テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
(「いやぁ今年も蒼が勝つだろ…」)
(「まぁ、毎年恒例だもんなぁ…」)
(「それでも湊が諦めないのはすげぇよな…」)
(「…お、来たぜ、左のツンツン頭のほうが湊だろ…?」)
俺は妙にでかいリュックを背負って会場に入る。まぁこの中には合計13本のラケットが入ってるから当たり前だな!それにしても注目されてるなぁ…
「おい、港?今日は妙にソワソワしてるじゃねぇか、どうした?ようやく彼女でもできたのか?それとも今日はラバー上手く貼れたとかか?前は俺にやってもらってたもんな」
「いやぁなんか今日はいつにも増してお客さんが多いなぁと。まぁみんな俺じゃなくて蒼を見に来てるんだろうけどな!大丈夫だぜ!毎年関東大会まで入ってるんだからな!俺の実力を舐めてもらっちゃあ困りますぜ!」
「いや毎年関東大会には来てるけど恒例行事みてぇに一回戦負けじゃねぇかよ。関東大会でも湊とやりてぇってのに、何してんだよ毎年毎年さ」
俺達はそう軽口を叩きながら会場入りする。かなり人数が入る体育館に、中心に一台しか置かれていない卓球台はいつ見ても違和感だ。コートは一辺だけでも卓球台の縦がたしか2.74mだったから…まぁざっくり5〜7台程度は入りそうなくらい余裕を持って設置されてるフェンスを違和感に感じるのも毎年恒例だ
「今年は…どうしようかな。たしか去年が6本だろ?んで一昨年はたしか9本だったよな?じゃあ今年は5本以内に収めてやるよ。いやぁ俺は優しいな。対戦相手のラケットの修理代とかラバー代を考えて早く勝たせてやるなんて」
「言うてもお前毎年毎年なんだかんだ俺との試合楽しんでわざと長引かせてるじゃねぇかよ!まぁ俺もお前との試合は楽しいからいいけどさぁ!」
ーお知らせしますー
決勝戦、NRみらい高校の湊選手対蒼選手の試合はまもなく始まります。
観客の皆様方は円滑な試合進行のため、お静かにお願い致します。
「お?ようやっと始まるのか。もう毎年恒例すぎて緊張もクソもねぇよな。今年はサービスエース0に抑えてやるからまじ覚悟しとけよ?」
「ははっ期待しないで待ってやるよ。お前が生きている間はな」
俺達はコートに入り、それぞれ卓球台を真ん中に挟んだ端にリュックを置いて、タオルと水筒にメモ帳とペンを小さなかごに、そして俺は5本の追加ラケットを入れたラケットケースを手に持って卓球台の下に置き、前を見る
「去年はお前がサーブ取ったから今年は俺だよな?じゃあお前はぐー出せよー」
「言われなくとも、俺はサーブなんかなくても普通に勝てるからな」
このやり取りも毎年恒例だ。毎年過ぎてサーブ権を賭けたじゃんけんはもはや八百長だ。まぁ指摘はされないので問題はないだろう。俺は何事もなくじゃんけんに勝ち、台上を転がし、数回跳ねさせてから左手に置いて、ラケットを構える
そこからの流れはそれこそ毎年恒例だった。俺はサーブで順横や、YGサーブに上回転や下回転のフェイントを入れつつサーブを出すが、当たり前のように返球される。俺は返球された球に全身の捻りと関節と関節の可動域を最大限活用し、ドライブとスマッシュを打ち分ける
が、蒼の戦法はそれこそ変幻自在で、俺のドライブに対しては粒でもないくせにカットで返してきやがるし、スマッシュをしたら冷静にフィッシュからの引き合いで打ち合いにもつれていく。するとどこかのタイミングで俺が打ち崩され、そのまま打ち抜かれて点数を落とす
そんないつも通りの展開が待っていると思われた2セット目の矢先、ポイントは2:7で俺が負けている時、蒼は俺の強襲フリックに打ち崩されロビングを上げる。すると下がっても打ち抜かれてしまうと判断したのだろう、最前衛でカウンターの構えを取る
俺はその動きに少しニヤッとしながら1歩か2歩程度助走を取り、空中に跳び、台に叩きつけるかのように、地面に向かって鋭い杭を打ち付けるかのようにラケットを全力で叩きつける*
すると、俺のラケットのグリップとブレード部分の境目から、ミシミシと嫌な音が聞こえた。が、俺や蒼にとってはこんな音は聞き慣れていたのと、試合中で興奮状態になっていたため、そんな情報は耳にすら入ってきていなかった
