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リオンが来客だと通されたのは昨日ベルトランを通した会議室で、ドアを開けて中で不機嫌そうに待っている人物を見た瞬間、腹の中に冷たい何かが染み渡ったことに気付く。
「……兄貴」
「フェリクスが誘拐されたというのは本当なのか!?」
客というのは、いつも敏腕社長の風格を漂わせているが今朝はそんな姿など構っていられないといった風情のギュンター・ノルベルトで、会議室に通されて待っている間も苛立っていることを示すようにデスクを爪で叩いていた。
そのギュンター・ノルベルトの声に無言で頷いたリオンは、ニュース速報などで見ただろうがその通りだとも告げてギュンター・ノルベルトと向かい合うように腰を下ろす。
「何故だ?」
一介の医者が何故誘拐されるのだという昨日イングリッドも聞いてきた疑問に頷くと、腿の上で拳を握って顎を引く。
その時コニーが失礼します、自分も同席しますと声を掛けて入ってきたためギュンター・ノルベルトが視線だけで人を殺せそうな強さでコニーを睨むが、表面上はそれを受け流して事件について少し説明させて貰いますと断りを入れ、リオンが口を開く前に説明を始める。
「二年前の事件をご存じですか」
「ああ。元刑事の不祥事だろう?」
「はい。その時、組織の責任者の連絡先や誘拐同然に連れてきた少女達の人数や名前を記した手帳がありました。それを持ってきてくれたのがあなたの弟の……ドクでした」
その際、手帳を調べている時に元刑事のジルベルトも同席していた事、責任者だった男が数日前拷問を受けたと思しき亡くなり方をしており、その遺体が発見されていたこと、クリニックでフラウ・オルガが襲われて負傷した際に二年前の恩を返しに来たと男が言っていたことからあの事件でドクがジルベルトに逆恨みをされたと判断し今行方を追っていると伝えると、リオンが歯を噛み締めて震える拳でジーンズを握りしめ、ギュンター・ノルベルトが普段と比べれば乱れている前髪を掻き上げて握りしめる。
「……フェリクス……!!」
誘拐された弟を思う兄にコニーがなんと声を掛けるべきか思案するが、お前と付き合っていなければこんなことにはならなかったのにとの呟きに目を見張り、感情を暴発させるのを何とか堪えているリオンを気遣って見つめると、その通りだと歯を軋ませながら不明瞭な言葉でリオンが返す。
「あんたの言うとおりだ。俺と付き合わなければオーヴェはこんな事件に巻き込まれることもなかった……!」
だから俺は俺なりに責任を取るつもりだし出来る事からやっていくつもりだとデスクを殴りつけつつ己の決意を告げたリオンを呆然と見つめたコニーは、ギュンター・ノルベルトが目を強く光らせた後口を閉ざしてしまうが、開いた時には諦めの溜息を零したことに目を瞬かせる。
「……そうお前だけを責めることが出来ればどれほど楽になれるだろうな」
「兄貴……」
ギュンター・ノルベルトとて馬鹿ではないのだ。リオンがどんな思いでそれを告げまたコニーがどのようなことを心配してリオンの代弁者になっているのかも見抜いていたし、そもそもウーヴェがその手帳をどのような思いから警察に持ってきたのかなども分かっていた。
ただ分かっていてもどうしても口にしなければ己の気が済まないことと気持ちの切り替えが出来ないことを、社長としてのギュンター・ノルベルトしか知らない者からすれば呆然としてしまうほど弱々しい声で告げるともう一度溜息を吐いて席を立つ。
「朝から捜査の邪魔をするような行動を取ってしまったな。それについては謝罪させて貰おう。……被害者の家族として一日も早いあの子の救出と犯人の逮捕を願っている」
警察に何をしているのだ、不祥事を起こした時に何故もっと力を入れて捜査をしなかったのだと詰ることも出来るはずのギュンター・ノルベルトだったが、それをするのではなく逆に己の取り乱した態度を詫び、後は頼むと言えるだけの度量にリオンとコニーがさすがはレオポルドの息子だと感心し脱帽すると同時に、何が何でもジルベルトを逮捕しようと新たな決意を腹に据える。
立ち上がったギュンター・ノルベルトだったが部屋を出て行く様子がないことに首を傾げたリオンは、コニーが先に出ると言い残して会議室を出た後、己の顔をまっすぐに見据えてきたことに気付いて背筋を伸ばす。
