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【笑うあの子の裏事情】
Episode.4 言えなかった言葉
《🎼🍍side》
職員室は、昼休み前の中途半端な時間がいちばん落ち着かない。
プリントを抱えた教師が行き交って、
キーボードの音と、電話の呼び出し音が混ざり合う。
🎼🍍「……はあ」
俺は自分の席に座り、深く息を吐いた。
1年3組、欠席一名。
──紫雨こさめ。
今日も、だ。
🎼🍍「出席簿、真っ白だな」
毎回、分かってる。
分かってるのに、
この欄を見るたび、胸の奥が重くなる。
🎼🌸「なつ?」
声をかけられて顔を上げると、
そこにいたのは、らんだった。
🎼🍍「どうした?」
🎼🌸「さっき、保健室で……」
🎼🍍「ああ。こさめ、いただろ」
🎼🌸「うん」
それだけで、通じる。
らんは、俺の隣の席に腰を下ろした。
🎼🌸「今日も、怪我してた」
🎼🍍「……そうか」
🎼🌸 「増えてたよ」
🎼🍍「…そうか」
返事が、それしか出てこない。
🎼🌸「なつ」
らんが、少し声を落とす。
🎼🌸「無理してない?」
🎼🍍「……無理してない教師なんて、いる?」
自分で言って、苦笑した。
🎼🍍「担任なんだからさ」
俺は、机の上の出席簿を指で叩く。
🎼🍍「放っとくわけ、いかないだろ」
🎼🌸「でも、強く言えない」
🎼🍍「……ああ」
言えない。
言ったところで、どうなる?
「来い」って言って、来るなら、
とっくに教室にいる。
🎼🍍「怒っても、困らせるだけだ」
🎼🌸「そうだね」
🎼🍍「かと言って、何も言わなきゃ」
言葉が、途中で止まる。
🎼🍍「……何もしてないみたいでさ」
その瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、
少しずつ、溢れてきた。
🎼🍍「俺さ」
誰に言うでもなく、口が動く。
🎼🍍「教師になったとき、思ってたんだよ」
🎼🌸「…うん」
🎼🍍「全部は無理でも、せめて、クラスの子は」
🎼🍍「“ここにいていい”って、思わせてやりたいって」
机の上の出席簿を見る。
🎼🍍「なのに」
欠席の欄。
🎼🍍「来ない子に対して、俺、何もできてない」
🎼🌸「……なつ」
🎼🍍「らん」
俺は、少しだけ笑った。
🎼🍍「保健室にいるって分かってるだけ、まだマシなのかもな」
🎼🌸「……」
🎼🍍「でもさ」
声が、少しだけ震える。
🎼🍍「教室にいないって事実は、変わらない」
らんは、黙って聞いている。
🎼🍍「俺が担任でいる限り、こさめは“俺のクラスの生徒”なんだ」
🎼🌸「…そうだね」
🎼🍍「それなのに」
言葉を探して、指が強く握られる。
🎼🍍「話しかけても、すぐ笑って終わる」
🎼🍍「怒られても、気にしない」
🎼🍍「期待も、不安も、全部すり抜ける」
🎼🌸「……」
🎼🍍「それが、一番、怖い」
ぽつりと零れた本音。
🎼🍍「傷だらけで、元気で。なのに、何も掴めない。」
🎼🍍「まるで」
言いかけて、止める。
🎼🍍「……透明みたいだ」
らんが、息を呑むのが分かった。
🎼🍍「教師失格だよな」
自嘲気味に言うと、
らんは、首を横に振った。
🎼🌸「そんなことない」
🎼🍍「いや」
俺は、首を振り返す。
🎼🍍「優しくしてるだけだ。優しくして、踏み込まない」
🎼🍍「それで、いい大人の顔してさ」
机に肘をつき、額に手を当てる。
🎼🌸「逃げてる」
静かに、らんが言った。
🎼🌸「……でも」
🎼🌸「逃げてるって、自覚がある分だけ」
🎼🍍「……」
🎼🌸「なつは、ちゃんと見てる」
その言葉に、少しだけ救われる。
🎼🍍「……らん」
🎼🍍「保健室のこさめ、どうだ?」
🎼🌸「元気」
即答だった。
🎼🌸「本当に、元気」
🎼🍍「……そうか」
🎼🌸「でもね」
らんは、少し間を置いて言った。
🎼🌸「期待されない方が楽、って言ってた」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
🎼🍍「……そっか」
それは、
聞きたくなかった言葉だ。
🎼🌸「なつ」
🎼🍍「ん?」
🎼🌸「担任として、どうしたい?」
どうしたいか。
答えは、ずっと前から決まっている。
🎼🍍「……教室に来てほしい」
🎼🌸「理由は?」
🎼🍍「理由なんて、後でいい」
即答だった。
🎼🍍「まず、“来なくていい”場所にしたくない」
🎼🌸「……」
🎼🍍「来なくてもいい、期待しない」
🎼🍍「そんなの」
言葉に、力がこもる。
🎼🍍「教師じゃない」
職員室のざわめきが、遠くなる。
🎼🍍「でも」
俺は、肩を落とす。
🎼🍍「無理に引っ張ったら、壊れる気もする」
🎼🍍「だから、怖い」
正直な、本音。
🎼🌸「なつ」
らんは、静かに言った。
🎼🌸「壊れるかどうかを、決めるのは」
🎼🌸「俺たちじゃない」
🎼🍍「……」
🎼🌸「でも、手を伸ばすことは、できる」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
🎼🍍「……なあ、らん」
🎼🍍「俺、間違ってないか?」
しばらく、沈黙。
それから、らんは言った。
🎼🌸「分からない」
🎼🌸「でも、一人で抱えないほうがいい。」
その一言が、
やけに、重かった。
🎼🍍「……ありがとな」
俺は、少しだけ背筋を伸ばした。
🎼🍍「明日も、保健室にいるんだよな」
🎼🌸「…うん」
🎼🍍「…まだ、諦める時じゃないよな」
立ち上がる。
🎼🌸「なつ?」
🎼🍍「…俺、担任だからな」
らんは、小さく笑った。
🎼🌸「…相変わらず、かっけーなぁ」
職員室を出る前、俺は一度だけ振り返った。
🎼🍍「らん」
🎼🌸「なに?」
🎼🍍「こさめのこと」
一瞬、言葉に詰まる。
🎼🍍「……頼むな」
らんは、静かに頷いた。
🎼🌸「勿論だよ」
その返事が、
少しだけ、俺を前に進ませた。
next.♡400
コメント
8件
なっちゃんはなっちゃんで色々溜め込んでそうだな〜… こさめちゃん…めっちゃ心配だな この構図めっちゃ好きなんだがッッッ!?
🍍くんも☔くんのことを教師としてやるべきことがあるんだよね😭😭 ☔くんが壊れないようにってことで🍍くんも沢山悩んでると思うんだよなぁ...💦🤔💭 続き楽しみにしてる!❣️❣️
誰の言葉も重く感じてしまうほど抱え込みやすくて悩みやすい🍍くんだからこそ、 ☔️くんのような生徒は放っておけないし、誰よりも☔️くんのことを深く考えられるんだろうなぁ 教師の責務と生徒の気持ちって結構重いところが多いから複雑だなぁ… 続き楽しみにしてるねん🫶🏻︎💕︎︎🙂🎐