トムです。こんにちは。
12番目の…使徒の…うぅ、吐き気がしますね。本当に、オレってかわいそう!!!
神に縋って生きるだなんて、そこら辺のネズミよりも酷い生き方だと思ってる。オレは神とか、救いとかを信じたくはないし、そもそも、その類にトラウマがある。
あの無駄に白い羽に包まれたとき、確かに、全てがよくなった気がした。
…気がした、だけだ。そのあとはいつも通り、失望に、絶望に、やっぱり聞こえる、死人の声。全部オレに降りかかってきて、気分が悪くなる。縋るだけ無駄で、信じるだけ無駄だ。あの得体のしれない輪っか…都合よくアレがオレから消えるだなんて思ってもなかったから、あのクソみたいな洗礼と懺悔と、死亡もなかなか悪くなかったと言える。
中央本部をゆっくりと歩きまわっていると、周りの職員、オフィサーに避けられているのがハッキリと分かる。散々アレへついて文句を言ったからだろう、下手に関わると何かに巻き込まれるかもしれない、というのはまぁ分からなくもないし、そもそも周りの職員はみんな使徒だ。自分らが崇めるべきソレに罵詈雑言をぶつける奴とは喋りたくないんだろう。
…茶色い髪の、彼を除いて。
「トム、くん」
「あは…どうなさいました?フィンさん」
さっきから後ろをゆたゆたと、最近歩けるようになりましたよ、みたいな子供のような足取りで歩いていたのには気づいていたし、多分、オレに話しかけようとしているんだろうってのも分かっていた。
目がかなり怖いもので、あまり顔は見たくないのだが、左手に、誰かとお揃いのように見えるペンを持っていた。それが誰とお揃いなのかは…使徒以外の職員と関わっているオレにはよく分かる、アレはエリサ先輩とお揃いのペンであろう。やけにキラキラと輝いていて、あぁ、金持ちの家の子なんだろうと分かるようなペン。これに関しては他の職員とは比べ物にならないくらい綺麗で、嫌な感じではない光り方をしている髪の毛と、細いわけではないが別に太くもない体、発言…食事内容、金持ちであることは確定だろう。
「エリサ、ねえさん、ぼくのこと、きらい?なんですか?」
「……あぁ、どうでしょう、嫌いじゃないと思いますよ、君自体の事はね」
「どぉいうこと、ですか?ぼく、わかんないですよ。あの、もしかして、なんだけど………でもぼく、びゃくやのこと、すきじゃないですよ」
そんな悲しそうな顔をされても困る。だって彼女は神と宗教と崇拝の類が嫌いだから、それらをしそうな弟を避けたとして…仕方のないことだとは思う。
でも、あの人がフィンさんを嫌っているとは思えない。だって彼女、ちょくちょくアイツが正気になれば…だの、アイツをどうにかしてほしい、だの、全部オレに相談してくるんですもの。
本当に嫌いになったのなら、そんな事言いに来ないとオレは思う。少なくともオレはそうするから。
「ねぇ、トムくん、ぼく、ねえさんとごはんたべたいです」
「…………じゃあ、君がソレを信仰していないってことを証明してくれれば」
「わかんないです、ぼく、はなすのにがてです、トムくん、ぼく、どうしたらいいんですか、ねえさんとおはなししたいです、ぼくは」
「落ち着いてくださいな……まぁ、仕方ないですね、無理矢理約束を取り付けてきますよ、フフ、楽しみにしておいてくださいよ、ね?」
そう言ったら、やけに嬉しそうな顔をして彼は帰って行った。とことん子供っぽい子だなと思う。そりゃ姉の方がああなるわけだ。だってすぐ騙されそうだし…。
まぁ、あんな子供みたいなのを騙して遊ぶような人間にはなりたくない。ちゃ~んとエリサ先輩にご相談しに行かなきゃね。フフッ、嫌がったりしないといいなぁ。
「……あぁ、考え事をしていたら仕事が終わってしまったなぁ!いっそのこともっとアレについて喋っておくんだった!」
大きな声で言ってやれば、周りの職員が嫌そうな顔をした。分かりやすい奴らだ。まぁ、フィンさんは相変わらずニコニコしているんだけれど。
仕事が終わった、となるとやる事は一つ、エリサ先輩が部屋に帰ってしまう前に引っ捕まえてやろう。あの人は足が速いし、異様に早く部屋に帰るから…走った方が良いだろう。
なんとなく頭が痛むが、いつものことだし、気にする必要は一切ないだろう。これも多分、死人のクソみたいな未練が目に見えるからだろう。
ささっと荷物をまとめて走り出してやれば、後ろの方でコソコソと何か話し始めた職員と、一人でオレの事を眺めて…手を振っているフィン。
オレはフィンとその他有象無象共に向かって大きく手を振ってやった。お前らの声は聞こえてるぞと言いたげな顔をしてやれば、すぐに顔を逸らされた。馬鹿みたいに分かりやすい奴らだな!
