春を告げる鶯のさえずりと共に君のすすり泣く音が聞こえてくる。
「なぁ…」
「なんで泣いてるんだよ…」
最愛の君が泣いている。
胸をぎゅっと締め付けられるような痛みが走る。
『守れなかった…泣』
『俺がアイツを守るって誓ったのにっ泣』
守れなかった?なんの事だろう。
それに、アイツって誰のことだ?
「おまえ何言ってんだよ…笑」
『なぁ、覚えてるか?』
『いつか、必ず結婚しようって約束した事』
「覚えてるに決まってるだろ。」
「でも何で今言う必要があるんだよ」
『それに、俺が守るって誓ったんだ…』
「だから何で今言う必要があるんだよっ!」
先程からやけに話がかみ合わない。 話しかけても反応はするが、俺の質問に合った答えなど返ってはこない。
『本当にあの時は幸せだった』
『朝起きれば隣にはアイツがいた』
『名前を呼べば直ぐに駆け寄ってきた』
『肌に触れれば温かい体温を感じた』
『全部ぜんぶ、幸せだったのに。』
『今はもう、その当たり前は叶わない。』
本当に訳が分からない。
君はさっきから誰の話をしているんだ?
そんな些細な事も俺は分からなくなってしまったのか?
何ひとつ状況が掴めない。
とても大事な君のことだって分からなくなってしまうのか?
そんなの嫌に決まってる。なのに、何も分からない自分自身がとても憎く感じてしまう。
『戻ってきてくれよ…泣』
『佑真っ…!泣』
「は…?」
確かに俺の名前を呼んだ君が居た。
それでもいまいち状況は掴めないままで、
「何言ってるんだ…?」
「俺、ここに居るじゃん…」
『何もかも壊れてしまえっっ!!!』
『どうしたら良いかなんて、分かんねぇよ…』
最愛の君がそう呟いたあと、ふと目にしたのは1日前に録画されていたニュースだった。
ニュース。
速報です。今日午前10時半頃に横断歩道にて交通事故がありました。怪我人0名、死者1名。2人の男性が横断歩道を渡っていたところ、信号無視をした車に轢かれかけた一人の男性を、もう一人の男性庇った際に車に巻き込まれ、死亡しました。
誰が死んでしまったのだろう。
『あの時アイツが俺を庇ったから…』
『俺が死ねばよかったのにッ!!!』
『ほんとにごめんなさい…』
『こんな俺を許してください…』
『佑真ッ…!!!』
嗚呼、そう言うことだったのか。
悔やむ気持ちと君を不安に想う気持ちが乱闘する
「お前は悪くないッ!!!!」
何度そう叫んだって君には届くこと無い言葉。
『せめて、アイツの声が聞きたかった…泣』
「俺はここにいるッ!!!!」
「ここにいるよッ!!!!!」
「蓮!ここにいるよッ…」
『佑真…?』
『今、絶対に俺の名前呼んだよな…』
何故だろう。
今まで蓮に声は聞こえなかったはずなのに。
『やっと俺の名前呼んでくれたな…笑』
『これが幻聴だとしても、すげぇ嬉しいけど…』
『最後に名前呼んでくれたのいつだっけ…?笑』
最後に蓮の名前を呼んだ時すら覚えていない。
俺はなんて最低な恋人何だろう。
嗚呼、ここで全て繋がった。
さっき蓮の名前を呼んで、それが引き金になって 蓮 に声が聞こえたんだ。
「本当にほんとにごめんなさいッ…泣」
「ちゃんと、もっと名前を呼んでいればっ…泣」
「寂しい思いさせちゃってごめんっ…泣」
『もういいよ笑』
『声は聞こえないけど、謝ってるんだろ…?笑』
『もう全部ぜんぶ、許すよ…』
『だって佑真は俺の一番大切な婚約者何だから』
俺の恋人はどうしてこんなにも心が広いんだ。
もし、また生まれ変われたら蓮と結婚したいな。
でも1つだけ、恋人同士で思うことがあるんだ。
「同性愛者が報われない何ておかしな世の中だ」
『同性愛者が報われない何ておかしな世の中だ』
時は過ぎ、10年経った今。あの交差点にはある噂が広まっていた。
信号無視した車の目の前に男性の霊が現れる。
その霊は決まってその交差点だけに現れる。
その霊のお陰で救われた命も少なからずあった。
そしてある一人の男性は話す。
『その霊は大切な人を守って死んだ霊だよ』
『本物の 救世主*なんだ。』
コメント
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このお話を読んで、当たり前が当たり前では無いと言う事を自覚してくれたら良いなと思って書きました! みなさんは大切な人の名前を呼んであげていますか?悔やむ前に今から行動しましょう。事が過ぎてから行動するのは遅いので。 お節介だと思いますが、本当に後悔してから行動するのは自分自身でも辛いと思いましたので、意見を書かせていただきまきた。