「凪野。あなたに一人での初仕事を与えます」
「え、え?」
突然本部に呼び出されたんですけれど…リリーさん急になんですか?
「そろそろいいかなって思ったのよ。えーっと、あなたがここに入ったのが…」
「二ヶ月前の、4月です」
今は6月だから。
「そろそろかなぁってね…」
まあ確かに。俺と同時期にこの組織に入った水梨ももう一人で仕事をしてるって言ってたな…
まああっちは部類が違うけど。
「わかりました。何をすればいいんですか?」
「えーっと…はい。ここに書いてある人を殺すこと。いいわね?」
「殺すんですか?」
それはちょっと嫌だな…一般の男子高校生が殺人事件を起こすなんて…
「なぁにビビってんの?この組織は人々の裏で人を殺しているの。でもこいつらは決してなんの罪もない一般人ってわけではない。この世界に必要のない人間よ」
「…」
やるしかないのか…
「わかりました。頑張ってみます」
「うちはイポクリジーアとは違うから…」
「…?」
「ううん、なんでもないわ…」
そういえば、10月にイポクリジーアが攻めてくる…、って言ってたような…?
でもイポクリジーアっていい人たちが集まる組織だよね?なんで?
よくわからんなぁ…
「えっと…わあ、随分と大きな屋敷だなぁ…」
念の為顔を見られないように黒いパーカーを着て、帽子をかぶっている。ちょっと怪しい人みたいなんだけど…
まぁ…ちゃんとインターホン鳴らそう。誰かさんみたいに急に破壊魔法で扉破壊はしたくないもん。
ピンポーン
「すみませーん、誰かいませんかー…?」
応答なし。どうしよう。
「どちら様ですか?」
誰かいたっ!
「えーっと…あの、ここに住んでる人に用があって…中に入れてもらえませんか…?」
俺だったらこんな人絶対にいれないけどね!!
「でも、当主に確認をしないと…」
「でも、その人に用もあるし、何より…トイレに行きたいんです…」
よしこの作戦で行こう。
「トイレを貸してくれるだけでもいいんですけど…」
「…わかりました。どうぞ」
「ありがとうございます!」
門が開いた。どういう仕組みなんだろう。まあいいや。
「失礼します…」
大きな扉を開けたら、目の前に大きな階段。下は赤いカーペットが敷いてあって、外国の大きな屋敷みたいだ。
「誰もいないな…」
「あ、トイレまでご案内します」
「うわっ!」
あ、この人…ターゲットの一人だ。
えっと、ターゲットはこの人と当主だっけ。他の人も邪魔になるようなら殺しておけと…言われたな。
「あの…」
「どうかしましたか?」
「ごめんなさいっ!殺人魔法〈モルト〉」
「ぐっ!!」
あああ…やっちゃったよ…
本当にごめんなさい!!あとは当主の人…奥にいるのかな…俺はひたすら走り続けた。
「何をしているのかな?不審者の少年」
「!」
この人が、当主…
すごいお爺さんだ。髭もすごいし、頭は真っ白。でも着ているスーツだけは、とても真新しい。
でも。
「本当にごめんなさい!!殺人魔法〈モルト〉!!」
「なっ!やはりお前、あちら側の…人間…か…」
当主は死んだ。この屋敷には、当主とさっきの人しかいなかったようだ。余計な血を流すことにならなくてよかった…
さっきの相手は、ただの人間だった。魔法を使って対抗してこなかったし。リリーさんも、俺が初めての一人での仕事だったから、簡単な仕事を選んでくれたんだな…
それは嬉しいけど、もうやりたくない…
「それよりさっさとここから出ないと!!」
俺はびゅーんと勢いよく屋敷から出ていった。