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視点・若井
俺は高校2年生。サッカー部で体を動かしたり、授業中にちょっと寝ちゃったり、趣味のギターしたりして過ごしてる。…ちょっと言いづらいことだけど、数学教師の大森先生と付き合ってる。
「はいはい、席着いて。」
休み時間、友達と話していると大森先生の声がした。そういえば次は数学だったなと急いで教科書を引っ張り出して準備する。
「若井、答えわかる?」
授業中、ノートに大森先生の似顔絵を描いて遊んでいたら、当てられてしまった。
大森先生の顔を見ると、にやっと片っぽだけ口角を上げて俺を見つめている。正直その顔をどきっとしたけど、今は授業中。
「3xです。」
「ん、そうだね。ここはさ……」
一瞬俺に優しく微笑むと、先生は問題の解き方の説明に入っていた。
学校にいる間にそんなことをされると、勉強が手につかなくて困ってしまう。今日も大森先生の所作に見惚れて、授業の内容がさっぱりわからなかった。
授業が早めに終わったから、俺は急いで板書を写していた。
すると…
「大森センセ。好きなタイプ教えてよ」
やけにハッキリ聞こえるその声に、意識せずとも首がそちらに向く。クラスの中でも、あまり評判がいいとは言えないギャルだ。…顔は可愛いし、スタイルもいいから勿体無い、と男子は口を揃えて言っている。
大森先生の好きなタイプ…。
付き合っている身とは言え、少し気になるのは事実。だから、こっそり聞き耳を立ててみることにした。
「勉強ができて、僕の仕事の邪魔してこなくて、物静かで、スキンシップが少ない人。」
「、っえ…? 」
ショックを受けた。
「えー。ウチと真逆でつらたんー、脈なしじゃん〜 」
ギャルの声が俺の脳内で響く。
俺は勉強は基礎すらままならないし、先生が仕事してる時は、なんとなく寂しくなってちょっかいをかけたりする。物静か…っていうよりは喋りすぎるだと自覚してはいる。スキンシップは、俺からすることはあんまりないけど、たまに勇気を出して触れると喜んでくれた。
でも。
俺は、先生の好みじゃなかった。
大森先生は優しいから、俺の告白を断れなかったのかもしれない。仕事が長引いたから、疲れてたから、正常な判断ができなかったのかもしれない。
もしかしたら…、先生の隣に相応しいのは運動しかできなくて、ちょっかいばっかかけて、お喋りで、触れたがりの俺みたいな年下の男じゃなくて。
文武両道で、距離感をしっかり保ってて聞き上手で、先生を癒してあげられるお上品な同い年、もしくは年上の女の人なんだ、きっと。
「…!、おい若井!授業終わったぞ、大丈夫かよ。」
友達の声ではっとした。
教卓の方を見ると、丁度教室を出る前の大森先生と目があった。普段なら、先生の顔を見ると無意識に笑顔が溢れてしまうけど、今日はそんなことできなかった。
「……あ、」
先生と目が合ってしまった。
なんだか胸が苦しくて、目を逸らした。
先生が教室を出るまで目を合わせていられなかった。
『いつもの場所で待ってる。』
スマホの通知でメッセージに気づいた。
『今日は用事があって。』
『ごめんなさい、俺体調悪くなっちゃって。』
『話す気分じゃないです、』
いろんな文章を考えたけど、どれを送ってもきっと先生は納得しないだろうな。
カバンにスマホをしまった。申し訳ないけど、未読無視。
家に帰りたい気分でもなくて、俺はとある場所へ歩いた。
そこは、俺が先生に告白した思い出の公園だった。
涙が止まらなくて、声を上げて泣いた。
「っ……ぁ゙あ…っ、お゙ぉもりせんせ…ぇ、」
視界がぼやけて、地面にシミを作る。かろうじてベンチに座ることはできたが、先生との日常を思い出してまた涙が込み上げた。
「おれ、…ひっ゙ゔ……、振られっ…る…?っあ゙ぁ…ひぐっ、」
午後8時。
公園に俺の嗚咽だけが鳴り響いた。