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「いや、だって……」
文句を言ってコタツに戻ろうとする有夏を床に座らせるのには骨が折れた。
「ほぅら、有夏が最近ハマってるシンポテトだよぅ。噂のハニーチキン味だよぅ」
「むっ……」
帰りに買ってきた新発売の菓子で釣る様も情けないが、つられる方も如何なものか。
「まぁいいわ、起きるわ。いいかげんのぼせたし」
気楽な一言とともに、コタツとベットの隙間にズルズルと座り込む有夏。
もたれようとする背を、幾ヶ瀬は両手で支えた。
「さぁ! ヨガの基本から始めるよ」
肩に手を置いてゆっくり前に押していく。
「痛っ!」
「まぁまぁ」
押すというより、少しずつ体重をかけていく感覚か。
「こうやってゆっくり伸ばすと効果が出るんだって。チラシにそれっぽいことが書いてあった。はい、ゆっくり息を吐いてぇ!」
「それっぽいって、いい加減な……イダッ、イダダダダッ!」
ほんの少し押しただけで悲鳴が絶叫に変じたことに、幾ヶ瀬は呆れたようだ。
「体が硬いにもほどがあるよ、有夏? ほら、もうちょっと頑張って」
「イダダァァッッ! イダアァァァ!!」
有夏の目からピュッと水分が飛んだ。
「えっ? 有夏、泣いてるの?」
「な、泣いてなんかねぇ……」
泣くというより、目から涙の成分を噴き出すようにして苦しんでいる。
これはマズイんじゃないか……いろんな意味でマズイんじゃないかと幾ヶ瀬は表情を歪めた。
高校を卒業したのが2年前になるか?
まだ若い。
世間的に見たってまだまだ若者の部類に入る筈だよなと幾ヶ瀬は自問する。
なのに、このていたらく。
よく考えたら有夏は月曜以外はろくに外に出ていない。
その月曜にしたってジャンプを買いにコンビニへ行くくらいだ。
寝転がってゲームをしてるか、マンガを読んでいるか、アニメを見てるか……それ以外の姿をついぞ見ぬ。
──介護。
という単語が浮かんだ。
「ヤ、ヤダよぅっ! 怠けすぎて足腰立たなくなった有夏を背負ってコンビニ行くのなんて! 60年早いよっ!」
「なに言ってんだ?」
ブルブルと勢いよく首を振って、幾ヶ瀬は有夏の背を力まかせに押した。
「イダダァッ!!」
「頑張ってよ、有夏! ジャンプくらい自分で買いに行ってよ!」
「何の話をして……イダァッ!」
目からピュッピュッと痛みの涙を飛ばしながら、有夏は前屈に耐える。
介護という危機感のせいか、本日の幾ヶ瀬。
いつになくスパルタだ。
有夏が泣こうが喚こうが、手を緩めることがない。
「知ってる? ヨガってサポートしてる方も汗かくんだねっ! 健康にいいんだねっ!」
「知るかっ……」
「ほら、有夏もちょっとは曲がるようになってきてるよ? もうちょっと頑張って。自分の足で歩けるようになろう!」
「何の話を……」
「ヨガっていいね! 何かリア充って感じするね!」
「かってにりあじゅれ……」
「リアじゅれ?」
たっぷり30分を前屈に費やしたあげく。
ヨガというより、これは柔軟体操であることに、当人たちはようやく気付いた。
「本日のリア充」完
※読んでくださってありがとうございました。またお話を思いついたら更新します※