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「話は全て、あの妖精から聞いた」
枕元の椅子に腰掛けたリューが神妙な面持ちで続けた。
「メリーから……?」
そこで私は全てを思い出し、ガバっと起き上がった。
――そうだ。怒りの感情に任せて聖女の力を使ってしまったのだ。
私は焦って彼の身体を見回す。
「リューなんともない!? 誰か、どこかに被害は出てないですか!?」
覚えているのは轟音。
脳裏に浮かんだのはあのとき見たたくさんの魔物たちの死骸だ。
「あ、ああ、大丈夫だ。特に被害は出ていない」
それを聞いてほぅと息を吐く。
(良かった……や、全然良くないけど)
聖女の力は、基本魔物にのみ効く力だ。
でも感情の高ぶりが引き金となり先ほどのように勝手に暴走してしまうことがある。
勿論この世界でだけ。そのことを7年の間にすっかり忘れていた。
「私、どのくらい寝て……?」
「一時間ほどだ。先ほど、あの妖精が癒しの魔法をかけていた」
だから今身体は楽なのだとわかった。
私は頭を下げ心から謝罪する。
「本当にすみませんでした」
「いや。……それだけ、コハルが怒りを覚えたということだ」
その力ない声音に顔を上げる。
リューは酷く気落ちした様子で続けた。
「俺の無責任な発言のせいで……本当にすまなかった」
そうして頭を下げた彼に、私は改めて訊いてみる。
「……アマリーのこと、考え直してもらえませんか?」
メリーから全て聞いたと言うなら、きっと彼女の名ももう知っているだろう。
すると、リューは顔を上げ答えた。
「先ほどの件は不問にするようにとセレストに伝えた。あいつも了承してくれた」
それを聞いて、今度こそ良かったと胸を撫でおろす。
お礼を言おうとして。
「だから、ここを出ていくなんて言わないでくれ」
再び頭を垂れ小さくそう言った彼を見て、私は先ほど自分が放った言葉を思い出した。
――私は即刻この城から出ていきます!
(あー……)
7年前のように膝の上で強く握られた手を見て、なんだか怒られて耳を伏せた大型犬のようだと思ってしまった。失礼ながら。
私は彼の前できちんと正座をする。
「アマリーのこと、ありがとうございます。それと……私も、大人げないことを言ってしまって、すみませんでした」
「じゃあ、」
ゆっくりと顔を上げた彼に、私は笑顔で言う。
「はい。出て行ったりしません」
「!」
彼の金の瞳が大きく見開かれて、次の瞬間には抱きしめられていた。
「ちょっ!?」
「良かった……!」
安堵の声と共にぎゅーっと強く抱きしめられて、私は小さく息を吐いてその背中を優しく撫でた。
「……そういえば、メリーは?」
こんなところを見られたらまた怒って突っ込んできそうだと思ったのだけれど。
「ぎゃんぎゃんと煩いので締め出した。隣の部屋にいるとは思うが」
「そ、そうですか」
想像出来てしまって苦笑する。
――なら。
「リュー、訊きたいことがあるんですが」
私が言うと彼は身体を離し、私をまっすぐに見つめた。
「なんだ? なんでも言ってくれ」
「その……もしかしたらなんですが、リューはお父さんのような竜帝陛下になろうと少し無理してませんか?」
「え……」
彼がきょとんとした顔をした。
「なんというか……皆の前で竜帝らしくあろうと頑張っているいうか」
7年前、皇子はお父さんに強い憧れを抱いていた。
そして今、彼の竜帝としての姿と私の前で見せてくれる姿はあまりに違う。
だから、もしかして無理をしているのではと思ったのだ。
――と。
「それ、は……っ」
彼の顔がみるみる赤くなっていくのを間近で見て、私は目を丸くする。
そしてそれを隠すように彼は手で顔を覆ってしまった。
「ひょっとして、他の者にもそう思われているのか……?」
「え? あ、いえ、私がそう感じただけなので、他の人たちにはちゃんと威厳ある立派な竜帝陛下に見えていると思いますが」
慌てて言うと、彼は安堵したように息を吐いた。
「そ、そうか……」
それを見て私はやっぱりと思った。
(リューは今でもお父さんに憧れて……)
「コハルが、昔言っただろう?」
「え?」
「この国を去るときに、父上のような立派な竜帝になってくださいと」
「!」
――だからリュー皇子、お父さんみたいな立派な竜帝陛下になってくださいね。
(……言った)
確かにそう言ってしまった覚えがある。
またか、と私は当時の自分を本気で引っ叩きたくなった。
(まさか、私のせいもあったなんて……)
「だから俺は、」
「す、すみません。確かにお父さんのような威厳ある竜帝陛下もカッコ良いとは思うのですが」
私は思い切って続ける。
「リューにはもっと、皆に好かれる優しい竜帝陛下になって欲しいです」
でも、それを聞いたリューは不安げに眉をひそめた。
「俺は、皆に好かれていないのか?」
「えっ! いえ、あの、……少しだけ怖がられているような印象を受けたので」
「怖がられて……」
流石に出過ぎたことを言ってしまっただろうかと焦る。
と、彼は私を見つめた。
「コハルも、俺が怖いか?」
私はぶんぶんと首を振る。
「いえ、私は全然怖いとは思いません。……その、とても優しくしてくださるので」
(それに、色々子供っぽい一面を見ちゃってるし)
こっそり心の中でそう付け加えてから言う。
「なので、その優しさを他の皆の前でも出していくのはどうかなと。あ、勿論リューが嫌だったら」
「いや……優しさ、か……」
口元に手を当て、彼はうーむと考え込んでしまった。
それを見て少しほっとする。
そんなことお前に指図されたくはない、とか言われたらどうしようかと思った。
――そして、私は続けて軽い気持ちで訊いてしまった。
「そういえば、お父さんは今どこに?」
ぴくりと、リューの手が震えた。
「まだご挨拶が出来ていないので」
このお城の中にお父さんの気配はない。
だから、どこか近くに別邸があるのだろうかと思ったのだ。――でも。
「父上は、5年前に死んだ」
「え……?」
掠れた声が自分の喉から漏れていた。