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20
あまね🍡💠
75
放課後。
朝霧湊は担任教師に呼び止められた。
「朝霧、少しいいか?」
「はい。」
湊は足を止める。
「職員室に来てくれ。」
突然の呼び出しだった。
何か問題でもあっただろうか。
心当たりはない。
湊は首を傾げながら職員室へ向かった。
職員室。
教師に案内された席には、一人の男が座っていた。
短く整えられた髪。
鋭い目つき。
しかし、その表情は不思議と落ち着いている。
「朝霧湊君だね。」
男が口を開いた。
「はい。」
「私は日下部隼人。」
「国の育成プログラムで教官をしている。」
湊は思わず目を見開いた。
輝羅が通っている育成プログラム。
その教官がなぜ自分に会いに来たのだろう。
「座ってくれ。」
日下部に促され、湊は椅子に腰掛けた。
しばらく沈黙が流れる。
先に口を開いたのは日下部だった。
「単刀直入に聞こう。」
「君は本当に能力を持っていないのか?」
湊は苦笑した。
何度も聞かれてきた質問だった。
「はい。」
「発現していません。」
日下部は資料へ目を落とす。
そこには検査結果が記されていた。
異常なし。
能力反応なし。
前例なし。
世界で唯一の無能力者。
「不便ではないか?」
日下部が聞く。
湊は少し考えた。
「不便なこともあります。」
「でも、それが普通なので。」
日下部は何も言わない。
ただ静かに聞いていた。
やがて日下部は一枚の資料を取り出した。
能力物流事故報告書。
湊はすぐに思い出した。
アリスを助けた日のことを。
「この事故だ。」
「なぜ飛び出した?」
日下部の視線が湊へ向けられる。
「助けなきゃと思ったからです。」
即答だった。
まるで当たり前のことを言うように。
しかし日下部は眉をひそめる。
「それだけか?」
「はい。」
湊は頷いた。
「目の前で女の子が危なかったので。」
「助けなきゃって。」
日下部は言葉を失う。
能力者なら危険を計算する。
成功率を考える。
自分の能力で助けられるか判断する。
だが湊は違った。
考える前に動いた。
ただ助けたいと思った。
それだけだった。
「朝霧。」
日下部が静かに呼ぶ。
「はい。」
「君は変わっているな。」
湊は困ったように笑った。
「よく言われます。」
その答えに、日下部は小さく息を吐いた。
そして立ち上がる。
「今日はありがとう。」
「もう戻っていい。」
「はい。」
湊は頭を下げ、職員室を後にした。
一人になった職員室。
窓の外では夕日が校舎を赤く染めている。
日下部は事故報告書を見つめた。
そこには朝霧湊の名前。
世界で唯一の無能力者。
能力を持たない少年。
しかし。
今日の会話で感じた。
能力者たちとは違う何かを。
日下部は静かに呟く。
「朝霧湊……」
そして資料を閉じる。
「彼は何を持っている?」
窓の外へ目を向ける。
「能力ではない何かを。」
夕日だけが静かに輝いていた。
第九話 違和感 完
コメント
1件
あらら、無能力ってだけでここまで注目されるんだ……。でも湊くん、別に卑下するわけでもなく「これが普通なので」って言い切るところ、すごくしっくりくるな。助ける前に計算しないって、日下部さんから見ると異質なんだろうな。能力以外の“何か”って伏線、どう回収されるんだろう。次が気になる。