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「し、白川さんっ!」
「……ぇ、え? あ、はいっ! 私、ですよね。何でしょう、黒沢君」
翌日、学校が終わった後。
さて帰ろう、みたいにいつも通り帰宅の準備を進めていたのだが。
今日に限っては、珍しく黒沢君が声を掛けて来た。
一瞬自分に声を掛けられたと思わなくて、変な反応しちゃったけど。
「きょっ、今日って……その、時間……あったり、する?」
「今日、ですか? ぁ、えと……ガンサバの事でしたら……すみません。まだちょっと忙しくて……夜は、そっちに掛かり切りになるかなって……」
ほんっとうに申し訳ないが、しばらく“46leather”の方で遊んでいる時間は無さそうなのだ。
何と言っても今回はチーム戦。
それぞれ得意分野が違う為、事前の練習が何より大事になって来ると言われてしまったので。
イベントの仮想ステージを使って、しばらくはそっちに掛かりきりになってしまうのは間違いない。
サブキャラでの集団戦ならまだしも、メインアカウントの方では完全にお仕事。
しかも今後の賞金首のイメージに関わって来るとなれば、私だけ簡単にやられちゃう訳にはいかない。
というか私がやられたら、チームの皆に致命的な迷惑が掛かってしまうのだ。
だからこそ、これまで以上に本気でやらないと不味い。
なんて、やる気を漲らせていたのだが。
「そっち、じゃ……なくてさ。えぇと、うん。しばらくガンサバは出来ないよっていうのは、ちゃんと理解してるから……あの、ね? 昼間の間とか、も……忙しかったり、する……かなぁ?」
何やら歯切れの悪い感じで、黒沢君がそんな事を言って来た。
昼間の間、というと……今? という事で良いのかな?
休日だとすると、皆の予定が合えば昼間でも練習に使っちゃうだろうけど。
「ぁ、あの……例えば……今、とかですかね?」
「う、うん。正確には、放課後とか……ちょっとした時間とかでも良いんだけどぉ……」
おぉ、放課後に予定を作るという発想そのものが無かった。
あるとすれば、帰りにスーパーとかに寄って食材を買おう、くらいなものだったので。
実家だったら、真っすぐ帰宅しなさいって厳しく言われていたけど。
お兄ちゃんからは、あまり遅くならなければ自由にして良いって言われているし。
「お兄ちゃんの帰りが早い時は、お夕飯を急ぐのであんまり時間ないですけど。それ以外だったら、忙しくは……無い、ですよ? どうしました?」
なんかこういう会話も、ちゃんとした高校生っぽい。
とか思って、ちょっとだけニヤけながら声を返してみれば。
相手は、何故か深呼吸をしてから。
「きょっ、今日とか……時間、あったり……します、か?」
「暗くなる前までなら、平気……ですかね? あんまり遅くなると危ないって、お兄ちゃんからも言われているので」
未だに相手の要望が分からず、はて? と首を傾げてみせると。
黒沢君は何やら顔を赤くしてから。
「い、一緒に……ちょっと、出掛け……ません、か? その、変な意味じゃなくて。白川さんが興味あれば……その、えぇと。エアガンのショップ、とか。ガンサバでも出てくる銃とか、あるし。一緒に見に行ったら、楽しそう……だなぁ……って、思って……」
途切れ途切れながらも、そして普段より小さい声ながらも。
黒沢君は今、確かに言った。
ガンショップに、連れて行ってくれると。
という事で、ガタッと席を立ちあがり。
「行きましょう! 今すぐに! 実際に見てみたいです! というかリアルガンショップ、入ってみたいです!」
#このキャラでログインしたい
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思いっ切り、食いついてしまうのであった。
だって、ガンショップだ。
ゲームの中や映画でしか見た事の無い、銃がいっぱい売っている場所なのだ。
興味ない訳が無いじゃないか。
だって私、ガンサバやってるし。
お兄ちゃんに貰ったモデルガンだって、未だに弄り回しているし。
もはや外聞とか気にする前に、とにかくその場に踏み込んでみたい気持ちが最優先になってしまった。
遊園地行くかって聞かれた子供かな? ってくらいに脊髄反射で答えた気がするけど。
いやうん、多分それを聞かれたら私は今と同じテンションになる気がする。
そういう所に行った経験、ないし。
◆
どうしようどうしようどうしよう。
頭の中は、その言葉でいっぱいだった。
だって、今。
俺……白川さんと、デート? してる。
兄貴の物凄い後押しがあったが為に、もはややけくそになり。
本日の放課後、白川さんを遊びに誘ってみたのだが……物凄く、あっさりOKをもらってしまった。
これ、デートだよね? 男女が二人で出かけてるし、デートだよね?
