゃんと甘い。塩と砂糖は間違えてないようだ。そして、完全に火が通っておらず半生っぽいところが残っているのもまたいい。ブロッコリーもしっかり茹で上がっているし、ミニトマトはちゃんとトマトしている。
「なんかじっと黙ってるけど、焦げとか焼けムラとかあった? それとも玉ねぎが生だったとか、卵が砂糖じゃなくて塩だったとか……」
「大丈夫よ、幹也はただ自分の幸せに酔いしれてるだけだから」
美味しいなあ。アカネが代わりに感想を伝えてくれているみたいだからひたすら味わいに集中していられるのもいいところだ。そんなことを考えていたらアカネが飽きれた様子で俺をなだめに来た。
「こら、感想を外注しないの。ちゃんとお礼は自分で言いなさい。私の口から言うよりも、直接伝えられた方が何倍も嬉しさが込み上げてくるというものよ」
「一生俺の近くで飯作ってくれ。全部作れとは言わないし自分でもちゃんと作るけど」
「この男……一足飛びにプロポーズしやがったわね」
彩花を見ると顔が完全に真っ赤で身体の動きもぎこちない。どうやら俺のセリフが直撃したらしい。
「わた、わたしで良ければ……」
耳まで真っ赤で一気に茹で上がった彩花をアカネが落ち着かせている。この構図は珍しいな。バクバクとお弁当を平らげ、米の一粒脂の一滴まで吸い上げた後、弁当箱にきちんと箸を仕舞い、バッグの中に納める。
彩花はまだ夢の世界に行っているらしい。
「一生ってことは、アレも使って色々頑張ってくれるってことよね……そこまでされたら私どうなっちゃうのかしら」
「落ち着きなさい彩花。それはダンジョンのど真ん中で想像して良いピンク色の夢ではないわ」
どうやら彩花の中はかなり盛り上がっているらしい。わっしょいがわっしょいしてわっしょいなことになって、俺も彩花も一緒になってわっしょいしているのだろう。これは……明らかに俺の言葉の選び方の間違いか。いや、間違ってはいないとは思うんだが、ちょっとかっとびすぎた、と反省するところなんだろうな。
「全くよ。こんなところでプロポーズするなんて、吊り橋効果もいいところじゃないの。でもまあ、私としてはいつまでもこの関係で続いてくれる方が管理がしやすくていいわね……と、お、お? おお? 」
突然アカネが強く発光し、体のサイズが大きくなる。服のサイズも体のサイズも、彩花と同じぐらいにまで成長したアカネの姿がそこにあった。
「……幹也の一言のおかげで彩花が盛り上がって、その幸せオーラの余波でここまで大きくなったみたいね。どう? 幹也。私、色っぽくなった? 」
アカネがくるりと回って、体の肉づきの良さと彩花より大きそうな胸を揺らして俺を誘惑してくる。
「それで触れたら浮気もできるようになるかもしれんが、そういうわけじゃなさそうだからな。ただ、目の保養にはなる」
「……たしかに。やっぱり触れてなんぼよね」
アカネが自分の胸を自分で持ち上げて揺らして見せるが、俺が手を伸ばすとスカッと手をすり抜けてアカネの胸を通り越して、彩花の胸に手が当たった。
「おっと、すまん」
「ッッッッ! さすがにこんなところではちょっと勇気がいるわ。もう少し考える時間を頂戴」
まだ彩花はあっちの世界に行ってる最中らしい。もしかして、アカネが成長したのにも気づいていないのでは? とりあえず彩花を正常に戻すために苦心してみる。
「彩花、これだーれだ」
「誰ってアカネさんに……誰? 」
「流石に誰かぐらいまでは分かるでしょ。それとも、髪も一気に伸びたからわからなくなってるのかしら? 私の信者に目が弱い人はそんなにいなかったはずだけどね」
アカネの髪が腰まで伸びて、無造作ウェーブヘアーを形作っている。前髪は右から左に流し、自然に伸ばしているように見える。
「前髪はもう少し梳いた方がいいかな。さすがに多すぎるか長すぎるように見える」
「うーん……こんな感じ? 」
アカネが自分の髪形を思い浮かべて、前髪をその通りの形にしていく。どうやらヘアスタイルは自由自在にできるらしい。
「便利ね、思っただけで自在にできるのは」
彩花が素直な感想を言う。彩花も髪形は割と素直に作っているタイプだが、彼女なりに苦労はしているのだろう。
「これでもちょっとは神力使うから、日替わりで髪形を作るとかはできないんだけど……とりあえずこんなもんで良いでしょう」
