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八、素体の能力とエラー
「できた~! 闇スキルいっこめ~!」
そう言ってはしゃぐミィアを、リィナは少し引いて見ていた。
「なんで急に出来るのよ」
「なんかぁ、起きたらできた」
「はぁ?」
ドラゴンも驚いていたが、想定内でもあったらしい。
《実際、あまり理屈で考えん方がここの闇属性は相性が良い》
「それじゃブラン~! このおうち、貰ってもいいのぉ? ほんとにいいのぉ?」
《ああ、持って行け。俺はもう使わないからな》
「やったぁぁぁ! ありがとうブラン! 感謝かんげきぃ!」
《ハッハッハ。やかましいのは変わらんな》
かなりフランクなドラゴンだったなと、リィナは複雑な気持ちで眺めていた。
物々しい話し方は、最初だけだった。
今はもう、姿さえ人間なら普通のおじさんなのかもしれない。
「そうだぁ。ブランさあ、お嫁さんほしくなーい?」
それを聞いてリィナは、ミィアのすぐ隣に居なかったことを後悔した。
本当なら今すぐにあの口を塞いだのにと。
「私たちと結婚しよ~? あ、違った。奥さん居たりしないよねぇ?」
「あああああああああああみぃあああああああ」
《おらんが……昔は居た。殺されてしまったがな。だから、お前達と結婚はしない。そもそも俺はこの通り、ドラゴンだ》
「おも……」
「えぇ~? なにそれかわいそう」
《ああ、こればかりは忘れられん。だから他を当たれ》
ドラゴンは、悲しみを隠さずにそう告げると、先程までのようには口をきいてくれなくなった。
「あのぅ。それだったらなおさら! 私たちと居ると楽しぃよ? おともだちからでいいから……一緒に行かない~?」
「ミィア、ちょっと空気読んでよ。そんな雰囲気じゃないって」
「やだ。ブランかわいそうだもん。親切だし、私たちと一緒に楽しく旅すればいいじゃん?」
《やれやれ……妙な娘に懐かれたな。どちらにしても、俺は今ここの龍脈で力を蓄えている。だから無理だ》
「そんなぁ……。それって、いつまでするのぉ?」
《後十年くらいだ》
「なが~い! りゅうみゃくって、美味しい~の?」
「ミィア……ぐいぐい行き過ぎじゃ……」
《ああ、旨い。そこらの雑魚どもを倒すよりも、星から大量の経験値を貰っているようなものだからな》
「え、なにそれぇ! 激ウマってやつぅ?」
《そうだ。お前達にも少し分けてやろう。そうすれば俺が言っている意味が分かるだろう。ほれ、手に乗れ》
おもむろに、鋭い爪を広げてその手を差しだすドラゴン。
そして二人が乗ると、少しだけ握るように、落ちないように気遣った。
「わ……。たか~い! アハハハ、ちょっとこわいぃ!」
「よ、喜んでんじゃん結局ぅ。私はこわい!」
一瞬でドラゴンの首辺りまで持ち上げられ、その浮遊感をミィアは楽しみ、リィナは怖がった。
《俺の首に触れてみるがいい》
言われるままに二人が触れると――。
淡い光に包まれた。
なぜ見えなかったのか……ドラゴンは、ずっと光の中に居たのだと知った。
「わぁぁぁぁ……きれい……」
「なん……これ……」
《龍脈の恩恵だ。星の力、宇宙の力、そうした力の流れそのものを糧にしている》
「え~? いみわかんな~い」
「うん……わからん……」
《ハハハハ。分かってたまるものか。でないと、俺が独占できんではないか》
「すごぉこれ、力がみなぎるぅ」
「私は頭になんか……いろいろ浮かぶ」
《どうだ? 龍脈の恩恵を受けられるのはごく一部の者だけだが、お前達の体なら受け取れるだろう》
「……なんかぁ、すごすぎて漏れそう」
「え? ミィア冗談でしょ?」
《こ、こいつ……。本当に漏らすやつがあるか。もう降りろ》
本当なら、人間の限界まで星の恩恵を受けさせてやろうと思っていたドラゴンだったが……。
さすがにお漏らしは嫌だったらしく、すぐさま二人を地に下ろした。
「ご……ごめんね、ブラン。なんでだろぅ?」
「あんた、せめてもう少し我慢しなさいよ」
「力が抜けて、ふわ~って……無理だったの」
「もう、分かったから水出して洗って差し上げて!」
リィナに言われるまま、ドラゴンの手を洗うミィアは、何を思ったか自分も服を脱いで下半身を洗い出した。
「ちょっとぉ! 何脱いでんの! すぐそうやって裸になるなって……ったく」
《そやつ、変わった娘だな……》
「す、すみませんドラゴンさん。後できつく叱っておくので、許してください……」
《……まあ、すぐに洗ったから怒りはしない》
「あれぇ? なんか、糸ひぃてるぅ。どっかにスライムいたっけ……」
そう言って、自分のふとももをさすりながら、もう一度洗うミィア。
「きゃあぁぁぁぁみぃあなんでそんなことになってんのよアンタわぁぁぁぁ」
リィナは真正面から見ていたから分かってしまった。
その糸を引く液体の正体が何かを。
ミィアのどこから垂れてきたのか、しっかりと見てしまったから。
「え~? それ、私が聞きたいやつぅ」
「もう! 服も洗ったら一旦お部屋に入ってて! 私が乾かしておくから!」
「はぁぃ。ブラン、ごめんね? リィナはありがと~」
裸は少し恥ずかしいと思ったのか、素直に部屋に入っていった。
「無自覚なのが良かったのかどうなのか……。とにかく、ドラゴンさんは見なかったことにしてくださいね」
《……見てはおらんが、お前が大声を出すから察してしまっただろうが》
「うっ……」
《その女神の素体と、龍脈の力が何か反応したのかもしれん。もうしばらく休んでから行くといい》
実際、女神の素体が敏感に反応した結果で、しかもその状態で初めて見た相手を好ましく想うというものだった。
二人が目にしたのは、先ずはお互い。
そして、目の端にドラゴンが映っていた。
そのせいで、効果の強さは半減したものの、無意識に刷り込まれて無自覚な想いとなってしまった。
女神の素体が、龍脈に触れる事は本来ありえない。
だから、そのような作用があったなど、造った女神さえ知り得ない事だった。
いわばエラーのようなもの。
一時的なもので治まるのか、ずっと続くのか、それは誰にも分からない事となった。