もはや脳内はそればかりに埋め尽くされ、顔面はずっと火炎放射器状態。
緊張のし過ぎで妙に黙ってしまいそうになるが、一緒に電車へと乗り込んだ彼女はずっとワクワクしている御様子。
どうにか退屈させないようにと会話を振ってみれば、口から出て来るのはオタク発言ばかり。
銃がどうとか、ゲームがどうとうか。
しかもこれから向かう先もエアガンショップっていう、本当にどうしようもない感じなのだが。
彼女はずっと楽しそうな表情を浮かべているので、ヨシッ! という事にしよう。
多分、おそらく。
女の子の事とか、全然分からないけど。
「そ、その……本当に、よかった? ガンショップで……」
「はいっ! 凄く楽しみです! というか、お兄ちゃん以外の人と出掛けるのも凄く久しぶりなので……エヘヘ」
なんて言って、はにかんだ笑みを見せてくれる。
駄目だ、もう言い訳しようがない。
俺はきっと、彼女のお兄さんに殺されるんだ。
いやむしろこんな行動に出た以上、殺される覚悟じゃないと不味いんだろう。
そんな決意の元、一緒に電車で揺られているのだが……改めて感じる。
シロさんの時も度々思う事だけど、白川さん小っちゃ!?
え、女子って隣に並ぶとこんなに小さいものなの!?
俺の胸くらいの位置に頭があるんだけど、彼女がこっちを見る時絶対上目遣いになって、無駄にドキドキするんだけど。
ゲームの時より前髪が長いから表情隠し気味だけど、それでもドキッとする。
などとやっている内に目的の駅へ到着、そしてどうにか会話を繋ぎながら件のショップへと踏み込んでみると。
「す、凄い……銃がいっぱい並んでる……」
物凄くキラッキラした瞳で、店内を見回している白川さん。
いや絶対、普通女子を連れてくる場所じゃないよね。
SNSとかにこの事を書いたら、正気かって疑われる場所だよねきっと。
とかなんとか、未だに心の中で葛藤していると。
「く、黒沢君……コレは、触っても良いヤツでしょうか……?」
早くも棚の方に興味を示したらしく、雑にパーツやらジャンク品やらが並んでいる場所にしゃがみ込んでいた。
し、白川さーん?
あえてそんなに隅っこに行かなくても、硝子ケースの中に並んでるヤツでも、店員に言えば触らせてもらえますよー?
「そっちじゃなくても、気になったのがあれば触って平気……だよ? 一回、店の中グルッと見てみない?」
「あ、あっちも触れちゃって問題無いんですか!? こんなに綺麗なのに……あ、でも。素人の私が触って暴発とかしたら……」
「いやいや、全部オモチャだからね? しかも弾とか入ってないから。あ、でも中古は気を付けてね? 管理が雑だと、たまに弾やガスがそのままだったりするから」
「……ガス?」
おっと、トイガンに関してはそこからか。
などと思って、一気にオタク語りが始まりそうになったが……落ち着け、一気に語っても引かれるだけだ。
とか何とか葛藤しつつ、言葉を選ぶために思考回路をフル回転させていると。
不思議そうな顔をしながらも、此方の背後にくっ付いて来る白川さん。
これに対して、ピタッと全身と思考が停止した。
前にお兄さんと一緒の時に見た行動だけど……この子もしかして、誰かの背後に隠れる癖とかあるのだろうか?
