テラーノベル
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キスはレモンの味、だなんて言うけれど初めてのキスはレモンの味なんてしなかった。
そんな事信じていたのか?なんて問われてしまえば別に信じていたわけじゃない。
ただ、知っていただけ。頭の片隅にあっただけ。
実際にしたのは煙草の苦い味だった。
「雲雀先輩、何してるんですか」
「んー?みせーねんきつえん」
「わぁ、見事なひらがな発音」
「おー、おー、ぶっ飛ばすどー?後輩くん??」
なんて荒い口調ではあるが随分と疲労をにじませた柔らかい口調で、お決まりの飴を渡してくる雲雀に奏斗はいつも通り離れたところに腰掛ける。
今日はどうやらイチゴ味らしい。口封じ用の賄賂だとか言ってたけどよくもまぁこんな色んな飴やらあるもんだ。
奏斗は関心半分で飴の袋を開けた。
「大丈夫ですか」
「んー?なんがよ」
「色々、雲雀先輩元々痩せてるのに今は飛んでいきそうですよ」
「んはは!いいやん、飛ぶとかちょー楽しそう!」
ニパ、とこちらを振り向き笑うその表情は先程まで煙草を蒸かし、随分と憂いに満ちた歳には見合わない表情ではなかった。
どちらかと言えば無邪気で眩しすぎるくらい。
じわり、口に入れた飴の甘ったるさに目が回りそうだ。
「……あんま?!」
「んはは、そーやろなソレバカ甘いヤツやし」
分かってて渡したのかコイツ、じとーと睨めばくすくすと笑う。それからまた目をそらす。
奏斗は立ち上がり雲雀に近寄る。雲雀はキョトリと首をかしげ、半歩引いた所で奏斗の長い腕が雲雀の腰を掴み引き寄せる。
「ぉわ…っ」
マジでうっすいなぁ。
「こ、こーはいくん?」
雲雀の手から煙草をもぎ取り地面に落として二度と吸えない状態にする。それから未だ名前を呼ぼうとしない事への苛立ちを隠すように、唇を重ねる。
ちゅ、ちゅ…からん
胸を押すその手を取り唇を離せば、熟れたリンゴのように耳や頬を赤くするその様子に自分の口角が持ち上がるのがわかる。
「じゃ、僕戻るんで…あ、あと僕このまま行けば生徒会長行けるから覚悟しといてね〜、先輩」
口にはタバコの苦さといちごの甘ったるさが残った。
綺麗な歌声を穢す煙草も、あの人のからだを犯す煙も全部辞めさせたい。
そんな衝動を抑えるように、唇に触れた。
「…思ったより口小さいな…雲雀」
早く、早くあの人の全部が欲しいなぁ
甘すぎる飴を舌で転がしながらぼんやりと背中を冷たい柵に押し付ける。
生粋の優等生。彼の友人二人も随分と模範生なようだし、まずまずとしてなんであんなに興味持たれてんだ?…俺。
初めて会った時、あどけなさの奥に驚くほど静かな落胆を抱いたアイツの口に唇を重ねた。
共犯な、なんて我ながら馬鹿な事を呟いた。
今更ながら頭おかしかったな、なんて雲雀はカラカラと記憶を辿りながら思う。
「……あー、あま」
あの目が俺だけを写して歪に歪むのがなぜだか酷く気持ちよかった。綺麗な汚れひとつないソレを、汚せた気分になった。
「…んは、あんな顔もするんや」
獣みたいな、きたねー顔。
「…かお、あっちぃ」
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