「リオン」
「何だ」
ギュンター・ノルベルトと正対する機会があまりなく、昨秋のウーヴェの家族の溝を埋める作業の時は比較的向かい合うことがあったと思い出しながら問い返すと、強く何かを躊躇いつつもそれを振り切ったギュンター・ノルベルトがリオンの頭に手を載せそのまま肩を撫でた手で抱き寄せた事に驚いてしまうが、耳に寄せられた口から流れる声が震えていて、リオンが腿の横で握った拳を開き昨日は母だったが今はその息子の肩に回す。
「……フェリクスを頼む。お前が迎えに来るのをあの子は絶対に待っているはずだ」
だからどうか捜査に集中してくれ、うるさいマスコミに邪魔をされないように父さんが手を打っていると教えられて黙って頷いたリオンは、口ではどれほど文句を言おうとも結局ウーヴェが誰よりも信頼し愛している男を否定できるはずがないとギュンター・ノルベルトが苦笑交じりに呟いたため、昨夜のレオポルドやイングリッドといいどうしてここまで皆優しいのだと泣きそうな顔で問いかけてしまうが、それら全ては偏にウーヴェを愛しているが故だと気付きその期待を裏切らないようにしようと固く決意をする。
「兄貴……必ずオーヴェを迎えに行く。だからもう少しだけ時間をくれ」
「ああ」
後は頼むと告げてリオンの頭にもう一度手を置いたギュンター・ノルベルトは、俺の、俺たちの大事な一人息子を頼むと告げて目を細め、事件が進展すればこの携帯に連絡をくれ、私物の携帯で知っている者は限られている事を伝えて手を上げる。
「分かった」
必ず連絡すると約束し手を上げて立ち去るギュンター・ノルベルトの背中を見送ろうとしたリオンだが、一つ思い出したと声を上げる。
「何だ」
「アリーセがこっちに来るとかなったらさ、止めて欲しいなぁって……」
親父とムッティや兄貴の相手は辛うじて出来るがアリーセには逆立ちしても勝てないと、なんとも言えない顔で頭に手をやったリオンに口の端を小さく持ち上げたギュンター・ノルベルトは、そうならないようにさっさとあの子を見つけ出せと告げ、兄貴に頼んだ俺が馬鹿だったという怒声を背中で軽く受け流すのだった。
男の代わりにウーヴェを鞭打ちナイフで傷を刻んでいく部下、トーニオの様子をリビングの壁に掛けた大型テレビで見ていたジルベルトは、昨日からここで監禁されてからロクに寝る間も与えられず男に犯されるだけではなく、かみ癖や吼え癖のある犬を調教する時のようにリードで首を締められることは死ぬよりも辛い事だろうが、何故こいつは耐えられるんだと不満そうに舌打ちをする。
今もテレビでよく見える位置に移動させられたウーヴェの、涙と唾液と汗に汚れる顔の中心では、決して諦めないと言いたげな強い光を宿したターコイズの双眸が色を失わずに光っているのだ。
もし己がウーヴェの立場だとすれば、今すぐ殺してくれと叫んでいるだろう。
だが、ウーヴェの口に噛ませた玩具を取り除いたときに出てくる言葉は、ジルベルトが思い描くように卑屈になって助けを求めるものや、今すぐ殺して楽にしてくれなどというものではなく、何があっても屈しないことを表すような低い声ばかりだった。
自分は必ず助かる、助けに来てくれるとの思いをそこに読み取ってしまって瞬間的に苛立ちを感じたジルベルトは、脳裏に浮かぶ、彼が信じて待つ子どものような笑みを浮かべた己と同類の男の顔を掻き消すように頭を振る。
「どうした、ルーチェ?」
「……イライラする」
あいつを好きなだけ嬲って痛め付けたかったはずなのに、またそうしているはずなのにどうしてあいつはあんな目をしているんだと、テレビを顎で示しながらビールをボトルごと飲んであの目を潰したいとアルコールに染まった息を吐くが、顔を傷付けることはダメだ、どうしても傷を付けたいのなら他にしろとルクレツィオに諭され、面白くなさそうな顔でタバコに火を付ける。
「ルーチェ。ジル。そうイライラするな」
「……ルーク」
ジルベルトの苛立ちの根源を何となく察したルクレツィオがその横に移動すると宥めるように何度も髪を撫で付け、その手が少し煩わしいのかジルベルトが顔を背け、ルクレツィオが目を細める。
「俺のルーチェ。あの目が気に食わないんだな?」
「ああ」
「分かった」
ルクレツィオの顔に何とも艶っぽい笑みが浮かび、お前のためにあの目を潰してやろうと笑いながらジルベルトの頬を撫でると、テレビ越しに撮影しておけと片目を閉じる。
