長い長い間、世界の移ろいを見守り続けて来た私と違い、若造のバストロの興味は些(いささ)か違っていた様だ。
バストロは言う。
「ああ、お前が最初から持っていたナイフだよな、それ? どれ、ちょっと見せてみてくれないか?」
「うん、良いよぉ、はいっ! 返してね?」
「ん? ああ返すに決まってるだろ…… ん? んんん? 何だこれっ! こんな金属見たこと無いんだがぁっ! ほらほらっ、ジグエラぁ? 見てくれよっ!」
『どれどれ? あら、本当ね? 白金でも金でも、勿論、銀とも違うしぃ…… 随分軽い金属ねぇ? その割りに硬いようだしぃ~、魔力も抵抗無く通るし、高温も低温も思いのままよっ! 何なのかしらこれっ? こんな金属が有ったなんてジグエラ驚きよぉっ! これって何なのよぉ、れ、レイブゥゥッ!』
お師匠でもあるバストロとこれまで常に冷静であったジグエラの狼狽(うろた)え捲った声を聞かされてしまったレイブは、正直に、と言うか、必死に昔聞いた事があるかも? そんな薄っすらとした記憶にアクセスしながら答える。
「えっ、ええっとぉ、何だったかな? うーんとぉ、あっ、そうだっ! このナイフの素材はね、えっと、チー…… テー? そうだぁっ! チターン、そうそうそうだよっ! チッターンとか言う金属だった筈だよぉ!」
だそうだ…… チッターン? チタンかな? ふむ、判らないなぁ…… まあ観察を続けていればいつか判るかもしれないな、我慢強く待つ事としようか……
私と同じくチッターンが何だか理解出来なかったバストロが同じくキョトンとしていたジグエラに問い掛ける。
「ところでジグエラ、お前が起きたって事は春になったのか? ハルマツリの準備を始める、そう言う事で良いんだよな?」
『えっ? あ、ああ、そうねぇ? んーまだ完全な目覚めには、ふわぁ~、後、数日かしらね? ヴノもまだ寝ているし、アタシももう少し眠らせて貰うわね~、次に目覚めたらチッターンについて判った事を聞かせてね、ふわわあぁぁ~あ』
思い出した途端、眠気を催したのか足元をふらつかせながら、この日二度目になる起床予報を伝えて、鍾乳窟の入り口に向かって歩いていくジグエラ。
ヨロヨロと覚束ない背中を見送っていたバストロはレイブに言う。
「聞いたかレイブ、後数日だってよ、今回の冬篭りは備蓄余り捲っちゃったな♪」
レイブも自らの師匠の笑顔につられて嬉しそうだ。
「うん、最近は生肉ばっかり食べていたから食べ物がいっぱい余ったよね」
「それだけじゃなく粉薬と血清、ユーカーキラーとアキザーキラーも大量に残ったぞ、こりゃあハルマツリはがっぽりだな、いひひひ」
「良かったよね師匠、綺麗なコインをいっぱい集められそうだね」
「カネなカネ、それで装備を揃えるぞ! そうだ、お前にもそれ専用のナイフを買ってやれるぞ!」







