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「……やっぱり気になるな」
セリオは寝室の中央に立ち、改めて部屋全体を見渡した。リゼリアの魔法によってベッドの装飾は簡素になったものの、まだ違和感が拭えない。
「何が気になるの?」
ベッドの上に座ったまま、リゼリアが首をかしげる。
「全体的にまだ貴族趣味が強すぎる。寝るための部屋なら、もっと落ち着いた雰囲気の方がいい」
「なるほどね。でも、この館そのものが貴族の持ち物だったんだから、ある程度は仕方ないわよ?」
リゼリアはさらりと言ってのけるが、セリオとしてはどうしても譲れない点があった。
「せめて、壁の装飾と色合いを変えたい。今のままじゃ、落ち着いて寝られそうにない」
現在、寝室の壁は黒と深紅を基調にしたデザインで、豪奢な金の装飾が施されている。魔界の貴族らしい趣味ではあるが、騎士として質素な生活に慣れたセリオにとっては派手すぎる。
「壁の装飾ね……じゃあ、魔法で一気に変えてみる?」
「できるのか?」
「もちろん。ちょっと待ってて」
リゼリアは立ち上がり、部屋の中央に移動した。そして、軽く杖を振ると、壁全体がぼんやりと揺らめき始める。
「希望の色は?」
「落ち着いた色ならなんでもいい。できれば黒や深紅よりは、もう少し明るい方がいいが……」
「じゃあ、こんなのはどう?」
リゼリアがもう一度杖を振ると、壁の色が徐々に変化していく。深紅だった部分は落ち着いたグレーになり、金の装飾もシンプルな銀色へと変わる。全体的に柔らかい印象になった。
「……いいな。これなら、まだ落ち着けそうだ」
セリオは満足げに頷いた。
「よかったわ。じゃあ、あとは家具も変えた方がいいわね。タンスや鏡台も、かなり豪華すぎるし」
リゼリアは部屋の隅にある重厚な家具に視線を向ける。黒檀や紫水晶をふんだんに使った豪奢な調度品は、高級感こそあるものの、セリオの好みとは程遠い。
「そうだな……できるなら、もっと実用的なものに変えたい」
「じゃあ、新しい家具を用意して、古いものは物置に移すか売るかしましょう」
リゼリアは軽く手を打つ。
「お前、家具の準備とかできるのか?」
「任せて。私の研究所の備品を仕入れてる商人に頼めば、すぐに用意できるわ」
そう言うと、リゼリアは魔法で小さな紙片を取り出し、何やら注文を書き始めた。
「……まるで生活の世話を焼かれてるみたいだな」
「だって、セリオってこういうの苦手そうでしょ?」
「……否定はしない」
セリオは肩をすくめる。
「よし、じゃあ今日はここまでにして、家具が届くのを待ちましょう」
「わかった」
寝室の雰囲気はだいぶ変わり、以前よりも落ち着いた空間になった。しかし、まだやるべきことは残っている。
セリオは軽く息を吐き、次のリフォームに備えるのだった。