青年と旅人は海沿いを歩いた。対面にアジア大陸が現れる。この辺からがボスポラス海峡だ。
足元にサッカーボールが飛んできた。隣を歩く旅人の指す方を向くと、トルコ人少年が手をあげている。青年はボーリングを投げる要領で転がすと、ボールは平らな面をまっすぐ転がり、地面の小さな石にぶつかってはずみ、意図せぬ方向に向かった。少年は走って取りに行く。青年のゴメンという声は届かなかったが、少年のありがとうございますという声は海風に乗って届いた。
雲が太陽から離れていく。シャツの背中が汗ばんだ。ジャケットを脱ぐ。
「でも、」隣に歩く旅人は言った「一体誰が最初に、地球が丸いって気づいたんだろう」
「それなら知ってるよ」と青年は言った「古代ギリシャの、俺と同じ名前の哲学者だよ」
青年は振り返って、マルマラ海を指した。
「彼は、あれを見たって聞いてる」
水平線に浮かんでいた突起物が、今はタンカーのアンテナ塔だとわかる。
「上から出て来るんだ」
旅人が、首をかしげている。
あれが、地球が球面な最初の可能性だったようだ、もし丸くなければあんな出方はしないからと青年は付け加えた。
「君は、文明人の端くれだね」と旅人は言った。
遠方にガラタ橋が現れ、サバサンド屋らしき小船が揺れている。
「あそこからアジア側へ渡ろう」と青年は言った。
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