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ミアはカガリと共にギルドの裏にいた。ネストに呼び出されたからだ。
ゴールドプレートにもなると、そこそこの権力がある。
依頼などで必要になるアイテムや備品をギルド職員に頼んだりするので、ギルド職員が呼び出されることは、そう珍しいことではない。
しかし、今回はそうではなかった。
ネストがミアを呼んだのは、九条の担当だったから。九条の事を根掘り葉掘り聞いて来るネストに、ミアは警戒心を強めていた。
適性の事は、よく聞かれることだ。それがパーティを組む際の指標ともなるため、珍しい事ではない。しかしそれだけではなかった。
住所や年齢に始まり、村の滞在履歴。出身地や家族構成、果ては今まで受けた依頼の詳細などなど多岐にわたる。
公開されている情報は隠しても仕方のない事なので答えるミアであったが、しつこさが尋常ではない。
「じゃあ次の質問ね。九条に大事な人……。つまり恋人や伴侶に当たるような人はいるの?」
「……え?」
ミアにはネストの真意が読めないでいた。
(それを知ってどうするの……? おにーちゃんが気になっているのはわかるけど、それって恋愛対象として?)
しかし、そういう雰囲気は感じられない。どう答えようか悩んだ末、ミアの中で出した答えは……。
「私です」
「……は?」
「だから、私がおにーちゃんの恋人です」
この国、スタッグ王国では十歳からの結婚が認められている。それ以下でも働き始める子供は大勢いるのだが、所詮子供は子供だ。それが恋愛対象になることは限りなく少なく、基本的に結婚は独り立ちしてからが一般的。
ミアと九条。恋人というには、あまりにも歳の差がありすぎるが、ネストを牽制するという意味では最適な答えだとミアは思った。
「九条は……ロリコンなの?」
「そうです」
自信満々にハッキリと答えるミア。
今は違うかもしれないが、いずれはそうなる予定なのだ。だから多少暴論かもしれないが、嘘ではないとミアは自分に言い聞かせる。
「そう……。まずいわね……」
ぼそりと呟かれた言葉。それをミアはそれを聞き逃さなかった。
「何がまずいんですか?」
ミアは、ゴールドプレートの冒険者を相手に引いてなるものかと強気に出るも、それは九条の突然の登場により、一旦の落ち着きを見せた。
「ミア、ここにいたのか。ソフィアさんが呼んでいるが……」
「おにーちゃん!」
「やあ、九条」
「あ、ネストさん……でしたっけ?」
「ええ、名前を憶えていてくれて嬉しいわ。えっと、ミアちゃん。時間をとらせてしまってごめんなさいね。最後に一つ、聞いておきたいんだけれど」
ミアの緩んでいた表情が、再び強張りを見せる。
「……はい」
「その隣にいる魔獣なんだけど、あなたが使役してるのかしら?」
「使役って言うのはやめてください。友達です」
これは九条と相談して決めたこと。
九条が一緒にいられなくても、カガリがそばにいてくれれば安心だということで、ミアが飼っているということにしているのだ。
魔獣をペットとして飼育しているのは物好きな貴族くらいなものだが、前例があるだけに、そう違和感はないだろう。
「どこで出会ったのかしら?」
「森でケガをしているところを助けてあげたんです。そうしたら懐いたみたいで……」
「ギルド本部に報告は?」
「してません。先程も言いましたが、|獣使い《ビーストテイマー》として使役しているわけではないので」
「それはまずいんじゃない? この魔獣が村人に危害をくわえるかもしれないでしょ?」
「それはありません。カガリは人間の言葉を理解しています。不必要に人を傷つけることは絶対にしません」
「へえ……。じゃあ私の言う事も聞いてくれるのかしら?」
「……多分……」
カガリは知っている。人と一緒に暮らすには、人のルールに従わなければならないことを。
「まず最初にミアの周りを三周、その後私の周りを二周、九条の周りを四周したら全員の周りを一周して元の場所へと座りなさい」
ネストは、カガリが本当に言葉を理解しているのか試しただけ。
案の定、カガリは言われたことを忠実に遂行し、最後にミアの横で腰を落とした。
「これは驚いたわ……。本当なのね……」
ミアは何も指示を出してはいない。|獣使い《ビーストテイマー》でないのは明らかだ。
しかし、それで終わりではなかった。
何を思ったのか、ネストは持っていた杖をミアに突きつけたのである。
「じゃあ、もし私がミアに危害を加えようとしたら、お前はどうする?」
ネストがそれを言い終わった瞬間だった。カガリから凄まじいほどの殺気が溢れ出たのだ。もちろんその矛先はネストである。
それは誰もが一目散に逃げだすだろう気迫。いや、腰を抜かして逃げ出すことすらできないかもしれない。
それに面食らっていたネストであったが、顔を引きつらせながらも耐えていた。そして、ゆっくりと杖を降ろしたのだ。
「試すような真似をしてごめんなさい。怒りを鎮めてちょうだい……。私が悪かったわ」
歯を剥き出しにして唸るカガリは殺気を押さえたものの、警戒は解いていない様子。
なぜそんな質問をしたのかと理解に苦しんでいたのは、それを黙って見ていた九条だ。
「ネストさん。俺が言える立場ではないですが、そういう冗談はやめておいた方が……」
「私の身を案じてくれるの? 九条はやさしいのね。肝に銘じておくわ」
ネストの表情からは何も読み取れない。笑っているようにも見え、何かを疑っているようにも見えた。
「まあ、でもこれなら大丈夫でしょう。邪魔をしたわね」
そう言うと、ネストは小さく手を振って宿の方へと消えて行った。
その夜。九条は、ミアからネストの一部始終を耳にし、”おっぱいの大きい魔法系冒険者の先輩”という認識から、”おっぱいの大きい要注意人物”に考えを改めたのである。