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9
爆発のあと。
山には、しばらく雨音しかなかった。
焦げた木の匂い。
白い煙。
崖下には、折れた木々が散らばっている。
「……っ」
涼架が駆け出した。
「涼ちゃん!」
モトキも追いかける。
ぬかるんだ斜面を滑り降りながら、涼架は必死に辺りを見回した。
「零号体!!」
返事はない。
ヒロトも遅れて降りてくる。
心臓がうるさいくらい鳴っていた。
死んだかもしれない。
そう思った瞬間、胸が妙に苦しくなる。
怖かった。
まだ少ししか話してないのに。
あんなに怖かったのに。
それでも、いなくなるのは嫌だった。
「……あ」
ヒロトが小さく声を漏らす。
崖下の岩陰。
白い髪が見えた。
涼架が駆け寄る。
零号体は倒れていた。
服もなく、全身煤だらけ。
だが。
「……生きてる」
涼架の声が震える。
胸が上下している。
傷もある。
けれど、少しずつ塞がっていっていた。
モトキが息を吐いた。
「よかった……」
そのとき、
零号体の指が、ぴくりと動く。
赤い目がゆっくり開いた。
ぼんやりした視線。
そして
真っ先に涼架を見つける。
『……りょうか』
涼架はしゃがみ込み、そっと額へ触れた。
「無茶しすぎ」
零号体は瞬きを繰り返す。
それから、小さく呟いた。
『……まもれた?』
その言葉に、
モトキとヒロトが固まる。
涼架は目を細めて笑った。
少し泣きそうな顔で。
「うん」
「ちゃんと守ってくれた」
零号体は数秒黙っていた。
それから
ほんの少しだけ嬉しそうに笑った。
初めてだった。
壊れた笑顔じゃない。
ちゃんと感情のある笑い方。
ヒロトがぽつりと呟く。
「……名前、ないの?」
零号体が首を傾げる。
『なまえ?』
「ずっと“零号体”って呼ぶの変じゃん」
モトキも頷く。
「確かに」
零号体はよく分かっていない顔で三人を見る。
涼架は少し考えた。
白い髪。
赤い目。
ずっと暗闇に閉じ込められていた子。
でも今は。
少しだけ、外へ出られた。
涼架はそっと言った。
「……レイ」
零号体の目が瞬く。
「零号の、“零”」
モトキが笑う。
「いいじゃん」
ヒロトも小さく頷いた。
「似合ってる」
零号体――レイは、しばらく呆然としていた。
『……れい』
自分の胸に手を当てる。
『おれ?』
「うん」
涼架は優しく笑った。
「今日から君の名前」
レイは何度かその音を繰り返した。
ぎこちなく。
大事そうに。
『……レイ』
そして
少しだけ照れたみたいに目を逸らす。
モトキがそれを見て吹き出した。
「なんか可愛い」
『かわいい?』
「うん」
『……?』
分かってない顔。
ヒロトまで笑ってしまう。
さっきまで死にかけていた空気が、少しだけ軽くなる。
その時。
遠くでサイレンみたいな音が鳴った。
組織の残党だ。
まだ完全には諦めていない。
モトキの耳が動く。
「……また来るかも」
涼架も頷いた。
「ここにはもう居られないねぇ」
ヒロトが不安そうに聞く。
「じゃあ、どうするの」
雨が少し弱くなっていた。
山の向こうが、うっすら明るい。
夜明けが近い。
涼架は三人を見た。
モトキ。
ヒロト。
そしてレイ。
昔の自分なら、きっと逃げるだけで精一杯だった。
でも今は違う。
守りたいものが増えた。
「……行こうか」
涼架が立ち上がる。
「もう、逃げるだけじゃ終わらせない」
モトキの目が輝く。
狼耳がぴん、と立った。
「それって」
涼架はゆっくり笑う。
柔らかい顔のまま。
でも目だけは真っ直ぐだった。
「榊達を止める」
山奥に、朝日が差し始める。
長かった夜が、少しずつ終わろうとしていた。
コメント
1件
え〜〜〜!!めっちゃ良かった!!😭💕 爆発シーンから名前をもらう流れ、心臓ぎゅってなったよ…! レイが「まもれた?」って聞くところ、初めてのちゃんとした笑顔、そして涼架が名前をあげるシーン…全部エモすぎて涙出た😢✨ 「今日から君の名前」、ズルすぎるでしょこのセリフ!!🥺💘 最後の「もう逃げるだけじゃ終わらせない」もカッコよすぎて痺れた〜! 次が楽しみで仕方ないっす、続きお願いします!📖✨