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指定された会場は広くて、人が大勢いて。
「うわ、これは逸れるな。」
「逸れたら、メール入れて出入り口で待つ!」
そう決めて、会場へ繰り出した。
アイツ、真っ先に迷いそう。
そう思ってたのに、俺と元貴の側から、アイツがいなくなることはなかった。
「大森くんも若井くんも未成年でしょ?僕が保護者の代わり。」
ニコニコしながら、言われても。
保護者の方が危なっかしいんですが。
「もー、りょうちゃん、元貴でいいよ!」
「…もときくん?」
「お、君らが話題のバンドか。まぁ、どうだ。」
どっかのおっさんが、俺らに酒を勧めてくる。
「未成年ですけど、俺ら。」
「そんなの、気にするな。」
いや、俺らは気にしますって!
未成年飲酒で潰されたバンド、幾つあると思ってんですか!
俺らとおっさんの間に、すっと入った人がいた。
「二人は未成年なんで、僕が飲みますね!」
「りょうちゃん。」
ぱちんと俺らに下手くそなウインクをして、そいつはグラスを受け取った。
「君の方が未成年みたいじゃないか。」
「やだなぁ、これでも僕、二十歳なんですよー。」
受け取ったグラスを一気に空けて、おっさんにグラスを返す。
「二人分なら、もう一杯いきます?」
「おー、いい飲みっぷりじゃないか。」
そこらのテーブルからもう一杯グラスを取って、押し付けられたけど、何食わぬ顔で、そいつはそれも飲み干した。
「これからもよろしくお願いします。」
にっこりと笑いかけられて。
おっさんは満足げに他の所へ向かう。
「りょうちゃん、大丈夫なの?」
「僕、お酒は強いから、ぜーんぜん平気。こっから先は、もときくんに質問なんだけど。」
「元貴。『くん』要らないよ。」
「じゃあ、もとき。プロデューサーとして、このバンド、売りたい?」
「そりゃ勿論。」
売れたくないバンドなんて、あるんだろうか。
「じゃあ、少しは我慢できるね?」
人差し指と親指で表現した『少し』はだいぶ大きかったけど、元貴は頷いた。
「じゃあ、お兄ちゃんに任せなさい!売り出しに行ってみよー!」
「待てよ、誰が誰だか分かってんのかよ。」
こんなに人がいるのに。
俺の問いかけに、そいつは笑った。
「マネに聞いといた!あそこにTVの重鎮プロデューサーがいて、あそこに売り出し中の映画監督がいて、あそこはアニメ会社の社長、あっちはドラマの脚本家。まだまだいそう。」
…なんだよ、その記憶力。
おかしいだろ、何で会ったこともないヤツを覚えてられるんだよ。
「若井くんも、喋らなくてもいいから、挨拶だけはしてね?」
俺らの手を握って。
そいつは近くにいたおっさんへ突撃していく。
「手っ!手、離せ!」
子供じゃねぇよ!
「迷子になったら、困るじゃーん。こんばんは!」
「おお、こんばんは。」
「僕たち、売り出し中のバンドで…。」
にっこり笑って、迷うことなく。
そいつはそこのおっさんに話しかけた。