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第二十八章 痛いの、飛んでいけ
「痛いのいた〜いの飛んでいけ」
痛いところには触れずに、
〝の〟の字を空に書く。
〝早く治りますように〟
そんな願いを込めて――
「お兄ちゃんすごい!本当に痛くなくなったよ」
目をキラキラと輝かせたその笑顔を守らなきゃと思った。
二人きりの家族を――
僕らは小さな事でも喜びや、幸せを感じられた。
一人分の幸せを二人で分けたから。
悲しいことも二人で分けた。そうすれば何でもへっちゃらだった。
〝素敵な看護師さんにきっとなれるよ〟
そう屈託ない笑顔で言ってくれたのも妹だった。
――守らなきゃ、って思ったのに
「……うっ……はっ!」
目を開けると、最初に飛び込んできたのは雪うさぎのうさちゃんだった。勢いよく掴んで胸に引き寄せる。
少し乱暴に扱ってしまって慌てて引き剥がした。
翔太💙「ごめんね……痛かったよね?」
俺が、ちゃんと守れてたら――
蓮 🖤「お前、ぬいぐるみにも優しいのか?」
〝どうして――〟
息が苦しい。
また、侵入者だ。
蓮 🖤「おい……大丈夫か?……ゆっくり呼吸しろ」
翔太💙「……はっ……は、っ……」
うまく吸えない。
胸が詰まる。
蓮 🖤「いいから、吐け」
低い声。
蓮 🖤「吸おうとするな。吐け」
手首を掴まれる。
強くはない。
でも、逃がさない。
蓮 🖤「……俺の声だけ聞け」
翔太💙「……っ」
蓮 🖤「吐け」
一拍。
蓮 🖤「……そう」
少しだけ、呼吸が戻る。
蓮 🖤「もう一回」
翔太は、胸に抱えたままの雪うさぎを見た。
小さくて、軽くて、頼りないのに、
――手放せない。
蓮の手が、視界に入る。
大きくて、無遠慮で、勝手に触れてくるのに、
――離れない。
翔太💙「……触らないで」
声が震える。
翔太💙「入ってくんなって言っただろ……」
蓮 🖤「ああ」
即答。
でも、離れない。
翔太💙「れん……」
蓮 🖤「なに?」
翔太💙「しょうたって呼んで……」
優しく頰を撫でた蓮の手は温かくて、〝しょうた〟と呼んだ蓮の声はストンとは落ちなかった。
唇が触れてキスされたのだと分かった。
静かに目を閉じた。
――ああ、また
〝選ばれる側〟だ
ベッドに体が沈んでいく。
……眠い。
ギシっとベッドが軋んだ。
目を開けると、長い前髪を掻き上げ見下ろす蓮が、首筋に顔を埋めた。
また選ばれた……〝ゆき〟
ナース服のファスナーが下ろされていく。
太腿を撫で蓮の膝が、股を割って翔太の秘所に当たった。
蓮 🖤「抵抗しないのかよ?」
翔太💙「みんな……ユキが好きだから」
蓮 🖤「ゆき?」
翔太💙「好きにしろよ……その代わり金払えよ」
壊れていく音がした。
蓮 🖤「……」
一瞬、止まる。
翔太の言葉。
「金払えよ」
それが、
あまりにも軽くて、あまりにも重い。
蓮 🖤「……は?」
蓮 🖤「……誰に言ってんだ」
低く、落ちる声。
軽蔑じゃない。
ただ、ひどく傷ついた目を翔太に向けた。
蓮 🖤「……ふざけんな」
小さく吐き捨てる。
でも、怒鳴らない。
蓮は、静かにベッドから降り、背を向けた。
〝言葉は魔法みたいなものなんだ〟
小さい時にお父さんから言われた言葉。
お友達と喧嘩をした。
〝もうリョウちゃんとは遊ばない〟
酷く傷付いた顔をしていた。あの顔が脳裏に浮かんだ。
〝一度言った言葉は消えない〟だからこそ慎重に……
相手を慮って、言葉を選びなさい。間違えた時はちゃんと〝ごめんね〟を言いなさい。
あの後――ちゃんと謝ったっけ?リョウちゃんに――
幼馴染のリョウちゃん。今はどうしているだろうか。
20年以上経っても、何も変わってない。
雪うさぎのぬいぐるみを引き寄せ声を押し殺して泣いた。