「普通はコテとかカーラー使うのに……結構手間かかるのに一瞬だなんて羨ましいわ」
彩花がアカネの簡単髪形セットに文句を言っている。その髪形セットの原因になった大量の神力補充を行わせた張本人が言っても説得力はあまりない。
「さて、じゃあ帰るか……またうるさいところを通ることになるが、アカネはもう少しダンジョンの中の様子を見ていくんだろ? こっちは先に帰るよ」
「そうね……まだ十八層ぐらいまでしか詳しく観察してないから、二十層まできっちり見てから帰ることにするわ。そのうち戻るから、私のことは気にしなくていいわよ」
アカネの了承も取れたところで、二人荷物を背負ったまま帰る。十五層でお弁当を食べるだけで帰ってきたただのピクニックだが、背中の荷物の量はそれを物語るでもなく、激戦の後の荷物のような雰囲気さえ漂わせていた。ここに合計三百万超の戦利品が入っているのだ。しかもこのダンジョンで取ったものではない奴が。
さっきのサークルメンバーに知られてしまっては元も子もないが、彼らはそれなりに十五層で戦ってから戻るはずなので、タイムラグは存在するはず。それを逆手に取って早く帰ってとっとと換金してさらばとっつあ~んしようって寸法だ。
十四層へすぐさま戻り、トレントをマジックミサイルでバキボキに折りながら戦っていくと、魔石と樹液をくれたのでありがたく今日の収入の足しにしておく。そのまま十三層へ上がって耳栓をし、モンスターが近づくのを察知してそっちへ先に攻撃をすると、一方的なバブルフロッグの虐殺シーンとなった。
流石大学ダンジョン、自分達しかいないとこんなに数があふれてくる物なのか。常に二匹体制で現れてはわめき散らし、こっちが気をやられた瞬間にべろりと舌を伸ばしてこっちを絡め取ると、そのまま口の中へ運ぼうとしてくる。
こっちは耳栓をしていてその手は通じないので、伸びてきた舌を烏丸で斬り落とすと、痛みで引っ込んでいく舌に添わせるように雷魔法を発射して感電させる。感電に弱いようで、今の雷魔法のレベルなら一撃で倒せるバブルフロッグを次々に焼却していく。
十三層を抜けた後、十二層でスケルトンメイジ相手に最速の斬撃でことごとくバラバラにしていく。彩花も同様の動きができることが確認できたので、ここも一方的に戦えることが確認できた。むしろ、スキルスクロールを集めるのが目的なだけなら、それぞれがソロで戦っていってもいいぐらいだろう。
そのぐらい、スケルトンメイジ相手に戦うことに慣れたし、【体捌き】と【剣術】も背中を押してくれるだけの効果を得られている。やはり、基本は忠実にこなしておろそかにしてはいけないってことだな。
十一層のホブゴブリンは威圧で足止めしてその間にズバッと切って終わり。これで運が良ければ6000円ぐらいの価値を生み出してくれる良いゴブリンだ。間に何匹居てくれてもいいが、ドロップ品をくれないのはただのホブゴブリンなので、ドロップをきっちり落としてくれる訓練されたホブゴブリンを望みたいところではある。
十層まで帰ってきた。後もう少しでおしまいだ。シャドウウルフの数も今日は少ない。さすがに日曜日、ということだろう。昼から探索に精を出す人もいるのか、十層はなんだか賑やかだ。と、行きにサークル募集のお知らせをくれたのと別の人が同じ紙をくれた。もう持ってます、なんて言い出すとなんで持ってる人がこんなに早く帰ってきてるんだろうと不思議に思われるかもしれないので、素直に受け取っておく。さ、一層に戻って退場手続きをして、換金タイムと行こう。
コメント
1件
うわああああ第259話! もうこのタイトル見ただけでニヤけるわww 「行って帰るだけ」って言いながら、しっかりプロポーズしてる幹也さんが最高すぎるだろ! ダンジョンの中でお弁当食べながら「一生俺の近くで飯作ってくれ」って……しかも彩花が耳まで真っ赤になって「わた、わたしで良ければ……」ってなるの、尊すぎて心臓持たねえよ! その流れでアカネまで成長しちゃうのも、神力の設定が生きてて面白い。 トレントをバキボキに折りながらの帰り道とか、バブルフロッグの舌を斬り落とす戦闘もテンポ良くて気持ちいい。そして三百万超の戦利品を抱えて早く換金しに行くってのも、探索者としてのリアルな感覚があって好き。 大正さん、今回は緩急しっかりしててめっちゃ面白かったです! 次は換金後の展開が気になるなあ~