テラーノベル
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照との出逢いは、10歳の頃だった。 早くに親を亡くして以来、ふっかは天涯孤独の身で城下町の路地裏を転々と暮らしていた。そのため、髪はぼさぼさで浮浪者のような恰好をしており、今では口にしては言えないが物乞いをするしか、生きていく術はなかった。
しかし、それにも限界があった。
もう何日も食べ物はおろか水にもありつけない状態で、ふっかはいよいよ盗みを働こうと決意していた。
ちょうどその日は、身なりの良い自分と同じ年頃の少年に目を付けた。別に羨ましいとは思わなかったが、金持ちそうな雰囲気からして少しぐらい盗んでも罰は当たらないだろうと近づいたのだ。
しかし、少年の方が一枚上手だった。ふっかがさり気なくぶつかったフリをして少年の衣服に手を伸ばしたが、その腕を取られてしまった。
「離せっ!!」
ふっかは暴れたが、すぐさま少年にその場で押し倒される。捕まってしまっては後々が厄介だと必死で逃げようとしたが、腕の力強さには敵わなかった。逆に顔を近づけられてガン見され、ふっかは思いっきり顔を背ける。
だが、少年はふっかの頬を勢いよく両手で包んだ。しかも、口角が上がっている。
「お前、可愛い顔だな」
「はぁ?!」
盗んだことを咎められる訳ではなく、急な誉め言葉に頭が回らなかった。驚いたふっかの瞳が真ん丸になると、少年は歯を出して笑った。
「俺は照! お前は?」
「………ふっか…」
動揺しすぎて、流れるまま自分の名を名乗ってしまったふっかはㇵっとしたが、照はにんまりと笑う。
「お前、今日から俺の友達になれ」
その笑顔は今でも忘れない。
この日から、ふっかの人生は全て変わったのだ。
抵抗しながらも照に無理やり連れていかれたのは、この国の最高権力者が暮らす城だった。慌てたふっかが照に何者かと問うと、屈託のない笑顔で「王子」と答えるので、腰を抜かしそうになるほど驚いた。
みすぼらしい姿をしていたふっかは、まず湯浴みするよう言われるが、いきなり何十人も入れそうな浴室に入れられて、どうして良いか分からなかった。
すると、照も裸になって一緒に入ってくれたのだが―――照はふっかのことを男だと思っていたようで、ふっかに男性器がないのを知ると、顔を真っ赤にして説明だけしてさっさと出ていってしまった。ふっかは別に気にしていなかったが、少しだけ恥ずかしかった。
それから照はふっかに色んなものを与えてくれた。
衣食住はもちろん、文字や知識も教えてくれて、物乞いしなくても生きる術を学んだ。そして心許せる人間―――照が友達として傍にいる。それはふっかにとって幸せ以外何ものでもなかった。
照が12歳の誕生日を迎える数週間前。ふっかはいつものように遊び相手として日がな一日を過ごしていた。
「照。誕生日何が欲しい?」
外で日向ぼっこしている照の横に座り、ふっかは顔を覗かせた。
去年のふっかの誕生日は、何もお祝いすることが出来なかった。それもこれもふっかの知識の中には、誕生日にプレゼントを贈る、というイベントがあることすら知らなかったのだ。
そして、ふっかは自分の誕生日が曖昧だったので、城に来た日を誕生日にして沢山のプレゼントを照は送ってくれた。だから今回は何かしてあげたいと思ったが、本人が欲しい物ではないと意味がないと思い、直接聞いたのだ。
聞いたのは良いが、もし高価な物を求められたら街に降りて稼ごうと思っていたが、照は予想だにしない返答をした。
「んー。何でもいいのか?」
「うん」
「じゃあ、これ」
照は覗かせてくるふっかの頭を引き寄せて、顔を近づけたと思ったら、唇をチュッと合わせた。その瞬間は1秒にも満たなかったが、すぐに照は離れてニコッと笑った。
「ふっかのちゅー、もらっちゃった」
ふっかはびっくりして、目が点となる。
これはまさしく、自分の初めてのキスだ。キスというのは愛し合う2人がする行為だと童話では知っていたが、大人がするものだと聞いていたので、今自分に起きたことが信じられなかった。
驚いた衝撃で、ふっかの瞳は涙でうるうるとし始める。
「うっ…っ…」
「ふ…ふっか…?」
瞳から流れる涙は、頬を伝った。
照は顔を青ざめながらガバッと起き上がり、ふっかの涙を裾口で拭い始めた。
「……ごめん! ちゃんと聞かないでちゅーして……嫌だったよな…」
手つきが荒いものの、照は必死にふっかの目元を拭う。
「…っ……」
ふっかは僅かながらに首を横に振った。
嫌ではないのだ。
大人がする行為を自分がしてしまったという事実と、自分のファーストキスがこんな呆気なく終わってしまったショック、そんな色んな気持ちが入り混じり、ふっかは自分でも訳が分からず涙が止まらなかった。
だが不思議と、相手が照だということに嫌悪感は全くなかった。
「泣かないで、ふっか…」
「……照なんか、知らない」
それでも突然にキスをしてきた照に、ふっかは腹を立てる。
鼻を啜りながらプイっと顔を背けると、照は余計に焦り始めた。