紫色の通路を走って、やけに到着が速いエレベーターに乗って、教育チームのメインルームにまだ人が居るか確認すれば、そこにまだ茶色い髪の奴はいた。
「…っあ、トム~?そんな、息切れしてるけど、どうしたのさ~」
「っはー…一緒に、飯、食いませんか……はぁ…」
「えそんなことで走って来たんだ……?まぁ、いいよ、ちょっと待ってて」
そんなことって…君の弟が頼んだことだよ、と言いたくなってやめた。言ったら来てくれなくなる気がする。
…さて、オレもフィンを呼んでこないとね。
「すいません先輩!先に行っててくださいね~!オレまだ用事あるんで!」
「あぁ、そうするね」
教育チームのメインルームから出て、まだ荒い息をしている体を上手く走らせる。全く、弱ったものだね。昔はもっと長い距離をもっと早く走ってもこんなに長く続くことは無かったのに。
あまりに必死だったのか、目を閉じて走っていたらしい。うっかり人間じゃないのにぶつかったら困るから、と思って目を開ける。と、すぐそこに人が居た。
……なんで人が居る?突然のことだったから、上手く止まり切れず、本当の本当に目の前の所まで近づいてから、ようやく停止することが出来た。
ギリギリ鼻が触れないくらいの距離で止まったせいで、誰か分からない。えっと、でも、この目は…。
「……トム、くん」
「ウワッーーーーー!?!?!!?!?…………あぁ、ごめんなさい、大丈夫でーーーす!!!!」
「ううん、いーよ、ねえさん、きてくれるの?」
やっぱりフィンさんだったらしい。いや、ちょっとくらい後ろに下がっても良かったのに、どうしてそこに留まり続けたのかが分からない。まぁいいか。
「来てはくれますけど、君が来ることは伝えてませんよ…オレも同席した方がいいかい?」
「きたいなら、どーぞ」
「……そういうことじゃないんだけどなぁ」
まぁ、いいか。途中までついて行ってやろう。
さっき遠くから大丈夫~!?みたいな声も聞こえたし、多分今頃エリサさんは部屋についてて…何なら何か食べてるかもしれない。
「さ、行くよ~…逃げないようにオレが先入って、君の姉さん捕まえておくんで、そしたら入っておいでね」
「はぁい、かしこいね、きみは」
これくらい誰にでも思いつくことだろうに。
ちょくちょく目に入る円形の物に気分をかき回されながら、フィンの手を引っ張っていく。なんとなく嫌な気分だ、優しく掴むんじゃなくて、乱雑に掴めばよかった。
…そもそも、掴まなければ良かったのか?毎回選択を間違えるみたいだ。
ちょっとずつ、本当にちょっとずつ前に進む。これはオレの足が遅いんじゃなく、フィンの足が遅いからだ。
フィンさんはなかなかゆっくり歩くうえに、話しかけると立ち止まってから返事をしてくるから、必然的に会話はなくなる。そうしないと多分、エリサさんの部屋つく前に日付が変わってしまう。
エリサさんの部屋の前についた時、フィンが小さな声で話しかけてきた。何やら聞きたいことがあるんだとか。
「ね、トムくんはなんでぼくのこときらいなの」
そんなことを聞きたかったのか、あほらしい………けど、一応答えてやる。
「…その頭についてるのを外してくれたら嫌いじゃなくなるよ」
「それはむずかしいなぁ………」
「じゃあ、一生無理だね。ノックするから、向こう行ってて」
「……ぼくも白夜のこと、きらいになれば、きみはぼくとおともだちになってくれる?」
さっきよりもっと小さな声でつぶやいたソレ、ちゃんと聞こえてしまった。あぁ、とことん嫌な事を思い出させてくるんだな、使徒って。
頭の中に浮かび上がってくる嫌な記憶を何とか振り払ってから、ノックを三回する。
「…何を言ってるんですか、ほら、早く行ってください…」
やっぱりというべきか、ゆたゆたと歩き始めた。早く行かないとバレるっての…!扉が少しだけ開いた。
あーあ。
「はーい、ト、ム…………フィン?」
「あ、ねえさん」
そのまま、ちょっと困ったような顔をして勢いよく扉を閉めようとするものだから、閉まりきる前に腕を挟んだ。骨が折れるんじゃないかと言いたいくらいの痛みが走ったけど、問題はない。
そのまま無理矢理扉をこじ開けると、少し遠くに居る先輩と目が合った。これじゃ、オレらが強盗みたいじゃないか。勘弁してほしいものだ、全くこいつらは…。