「ルーク?」
「ああ、そうだ。もしテレビを見ていてやりたくなったらマリオを抱いても良いぞ」
「誰が抱くか」
マリオと言う名の部下がキッチンにいて己の名を呼ばれたことに気付いて顔を出すが、誰が男を抱くかとジルベルトが吐き捨てたため慌ててマリオがキッチンに戻っていき、入れ替わりに新しいビールを持ってキッチンから戻ってきた男は、ルクレツィオがソファにではなくテレビの中に現れた事に気付きジルベルトの顔を少しだけ見るが、新しい薬を飲めと吐き捨てられて逆らえずにビールで流し込む。
ウーヴェを暴行しろと言われてから一体何錠このクスリを飲んでいるのか最早数えられなくなった男はジルベルトから離れた位置に腰を下ろしテレビの中で何が起こるのかを見守るが、地下にいたトーニオが少し疲れた顔でリビングに戻ってきたことに気付きジルベルトが上の部屋で寝てこいと苦笑する。
何が起こるのかを見ていた一同だったが、テレビに映し出されたルクレツィオが人懐こい笑みを浮かべてウーヴェの首輪以外の拘束具を総て取り外すと、その顔がよりはっきりと映し出される位置に連れて行ったため、上の部屋に行こうとしていたトーニオも何が始まるのかが気になりジルベルトの横に座ってテレビを注視する。
キッチンからはマリオが顔だけを出して見ていた為に四対の目が見守る中、ルクレツィオがウーヴェの背後に回り込んでその肩をケージに押しつけるとスラックスの前をはだけ、二人の男に交互に犯されて感覚が麻痺しているウーヴェの尻に己のペニスを突き立て片手でウーヴェのものを握って上下させ始める。
それと同時にウーヴェの耳に口を寄せて何かを囁くとウーヴェの目が限界まで見開かれ、見る見るうちに顔から血色が失われていく。
「あいつ、何を言ったんだ?」
テレビを撮影しているためにスマホの画面に細く見える走査線の奥でルクレツィオが何を言ったのかが知りたくなったジルベルトだったが、ポールを握りしめて何かを堪えるウーヴェの顎を片手で掴んで上げさせ、二人の男が何度も中で射精したために水音がする尻を犯しながらルクレツィオがウーヴェの耳に顔を寄せ、綺麗な綺麗な笑みを浮かべて何かをまた囁きかける。
その直後、ルクレツィオの手が扱いていたウーヴェのペニスがびくりと揺れ、ここに来て初めてウーヴェが射精してしまう。
自らの意志とは別で半強制的なものでそれを笑い飛ばしているらしいルクレツィオの顔を部下や男は直視できずに視線を逸らしてしまうが、ジルベルトだけは画面と携帯の走査線越しに凝視する。
ルクレツィオの腰が一際大きく動いて小刻みに身体を震わせたかと思うと、ゆっくりと抜け出した尻を左右に開いてウーヴェの耳朶を舐める。
ポールをきつく握りながら頭を振るウーヴェのものから滴が落ちていく様をテレビ越しに見たジルベルトは、内股を伝い落ちる赤と白の流れにも気付き、何回分の精液をため込んでいたんだ、ビッチかと呆れたように呟くが、ルクレツィオがウーヴェの膝を折らせて前髪を無造作に掴むと、今度はその口に射精したばかりの己のものを突っ込む。
ルクレツィオのものを口に突っ込まれてウーヴェが噎せ返る様をテレビで見ていたジルベルトは、先程までの苛立ちが薄れたことを示す様にじわじわと笑みを浮かべていく。
さっきは潰したいと思った生意気な目が、ルクレツィオに何かを囁かれて突っ込まれただけで生気を失っているのだ。
「本当にあいつは何を言ったんだ」
鞭を使うでもなくナイフで切るでもない、何か一言二言囁いただけで今まで出来なかったウーヴェの反抗心を奪い去ることに成功したのはどんな魔法の言葉を囁いたからだと笑い、たった今撮影した動画を再生させて確かめる。
テレビの画面だけが映し出されるそれだが、視覚だけの情報と聴覚だけの情報だとどちらがより一層興奮するだろうかと思案し、昨日送りつけた写真よりはどちらも興奮すると結論づけると、暫くして涼しい顔でリビングに戻ってきたルクレツィオをソファの背もたれに頭を反らせて逆さまの世界で出迎える。
「何を言ったんだ?」
「お前が犯されている写真をお前の友人に送ってやったぞって言っただけだ」
そうしたら急に大人しくなったから、もちろん今も撮影している、お前の恋人にはとっておきのものを見せてやろうって言っただけだとも笑うルクレツィオに呆気に取られたジルベルトだったが、確かにあいつはどう思うだろうなと悪魔と同類の笑みを浮かべる。