近い、今日一番近い。
ぎこちない動きのまま店内を歩いてみると、彼女もそのまま後ろに付いてくるし。
しかし興味自体は凄いのか、周囲をキョロキョロとしながらも……なんか、チョイッと服を摘ままれてしまった。
視界はあっちこっち、でも服を掴んで一緒に付いてくる。
逸れない様にしている小さい子みたいに、無意識にこっちを触れているみたいな。
なんだろう、うん、なんだろう。
白川さんのお兄さんがあそこまで過保護なのが、ちょっとだけ分かった気がする。
あと今の俺、全身色んな汗がヤバイ。
「あっ! コレ、もしかして……」
そんな絶賛発汗中の俺はともかく、白川さんがガラスケースの中の銃を指さしながら立ち止まったではないか。
彼女に続いて覗き込んでみると、そこには。
「あぁ、それね。前に言った様に、トイガンのオリジナルカスタムだよ。実際に手に取ってみる?」
「で、出来れば触ってみたいです!」
ブンブンと興奮気味に頷く彼女に微笑みつつ、店員さんを呼んでケースから銃を出して貰った。
そして、ガスや弾が残っていないのを確認してから彼女に手渡してみると。
「え、えへへ……この銃、黒沢君から渡されたのは二回目ですね」
緩い微笑みを浮かべ、恐る恐る銃に触れる白川さんにこれまたドキッとした。
やっばぃ……これは、不味い。
思いっ切り当時のシロさんを思い出してしまった。
凄く嬉しそうにしながら、柔らかく微笑んで銃を受け取った小さい女の子。
そして今、リアルのその子が。
目の前で再現されてしまったのだ。
この瞬間、カッと目を見開いて銃の値札を確認。
なるほど……な。
高校生には、少々手が出し辛いお値段。
というか、ココにある商品のほとんどがそうなのだが。
本日の俺は、兄貴によって戦闘力が上がっているのだ。
『いいか現太、コレはお前にやる小遣いじゃない。お前の実績を残す為の軍資金だ、分かったな? 何でも買ってやる奴は“好かれる”かもしれないが、“好き”にはなって貰えない。金の使い所を間違うな? 雑に使うんじゃなくて、雰囲気を作る為に使え、絶対。そういう所では出し惜しむな。断られる可能性もあるから、常に冷静を意識しろ。良いな? そんでもって、俺の勘だが……多分、その子が興味を持つのは――』
――“ハンドガンだ”。
そう言って三万渡してくれた兄貴、本当にありがとう。
今俺は、兄貴を心から尊敬しています。
買える、買えるよ、この銃のお値段なら。
だが焦るな? 兄貴も雰囲気作りが大事だって言っていたのだから。
この場で「買ってあげるよ」なんて言っても、白川さんには絶対断られる。
物凄く欲しそうな目で銃を見てるけど、俺が言ったら絶対遠慮する筈。
だからこそ、彼女に内緒で買ってから後でプレゼントするなどの状況を作らないと駄目だ。
などと思っていると、やはり彼女は店員さんに銃を返してから。
「すっごく惹かれますけど……あはは、あんまり高いお買い物は……ありがとうございました」
や は り だ。
こうなれば、ここはこっそり買っておく作戦に変更すべきなのだが。
「あっ、黒沢君! あっちにガンサバで使ってる銃が飾ってあります! 向こうも見て良いですか!?」
楽しそうにしながら、再び俺の背後へと移動して来たではないか。
ん? んん? これは……いつ、購入すれば良いんだ?
後ろにピッタリくっ付いちゃったけど、俺一人だけ離れちゃったら……駄目、だよね?
多分だけど……白川さん、ココで一人にして放置したら、泣きそうになるよね?
という事で本日は、彼女と一緒に色んな銃を見て回るのであった。
いや買えませんでしたけどぉ!?