〝ごめんなさい〟も〝ありがとう〟も言えない俺は、そっと優しく頭に添えられた大きな手が愛おしく、掴むと、頰に摺り寄せた。
蓮 🖤「どうしようもない奴……」
蓮 🖤「おいで」
ぐしゃぐしゃに泣き腫らした俺を〝お世辞にも可愛くない〟と言いながらも、両手を広げて迎え入れた黒豹の笑顔は優しくて、思わず〝らしくないぞ〟と言って胸に飛び込んだ。
蓮 🖤「ふふっ……同感だ」
不思議だ。
蓮の胸はあったかくて、優しい匂いがした。
これまではなんだか怖くて近寄り難かったのに、今は、この温もりが離れ難い。
規則的に背中をとんとんと弾かれて、再び睡魔が襲った。
翔太💙「お仕事……行かなきゃ――」
蓮 🖤「上司命令……今日はもう休みなさい」
翔太💙「せんせ……ごめんね」
とく、とく、とく。
蓮の心音が鳴り響く。
心地よくてシャツを掴んで隙間なく抱き付いた。
蓮 🖤「参ったな」
華奢な身体、離れ難そうに掴んだ小さな白い手。
どれも、翔太らしかった。
そっとおでこに唇を押し当てる。ピクリと眉が反応すると、思わず蓮はクスッと笑った。
手際よくナース服を脱がせ、立ちあがろうとすると手首を掴まれた。
翔太💙「行かないで……」
蓮 🖤「お前なあ……」
翔太は夢の中。不意に掴まれた手首は力なく下げられた。
ナース服をクローゼットに仕舞うと、スウェットを手に取り着替えさせた。
その間翔太はずっと蓮のシャツを掴んだままだった。
無理に引き剥がすことも出来るだろうに、蓮は翔太を胸に抱き寄せそのまま静かに目を閉じた。
――――
亮平💚「なにどういう状況?」
しーっと人差し指を翳した蓮は、翔太の頭をそっと撫でると、起こさないように静かにベッドから降りた。
蓮 🖤「代われ」
蓮 🖤「夜勤だ。一緒に居てやってくれ――」
亮平💚「勝負は?お預け?」
蓮 🖤「聞こえたらどうする?場所を考えろ」
蓮は亮平を睨むように冷たい視線を送った。
尚も翔太は蓮のシャツを掴んだまま。そっと引き剥がすと右手に抱き締めていたぬいぐるみを引き寄せた。
蓮は思わず翔太の頭をもう一度撫でた。
亮平💚「あら、まさか本気?」
蓮はこれ以上話すのは無駄とばかりに白衣を片手に部屋を後にする。ドアノブに手を掛けた蓮。
蓮 🖤「変なことするなよ」
亮平💚「翔太が望まないことは俺はしないよ?お前とは違うから」
蓮 🖤「……どうだか」
ガチャっと開いた扉。
蓮は一瞬躊躇うように一拍遅れて足を踏み出した。
翔太を起こさないように優しく閉められた扉にピクリと眉根を寄せた翔太。
翔太💙「んんっ……行かないで」
亮平💚「大丈夫……ここに居るよ」
細い腕を伸ばした翔太は、亮平の服を掴むと引き寄せた。
滑り込むようにベッドに入った亮平。
両手で抱き締める。
亮平💚「随分と甘えん坊だね」
翔太💙「……れん」
亮平💚「……それは頂けないな」
スウェットから覗いた白い肌。
軽く首筋に噛み付き、吸い上げた。
反応を楽しむように、舌を這わす。
翔太💙「んっ……」
ピクリと反応した翔太の身体。
亮平💚「ふふっ体は素直なのに……」
〝いっけなーいお預けだった〟舌を出して茶目っ気たっぷりに笑うと、翔太の鼻のてっぺんを弾いた。
亮平💚「ゆっくり寝なさい……いい子ね」
〝起きたら覚悟なさい〟
耳元で囁いた亮平は、右手に抱えたぬいぐるみに視線を落とした。
亮平💚「随分と傷だらけだ……」
とん、とん、とん。
その手は、優しかった。
でも――
翔太は、気づかない。
――痛いの、飛んでいけ。
コメント
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めっちゃ、きゅんきゅんしたぁ!!!🖤一歩リード?????😳😳😳

この回登場予定のなかった阿部💚 会いたくなって召喚してしまった😍