その二人を恐れるような視線で部下の二人と男が見つめるが、テレビの中ではウーヴェが感情を喪ったような顔で身体を丸めてケージの中で横たわっていて、男が唾を飲み込んでビールのボトルを片手に立ち上がる。
先ほどテレビで見せられたものに刺激を受けたらしい事はその様子からも理解出来たため、もう何をしても大人しく言うことを聞くから鞭やナイフは使わなくても良いぞと笑い、疲れたように溜息を吐くトーニオにも寝てこいと命じるが、あんなものを見せられて大人しく寝られるはずがないと小さな声で恨み言を吐かれてルクレツィオが小さく笑って謝罪をする。
「マリオを連れて部屋に行け」
「分かりました」
その為にもう一人部下を連れてきているんだと笑うルクレツィオにトーニオが立ち上がってキッチンに向かうと少しだけ照れたように足早にリビングを通り抜けて二階の寝室に向かうが、その後を意味の分からない顔でマリオが大人しくついて行く。
「……ルーク、本当のことを言え」
「……バレてたか」
二人きりになったリビングでジルベルトがルクレツィオの横に移動して囁くと、端正な顔に悪魔が取り憑いたかのような笑みが浮かび上がる。
「お前は売るほどの価値がない駄犬だがそんなお前でも欲しいという客がいる。もうすぐ引き取り手がやってくると言ったんだ」
ルクレツィオが楽しげに語る言葉に呆然とその横顔を見つめたジルベルトだが、確かに後数日でスイスから客人が来ると頷き、二度目は何を言ったと促すとジルベルトが飲んでいたビールを一口飲んだルクレツィオの肩が心底楽しいのか軽く揺れてソファにもたれ掛かる。
「客が来れば最後になるから前の飼い主にお前が調教されて賢くなっている姿を見せて褒めてもらおうとも言ったかな」
前の飼い主、つまりはリオンの事だが二度と会うことが出来ないのだからその前に別れをさせてやろう、何と優しい男だと笑うルクレツィオに再び呆然としたジルベルトだが、確かにお前は優しい男だと額を抑えて肩を揺らす。
恋人がレイプされる様を見せつけられた時にリオンはどんな顔をするのかを見てみたい、そしてそれを見せられて絶望するあいつの顔を見るのも楽しみだと笑うルクレツィオに最高だと頷きつつも、あいつはお前が思うような表情にはならないとそっと胸中で呟いたジルベルトは、俺たちは顔を出さないで声だけの出演にしよう、主役には頑張って貰おうかと笑みを深めてテレビを見ると、画面の中で身体を丸めて蹲っていたはずのウーヴェが四つん這いにされ、男のもので再び口を、尻をバイブで犯されている姿が映し出され、どんどんエスカレートしていくなと笑ってしまう。
「どれぐらい薬を飲ませた?」
「ここに上がってくる度に飲ませているからそろそろ中毒になっていそうだな」
スイスから客が迎えに来る頃にはあの男の頭も薬でイカれているんじゃないかとジルベルトが笑うとルクレツィオも笑みを深め、ビールで飲ませているからかなり進んでいるだろうとも笑う。
「リオンとの通話の時にぐったりしていると面白くないからな。少し休憩させるか」
「そうだな……スポーツ飲料でも飲ませておくか」
「ああ、そこにエサを入れるための皿があるからそれを使おう」
ジルベルトの言葉にルクレツィオが賛成しウーヴェに与える食事や水分をどうするか相談するが、言うことを聞くようになってきたグッドボーイにはご褒美の水とエサをやらなければなと笑い、犬のものだと一目で分かるトレイにドッグフードとスポーツドリンクをマリオが降りてきたら用意させると決め、テレビの中で男がウーヴェの腰に新たな縦の傷を刻んだのを確かめるとルクレツィオが休憩だと伝えに地下室に降りていくのだった。
やがて男が疲労を覚えて簡易ベッドに横になった頃、ドッグフードとスポーツドリンクを満たしたペット用の器をマリオが運んできて微動だにしないウーヴェの顔のそばに置いていく。
それを飲めと命じられても指一本動かす気力がなかったウーヴェだったが、脱水症状で弱らせるわけにはいかないとマリオが無理矢理スポーツドリンクを飲ませたため、噎せ返りながらもそれを飲んでしまう。
クリニックで誘拐されてからどれぐらいの時間が経過したのかはウーヴェには分からなかったが、この苦痛がまだ続くことだけは噎せ返る苦しさの中でも理解出来るのだった。