すると、予想通りラケットは俺のスマッシュの振りに耐えきれずにへし折れてしまう。ただその時の位置、角度、力加減、振り抜く方向。すべてが重なり合ってしまい、へし折れたラケットのブレード部分は勢いよく飛んでいき、蒼の右目付近に直撃する
「あ!?おい!蒼!」
「いっ…!!?」
俺は咄嗟に蒼に駆け寄る。例年通り、例年通りの決勝戦に異変が起きた。蒼の右目を確認すると、数秒待っても出血もなく、腫れもなく、完全な健康体…とまではいかないが、基本的には何も問題ないように見えた
「蒼選手!大丈夫ですか?試合の続行は可能ですか?」
「あ…あぁ、もちろんできます。打撲のような痛みが軽くあるだけですし」
駆け寄ってきた審判に蒼は飄々と笑って応対してみせた。俺は蒼に何度も謝り、替えのラケットを握り直し、試合を再開した
〜〜〜〜〜
「もうそろ眼帯は外せるらしいぜ。骨にも異常はないし、別に眼球直撃ってわけでもない。まぁ多少痛くはあったから完全無傷ってわけではないけどな、まぁそれはそうとして優勝おめでとう」
俺はあの地区大会で優勝した。蒼のその後は痛み以外の自覚症状は何もなかったようで、多少視力に問題がある可能性があったため、眼帯を一時的につけているが、それももうすぐ外せるらしい
俺の正直な心境はものすごく複雑なものだった。たしかに蒼に勝てたのは嬉しかった。でも俺個人はこんな勝ち方は望んでいなかった。だからこそ、あの時の蒼の表情や今の蒼の態度は俺に突き刺さるようだった、何も言えなかった
「…数カ月卓球はお休みだな。こんなことは初めてだな、毎日アホみてぇに卓球やってたからな、こんなに卓球から離れるのは初めてだな。何年だ?お前が卓球始めたのは」
「!…あ…えぇと…小3の頃…だったかな…」
「そうだな、よくお前のプレー見てたよ。見るのも楽しかったが、お前の練習に混ざって数分体験するのも楽しかったな、そんで俺が中学に上がって卓球初めて…そうだな、そういや湊は、スマッシュが一番好きだとか言ってたっけ?」
俺は否定も肯定もしなかった。否定なんて選択肢は端から頭になかったし、肯定は肯定で、その大好きなスマッシュで一番大切である蒼を傷つけてしまったことの罪悪感で押しつぶされそうになったからだ。だから俺はなんの反応も示さなかった
「まぁいいや、そういやお前はもう部活の時間だろ?もう行かないと怒られんじゃないか?ま、俺が出れない分、関東大会頑張ってくれよ」
俺は何も言えなかった。蒼を怪我させたはずの張本人である俺はのうのうと卓球を続けていて、それでいて大会にも出るなんておこがましい…
《関東大会は…出ないことにしよう、俺がそんなことしていいわけがない…そう…そういうつもりだったのに…それだけの言葉が、その言葉が、喉から支えて出てこなかった》
〜〜〜〜〜
ーキーンコーンカーンコーンー
《言う…今日こそ蒼に言うんだ…言わないともう言う機会が…》
俺がそう葛藤していると、俺のリュックを何も言うことなくジーッと音を立てて開き、何も言うことなく中身を確認する手が一つあった
「お!ラケット3本しかない!よしよし、しっかりラバーの張替えに出してるな!偉いぞ!それにな!ははっ!今日から部活に戻れるんだぜ!眼帯は外せてねぇけど運動はできるんだぜ!久々だからって舐めてかかるんじゃねぇぞ?」
俺は以前と何も変わらない蒼の表情、言葉遣い、トーン、声色を見て安心したと同時に一つのことを決心し、真面目な表情になって蒼をじっと見つめる
「あ?なんだよ顔暗っ!なんだ?ようやく気になる女子でも見つけたのか?」
「………..」
「俺は…俺は…関東大会には…出ない…怪我させた俺にそんな権利ないんだ…」
完全に凍りついたその場の空気、無限にも感じられる静寂の時間を破壊したのは蒼の素っ頓狂な声と言葉だった
「………は?
「…えーと、なんだ?
つまり、罪悪感があるから関東大会には出ないと?そういうことか?」
「…そうだ…」
「…うーん…だってなぁお前…罪悪感って…
そんなもんあったらなんであの時」
「試合を無理やりにでも中断しないで、俺の右側だけ執拗に狙って打ち込んできたんだ?