「あはぁ…すみませんね先輩、同僚がお姉さんとお話ししたいんですって!ほら、行っておいで、フィンさん」
「うん、しつれいします、ねえさん!」
僕の隣をフィンさんがそっと通り抜けていった。エリサさんが更に後ろに下がったけれど、そんなに怯えなくたって襲われたりしないだろう。だって、弟だよ。
いや、弟に襲われたって人を見たことがないから言えるだけで、そういうことはあるのかもしれないが…フィンさんがそういうことを理解していない可能性に賭けよう。
「あぁ、エリサさん?弟ですよね?何も怖くないですよ。だからそんなに怯えなくても良いんだってば…そうでしょ?」
「え、あ、あぁ…はは、そうかな………トムには後でちゃんと謝ってもらうから、いいね?」
「もちろん~、じゃあ、楽しんでおくれ」
さっきエリサさんがやった時のように、勢いに任せて扉を閉めた。大きな音を立てて閉まった扉の向こう側からは何も聞こえない。二人して黙っているんだろうか。
なかなか面白い姉弟だこと…でも、エリサさんも大変だなぁ、となんとなく思った。
あんなのが部屋に居るだけで、気分が悪くなるんだから…彼女も長時間一緒には居たくないだろうし。どうなることやら。
まぁ、エリサさんが彼を殴ったりするとは思えない。そもそも、そんなことが出来るならとっくの昔にしていただろうしね。オレがもっと強かったら、絶対殴っていたから!
さっきフィンさんの手を掴んでいた方の手が歪んで見える。やっぱりダメだね、使徒と関わるのは。
「あーあ、ちょっと嫌な事思い出しちゃった~」
明日はもっと酷いことを言ってやろうね。そうしないといけない気がするからとか、そういうのもあるにはあるけど、そうじゃなくて。
なんというか、そうすることで、過去の自分が肯定される気がするから、そうしているだけ。
君は間違ってなかったんだよって言ってあげなきゃだよね~。
…というか、そうでもしないと気が狂いそうだから。あぁ、オレのやる事なんて全部、全部否定されなきゃいけないのに。ずっと自分を認めてやらないと息すら出来ないのかも。
まぁいいや、一旦はね。今日は…なんとなく、夕飯は食べたくないな、と思う。それじゃあ、風呂入って寝るか…まぁ、寝る前に新聞とか読んでも良いかもね。少しでも今日をいい日にしよう。それがいい。
いや~~…いいことをしたとは思ってないけど、悪いことをしたわけでもないね。多分、フィンさんにとってはいいこと何だろうし、エリサさんにとっては悪いこと…だと思う。
というか、明日になってどっちか休んだらオレどうしたらいいんだろう。会社に来た片方に聞いても答えてくれない可能性あるよね?なんなら二人とも休んだりしたら…。
…ってなると、オレ、結構酷いことしたかも~~!!
まぁまぁ、オレってばかわいそうな子だからね、きっと管理人も皆も許してくれるよ。多分。
さっさと部屋かえって寝よう。今日は疲れたし、腕は痛いしで………そういえば、さっき扉が閉じないように挟んだ腕って、フィンさんの腕を掴んだ方の腕じゃないか?
「………もしかして、ワンチャン折れたかな~~…?」
折れたかもしれないなら、さっき歪んで見えたのもまぁ理解できる。うーん、どうしよう…ちょっとだけマクスウェルの所行こうかな…見てもらわないといけないし、もしうっかり折れてたら…どうしようか。
まぁ、いいや。どうせ再生リアクターで治るでしょ、多分治るからそのまま寝ちゃお。
はぁ~~~~、今日は疲れたなぁ。まぁ、オレ、なんもしてないけど。やったことなんてこのクソみたいな行為だけだけど。
一旦寝ればいい感じになると信じて、自分の部屋の扉を開ける。開けるときもちょっと痛んだけど、多分大丈夫。
そのままベットに飛び込んで、目を閉じることにした。
おやすみなさい、それと、ごめんなさい。ちょっと迷惑なことしちゃったかもね。
案の定腕は折れてたみたいで、朝起きたら異常に痛くてちょっと吐きそうだった。
終わらせ方わかんなくなって結局悲惨なことになってしまった。
なんなら途中で飽きてしまって、急にカスみたいな話になってる可能性はある。
クソ読みづらい上にこんな終わらせ方になってしまった申し訳ない。許して♡
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