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撮影は順調に進み、シンプル4のみんなは一旦休憩に入った。
その間、私達は次の準備を始めた。
「恭香先輩。さっき亮くんと話してましたよね?」
梨花ちゃんが話しかけてきた。
また、何か私に言いたげだ。
正直、聞くのが怖い。
「あっ、うん。亮くんがみんなを褒めてくれたんだよ。撮影がスムーズに行ってありがたいって」
「どうしてみんな恭香先輩なんですか?」
「えっ?」
「密着カメラが来るなら、普通、恭香先輩じゃなくて菜々子先輩か私でしょ?」
「あ……うん、そうだよね」
それはこっちが聞きたい。
それにしても、梨花ちゃんはそこまで自分に自信があるんだ。
「私、納得できないです。みんな何かおかしいです。恭香先輩、裏で何か変なことしてるんじゃないでしょうね?」
「は? 変なことって何?」
「だっておかしいじゃないですか。みんな恭香先輩にちやほやして。何か自分に寄ってくるような餌でも撒いてるんですか?」
餌を撒く……
梨花ちゃんの発想が独特すぎて驚く。その才能をもっと違うところに生かせばいいのに。
「あ、あのね。私は別に何もしていないよ。普通にしているだけ。梨花ちゃんの言うように、餌を撒くにしても私には何の取り柄もない。撒ける餌がないの」
「まあ、確かにそうですけど。前も言ってましたもんね。ただ話しかけやすいだけだって」
あれは、梨花ちゃんが言ったような気がする。
酔っていたのに、よく覚えているんだ……
「そうだよ。話しやすいんだと思うよ。私は美人でも可愛くもないから、向こうも気を使う必要がないんだよ。たとえ週刊誌に撮られたとしても、菜々子先輩や梨花ちゃんみたいに可愛い子だったら、世間からどんな噂を流されるかわからないけれど、もし相手が私だったら……きっとみんな恋愛関係だとは思わないだろうから」
自分で言ってて悲しくなるけれど、本当にそうかもしれない。
きっと普通に話しかけやすいんだ。
昔からよく「優しいね」って……言われてきたから。
そう言われるのは嬉しいけれど、やはりもう少し見た目がら良く生まれたかった。
そんなこと、今さら言ってもどうにもならないけれど。
結局、私は一生この顔と付き合っていくしかない。
朋也さんは「自信持っていい」なんて言ってくれたけれど、梨花ちゃんみたいにはいかない。
「うん、まあ、そうですね。美人には声かけにくいって……まあそれも一理ありますけど~。だけど、やっぱり恭香先輩ばっかり、亮くんや一弥先輩と話してズルいです~。私もみんなと話したいんです」
「梨花ちゃん。別に私ばっかり話してるわけじゃないから。本宮さんも、一弥先輩も、いろんな人と話してるよ。ちゃんと見てたらわかるから。梨花ちゃんだって、いつもみんなと話してるじゃない」
「え~。そうですかぁ?」
本当にため息が出る。
その時、密着番組のディレクターが私に話しかけてきた。
「お仕事中すみません。実はお願いがありまして。シンプル4の密着番組で、先ほどのあなたと亮君のやり取りの映像を使わせていただきたいのですが……」
まさか、さっきの場面をテレビで流すの?
恐れていたことが……
「あっ、えっと……」
「亮君が、あなたのことを、笑顔がとても素敵なコピーライターさんとして紹介してほしいそうです。ぜひ、お願いします」
「えっ……」
「いかがですか?」
「あ、あの、ちょっと厳しいかも知れません」
「私は彼とよく仕事をしていますが、亮君からそんなふうにご指名があるなんて初めてのことなんで、ぜひ彼の要望を聞いてあげたいと思っています。なので考えてもらえませんか?」
「そ、そう言われても、困るというか……。えっと、自分がテレビに映るなんてかなり抵抗があるので……。すみませんがお断り……」
「いいじゃないか、森咲」
「あっ、朋……本宮さん」
話が聞こえたのか、朋也さんが間に入ってきた。
「シンプル4の密着番組ならかなりの視聴率がある。そこで紹介されたらお前の仕事につながる。お菓子の宣伝にもなるし、会社も有難い」
経営者目線の的確なアドバイスだ。
お菓子の宣伝になるのは確かに有難いことだとは思うけれど……
「でも、やっぱり恥ずかしいです。私はただの一般人ですから、テレビに映るなんて……。すみません」
私が頭を下げた時、一弥先輩も会話に加わってきた。
「恥ずかしがることないよ。恭香ちゃんならテレビ画面を通しても絶対に可愛く映るし、笑顔が素敵なコピーライターなんて最高だよ。これはチャンスだよ」
「一弥先輩……」
一弥先輩が「可愛く映る」と言ってくれた。
可愛いだなんて……
きっと、お世辞……だよね。
ふと横を見ると、菜々子先輩と梨花ちゃんがこちらに冷たい視線を送っていた。
その目は、「お前なんかがでしゃばるな」と言っているようだ。