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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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スマホから着信音が流れた。和樹が出る。

やだ、勝手に・・・。

「もしもし・・・、姉さん?うん、来てるよ。・・・うん」

お母さん?

和樹がスマホを私に渡して来た。

「透子?今日お父さん誰も連れて来ないみたいよ?良かったね」

「そうなんだ、良かった」

「和樹生きてた?昨日大量に作り置きしてったから、何か温めて食べさせといてね」

「分かった」

「早目に帰って来なさいよー」

「うん、すぐ帰るよ。後でね」

通話を切る。和樹の手は、まだ私の腕を掴んでいる。

「・・・何か食べる?私温めるけど・・・」

「・・・ううん、今いい」

掴まれた手を引っ張られた。和樹の胸に飛び込む形になる。

腕を高く持ち上げられて、爪先立ちさせられる。手首が捻られて痛い。

「ねぇ、和樹痛いよ・・・」

「会わないよね?この宮本って奴と」

「和樹・・・」

その時、窓の外からコツコツという音が聞こえて来た。最初は気にならない程度に。段々と大きくなり、窓に傷が付くのではないか?と言う程になった。

「・・・んだよ」

和樹は呟いて、私の腕を離して窓に駆け寄る。カーテンを開けると、バタバタと音を立てて何かが飛び立つ影が見えた。

・・・小鳥・・・?

私は、体から力が抜けて、その場に座り込んだ。それを見て、和樹はハッとして歩み寄って来る。しゃがんで私の手を取り、赤くなった手首を摩ってくれた。

「・・・ごめん」

申し訳無さそうに、俯いて謝った。

「うん、大丈夫」

私は、消えそうな小声でそう答えた。

「・・・怖がらせた」

和樹も、私に負けない位小さな声で言った。

「大丈夫だよー。和樹、薬飲もう?」

私がそう言うと、素直に頷いた。解熱剤とお水を渡して、和樹がしっかり飲むのを確認した。

「お茶も飲む?食べてないから、胃が荒れないように水分取った方が良いよ?」

そう言うと、頷いてお茶を一口飲む。

それから、和樹と手を繋いで彼のベッドに連れて行き、寝かせて、使った食器を片付けた。最後に寝室に顔を出して「帰るね」と言う。

「今日金曜か。義兄さん帰って来るの?」

仰向けで、片腕を顔に乗せて聞いて来た。

「うん、お父さんだけみたい。今日は気楽だよ。和樹も元気だったら一緒したかったね。熱まだあるから明日は無理そうだけど、日曜日モデルしに来る?」

「・・・うん。待ってる」

「じゃ、日曜日にね」

そして、私は和樹の家を後にした。

和樹は、時々こうなる。興奮して自分を抑えられなくなる。もしかしたら、精神的な疾患なのかも知れない。でも、その不安定さが、和樹の絵を素晴らしい物にしている、らしい。

事実、和樹の絵は多くのコンテストで色々な賞を貰っていて、在学中ながらも少なくはないファンがいるのだそうだ。

私も、そんな和樹の絵が嫌いでは無いし、親族として誇らしくもある。協力出来る事は協力したい。

それに、私を心配しての事である。過保護が過ぎるのだ。私がもうちょっと成長してしっかりすれば、私に対してのこういう事は治るのではないか?と期待している。

赤くなった手首を見る。少し熱を持っていた。

大丈夫、これくらい。ちょっと痛いだけだもん。


和樹の家から私の家迄は、歩いて10分程のご近所だ。すぐに家の側に着く。我が家に近付くに連れて、犬の鳴き声が聞こえて来た。恐らく、私の家のお向かいの大沢さん家のマリモちゃん。セントバーナードだ。

散歩前か、散歩帰りに、よくドアノブに伸び縮みするリードを掛けられているのを見るので、今もそうなのだろう。

家の前まで来て、私は驚いた。

我が家の方向に向かって激しく吠えるマリモちゃん。その前には、1人の男の人の姿があった。

背の高い、茶系のお洒落なスーツ、お揃いの帽子のその姿は、あのイケメンさんに違いない。

イケメンさんは、マリモちゃんの迫力に動けなくなっている様に見えた。

私は側まで行って声を掛けてみた。

「あの、どうかしましたか?」

私の声に振り返るイケメンさん。その体は小刻みに震えていた。

「だ、大丈夫ですか?」

「・・・」

怯えて何も喋れなくなっているみたいだ。相当犬が苦手らしい。

「歩けますか?ちょっとマリモちゃんから離れましょう」

私は、彼の手をゆっくり引いてみた。震えながらもついて来るイケメンさん。

「そこの角まで頑張ってみましょう!」

私は、ゆっくりではあるが、なんとかイケメンさんを連れて、マリモちゃんが吠えない所まで移動してきた。

「もう大丈夫ですよー」

そう言ってイケメンさんに向き合うように立つ。

「はぁ、有難う御座いました。助かりました。どうもあの手の肉食動物は苦手でして」

肉食動物って表現はマリモちゃんに対してどうなんだろう・・・。

「あの、透子さん。今日は貴女にお話ししたい事があって参りました。路上で申し訳ありませんが、少し宜しいでしょうか?」

繋いでいた手を握り直して、イケメンさんはそう話し出した。ぎゅっと握られて、手首が痛む。

「ああ、そうでしたね」

イケメンさんは、私の手首を優しく握った。ヒヤリと冷たくて気持ちが良い。

フッと痛みが消えた。え?と思って手首を見ると、腫れが引き、治っていた。

驚いてイケメンさんの顔を見ると、笑顔を見せてくれる。だけれども顔色がさっきよりもワントーン悪くなっている。彼の髪の毛が一房ハラリと落ちた。地面に落ちると、それは鳥の羽に姿を変える。

「・・・」

私は、何も言えなくなっていた。目の前の出来事について行けない。

「透子さん。この世界は、貴女にとって『生き辛い』物ではありませんか?もしそうならば、私は貴女を『私共の世界』へとお連れ致します」

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