お前は気づいていたはずだぞ?俺の目がおかしくなっていたことに、ずっと一緒にやってきてんだ、違和感がなかったわけじゃねぇだろ?」
「あれは…あの時は…!あれは…熱くなっていたんだ…!見た目はぶつかったことさえ感じさせない状態だったし…審判もあの状態で目に異常があるなんて思わなかったみたいで…それで試合が続行されたから…それで、熱くなって…」
「…ふーん、熱くなってた…か、そうか…なぁ湊?俺はなぁあの時さ、お前のことがさ」
「めーっちゃくちゃ羨ましかった!」
「…は?…何言って…」
「俺に勝つことに異常なくらい執着してるのが伝わった!そんでお前の熱も伝わってきた!なんでそんな熱くなってんだろうなぁ…って考えてたんだぜ?ずっとさ、でもそれって、俺とお前の試合だからだろ?」
「ずーっとそばにいて、一回も勝てんかった相手だぜ?そんなやつに勝てるかもしれない…ついに、ついに…!って飢えた獣みたいにな」
「ちっ…違う…!俺は…そんなこと…!」
「あんなの誰と試合しても味わったことねぇんだよ。そんで俺はあんな熱を卓球で持ったことはねぇ!だから俺もあんな熱い試合をしたいって思ったんだよ」
「…なぁ?湊、罪悪感…だったよな?じゃあお前に一つ罰を受けてもらおうじゃねぇか」
「…は?」
もう頭は真っ白だった。足は棒みたいになって、俺が何も言えないまま話が進んでいく。もう俺がどう立っているのかすら認識できないようだった。でも蒼はそんな俺に気づいているのか気づいていないのか、話を続ける
「俺の目が完治するまでに俺より強くなれ。そんで俺はお前の背中をもう一度追ってやる。追いつこうとして俺はお前の背中を追いかけ続けて、それでも負けて、でもそんなときに勝てそうになるんだ。もうどういう状態かは俺もわかんねぇから妄想でしかねぇけどさ」
「あのときの試合の、あの熱を、あの執着を、あの執念を、俺は少しでも、欠片でもいいから体感してぇんだ。」
「だから頼む、俺より強くなれ!!」
《罰…罰ってことは…それは…それなら…受け入れなきゃ…いけな…》
「関東大会…もちろん出るよな?」
「…あ、あぁ…わかっ…た…」
〜〜〜〜〜
「湊ー!」「緊張してんなよ〜!」
俺はそんな野次を気にしないかのように対戦相手の選手と握手を無言で交わし、荷物を卓球台の下に置き、じゃんけんで負け、サーブ権をもらい、ラケットを構える
心臓の鼓動が地面を伝って俺に聞こえる感覚がする、前に感じたあの感覚とものすごく似ている。抑えたいのに抑えきれない高揚感、観客席まで聞こえていそうな鼓動の音
ーラブオールプレイ!ー
俺はただのロングサーブをクロスに打つと、相手は容赦ない速度のドライブで返球してくる。俺はその球を最後まで完全に見切り、相手の回転を利用して、さらに早く、強く振り抜く。そのカウンターに相手は反応すらできずにノータッチで決められてしまう
俺の右手の手元から音がしたので確認してみると、ラケットのヘッド部分からラバーが剥がれてしまっていた。俺は審判に伝えて、卓球台の下から替えのラケットを取り出して、交換する
「…っち、あいつ、強いな…ってあいつ…ラケット交換した…?まだ一点目だぞ…?どうなってやがる…まぁいい…」
対戦相手の選手は俺を穴が空くほどじっと見つめた後に、後ろに飛んでいったボールを回収しに行き、上体をかがめて、ボールを左手に取る。すると異常を感じたのか、小さく声を上げる
「あっつ…!?」
〜〜〜〜〜
観客席に戻ろうとした俺と、観客席から降りてきた蒼が廊下で鉢合わせ、お互いに歩みを止めてお互いの目を見つめる
「…勝ったな、さすがだ」
俺が声を発する間もなく、蒼はてくてくと俺に歩み寄って肩を回して陽気そうに言う
「いっやーすげースマッシュ打ってたじゃねぇか!今日も今日とて絶好調じゃねぇか!さては俺を裏切って彼女でもできたな?」
「…ごめん、俺あの試合からずっと絶好調でさ…俺ずっとそれを隠してたんだ…ま、まぁそれもバレてはいたんだけどさ…」
「ははっ、お前は何回ごめんっていうんだよ、俺の怪我なんてどーでもいーじゃねぇか?んなどうでもいいことよりお前が…」
「…俺が強くなる方が重要…か…?」
「そう!よくわかったな!さっすが俺の幼馴染だな!」
「俺は…俺はあの時の試合で熱くなったことは受け入れられてない…受け入れることなんて未来永劫ないだろうけど…俺はこの熱に抗うことができないってんなら、俺は強くなる」
「おう!頑張れよ!」
力と技術、熱で焦げきった俺と、熱で焦げたいお前
俺達は表裏一体のラバー越しでつながってるから、親友なんだろうな
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!