「ごめん、本当にごめん! ふっかに泣かれると、俺…」
照が瞳をうるうるとさせ、泣き出しそうに目尻を下げる。すると、ふっかの方が焦ってしまい、涙が引っ込んだ。
「……泣かないでよ!」
「泣いてない! でも俺、ふっかに嫌われたら……」
照も反省の色を見せて、顔を俯かせる。そんな照の姿を見ていたら、ふっかも許すしかなくなる。
「き、嫌わないよっ!」
ふっかが必死に声を荒げると、照はパッと顔を明るくした。
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、許してくれる?」
「こ、今回だけだよ」
ふったもこう簡単に許して良いものかと自分自身に問うが、照が悲しい顔をするぐらいなら、これぐらい我慢できる。その証拠に照が笑顔になると、自分が受けたショックが和らぐのを感じていた。
「ふっか!」
勢いよくギュッと抱き締められて、ふっかは必死に受け止める。
「はいはい」
「ふっか大好き」
嬉しそうにする照に、ふっかは肩を竦めながら照の身体を抱き締め返す。
照の腕の中は温かい。それは照の体温もだが、人柄も全てが温かい。
ふっかにとって照は太陽のような存在だった。照の近くにいれば自分も温かい気持ちになれる。それは照が王子だからとかそういう話ではない。ただただ、照の笑顔を見るだけで幸せになれるのだ。
(幸せ…)
それを全て与えてくれる照に対して、自分に何が出来るのだろうか。一生をかけて何か恩返しがしたいと、ふっかは考えていた。
しかし、人生はそんなに甘くはなかった。
数日後、ふっかはメイド達を仕切っている40代のメイド長に呼ばれた。
今までふっかは、照の客人という位置づけでこの城に居たので、メイド長とは用事がある時にしか話したことはなかった。
「お座りなさい」
メイド長は眼鏡をかけており、その表情をふっかは上手く汲み取ることが出来ずに緊張が走る。そのためオドオドしながら指定された椅子に座った。
「早速本題をお話いたします」
眼鏡がキラリと光る。
「王子との関係について、あなたはどうお考えですか?」
「えっ?」
照の名が突然出てきてふっかは目を瞠るが、メイド長は言葉を続ける。
「照様は王子。あなたは―――こういう言い方は失礼かもしれませんが、孤児でしたよね。その関係性は長く続くとお思いですか?」
質問をされてもふっかは何をどう答えていいのか分からず、つい俯いてしまう。それを感じ取ったメイド長は肩を竦めて、言葉を強くした。
「まだ幼いとはえ、王子はこれから身分の高い女性と結婚をして子を為します。それは王族に生まれた人間の運命(さだめ)。そんな時、あなたのような人間がいるとどうなるか分かりますか?」
ふっかは答えが分かっているような気がしたが、何も言えずに首を振る。
「はっきり言いましょう―――邪魔です。これはお妃さまも懸念していることです」
お妃さま、という言葉にふっかは身体を震わせる。照の母親だ。照よりも偉い立場の人。その人が心配しているということは、自分は本当に邪魔なのだと心臓に鋭い物で刺された気持ちになった。
そんなふっかを無視するかのように、メイド長は言う。
「王子はお優しい性格の方。成長していく中で、あなたの存在が邪魔になったとしても、あなたにははっきりとは言わないでしょう」
照が優しいのは、ふっかが一番よく知っている。きっと照は、ふっかが邪魔になっても優しくしてくれるのが容易に想像できる。
ふと恐る恐るふっかが顔を上げると、メイド長の鋭い瞳と目が合う。
「ですが、こちらも鬼ではありません。あなたが王子に対して態度を改めるというのであれば、メイドとしてこの城に置きましょう。しかし、その場合は王子に甘えることなく、しっかりとメイドとして仕えなさい」
キリっと目を光らせ、メイド長はふっかを睨むように言う。
「それが無理だと言うのであれば―――ここから立ち去りなさい___
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コメント
3件
いうちゃんおひさ えらすぎないかちゃんと更新すんの こっち側の記憶ほぼないの😭 照にずるいよって言っといて
おひさしぶりです!!!! 3話がち最高でした(^^) ファーストキス…😇 距離を置くようになったのはこう言うことだったんですね… 次回も無理せず更新待ってます!
ふわ…読了です。第3話、重たいですね。ふっかが照と出会った子供時代の甘くて温かい日々と、メイド長から突きつけられた厳しい現実。その対比が胸に刺さりました。 照とのファーストキスのシーン、照が子供らしく純粋で、ふっかが混乱する気持ちもリアルで。それでいて「照だから嫌じゃない」ふっかの感情にドキッとしました。でもその幸せをメイド長が「邪魔」と切り裂く。読みながら息が止まりましたよ…。ふっかの選択、どうなるんでしょう。続きが気になります!
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