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浦坂学園。
都内のとある土地を利用し造られた学園。初等部から高等部まであり、そこに入るには高い学費と高い偏差値が必要となり一般の家庭では途方もない事だと言われている。学力がクリアできても学費が用意できないまたはその反対も然り。学費が払えない家庭のために特待生制度もあるが、条件が厳しく受かることはほぼほぼ無いと言われており、世間一般ではお金持ちエリート学園と呼ばれている。そんな理由からそこに通うのは社長子息や政治家の息子など社会に少なからず影響を与えるような家庭の子どもがほとんどである。
そんな学園だからこそ、そこを卒業するということだけで社会からは一目置かれることは確かである。
ただいくつかの欠点を挙げるとすればお金持ちの子どもしか通ってないせいか目の肥えた生徒しかいなく、そんな生徒たちに合わせ普通の学校にはないような設備やそんなところにまでお金をかけるのかというような豪華な造りで、とんでもなく広い敷地を有しており新入生には最初に地図が渡されるくらいだ。
そしてなにより男子校……
広く長い廊下を歩く一人の生徒がいる。その生徒はこの学園の副会長、伽々里 澪(かがり みお)。澪は早く目的を遂行しようと少し歩くスピードを上げた。そして目的の場所につくと目の前にあるバカでかい扉を前にため息をひとつついてから扉を開けた。
「ただ今、戻りました」
「おーご苦労、ご苦労」
私が扉を開けて中に入るとその部屋の一番奥にある一番大きい席に座り、パソコンとにらめっこをしていたこの学園の生徒会会長である志藤 大輝(しどう たいき)は顔を上げて声をかけてきた。
「会長、理事長からいくつか書類を預かってきましたよ。今度の新入生オリエンテーションと今年度の予算案、それから明日来る転校生の書類と伝言です」
「伝言?」
「はい。たぁーくんもたまには遊びに「わかった!」……人の話を遮らないでください」
「たぁーくんはやめろと言ってるのにやめない奴の話はするな」
もうお分かりと思うがこの学園の理事長は目の前にいる会長の親戚らしい。確か、伯父さんだと言うのを聞いたことがある。
そしてその伯父さんに会長はたぁーくんと呼ばれているのを酷く嫌っている。
まぁ、その呼び方が嫌なだけで伯父さん自体は嫌いではないらしい。
「ところで転校生?一学年に?入学式は一週間前だぞ?」
私の渡した書類を見ながら会長は疑問を投げかけてきたが私も先程、理事長に聞いて知ったのだから気持ちは一緒だ。
「その疑問はわかります。理事長曰くその生徒は入学したのはもともと別の学校で親の急な都合により転校せざるを得なかったので転校生という括りらしいです」
「なんかややこしいな」
「転校生の事情はともかくその出迎えをするのは会長ですからね」
私のその一言で会長はさらに驚いた顔をしてきたが前々から言っておいたことなんだけど、この会長が覚えているわけないか……
「そんな顔をしてますが以前に明日は家の予定があるので学校に来るのは遅れると言ってありますよ?なんなら理事長にも確認しますか?」
「いや……思い出した……それ明日か」
「はい。お昼前には来れると思いますので」
「わかった。それにしても澪はいつも大変だな。学校に来て尚且つ家の仕事の手伝いまでだなんて」
会長は感心した顔で言ってくるがそんなに偉い事でもない。私は学校に来たいのに……あんな家……
「……澪?どうした?」
「あっ……いえ、なんでもないです。すみません。とにかく明日はよろしくお願いします」
会長にそういうと私は残りの業務を片付けるため自分の席に座った。
(いけない。こんな事を知られる訳には行かない……大丈夫。大丈夫……私はまだ大丈夫……)
私の家は主に医療関係の分野においてトップの実績を誇っており薬の研究や医療器具の開発に始まり病院、医療学校の経営まで全てを担っており医療の裏に伽々里家有りとまで言われるぐらいだ。
その技術は日本だけでなく世界からも注目されており、数多くの腕のたつ医者を輩出しているのも有名な話だ。
確かにその実績に置いては素晴らしいこと、寧ろ尊敬すらしているし、実際に会ったことがある医師の方々は本当に誠意的な方ばかりで勉強になる事も沢山ある。
しかし、そんな家なのにどうしても私は好きにはなれない。
いや、もっと私が普通だったらあんなことも無く、この家を伽々里という名前を好きになれていたのだろうか……
「なんてこんなくだらない事を考えても意味ないことなんだけど」
朝起きて身支度をしながら今日の事を考えていると憂鬱な気分になっている自分に喝を入れる。
いけない。こんな答えのない問題を考え続けても無駄なことなのに……
「澪様、おはようございます。朝食の用意が出来ております。」
「分かりました。直ぐに向かいます」
私が頭を切り替えていると扉の向こうから家の使用人が声をかけてきた。
きっと今日は一緒なのだろうと思うと食欲が全く無くなったが、行かない訳にも行かない。
スーツの上着と通学用カバン、それから制服の入った少し大きめのカバンを手に持ち部屋を出ると見慣れた使用人が扉の前で待っていた。
使用人は荷物を持ちますと言ってきたがそれを断り、憂鬱な気分のまま食堂へと足を向けたのだった。
「おはようございます」
食堂に入るとそこにいたのは伽々里グループの社長である私の父と母、そして二人の兄だった。
四人は私の挨拶など聞こえていないのか或いは聞こえない振りをしているのかは知らないが楽しく話しながら食事を進めていた。
父さんと母さんはともかく兄さんふたりがいるのは珍しいと思いながら私が席につくと使用人たちが私の前に料理を並べてくれた。
「いただきます」
この言葉を一人で言ったのはどれくらいだろうか
「いただきます」も「ごちそうさま」も「おはようございます」も「おやすみなさい」も……いったいいくつの言葉を返ってこないと知りながら音にしただろうか。
あの楽しそうに話している家族の中に私が入ることはきっとない……
「澪、今日は慧(けい)と新(しん)と薬品開発部の視察だ。将来、少しでも二人の手助けが出来るようにしっかり勉強することだ。お前がいるのはただそれだけの為なのだからちゃんと役に立てよ」
「……分かっています。父さん」
父さんはそれだけ声をかけると兄二人と楽しそうに話を再開した。私にその顔を向けることはない。
食欲が無く味を感じることが出来ない朝食を無理矢理、胃に流し込み席を立ちエントランスで兄たちを待つことにした。
十分後、食堂から出てきた兄たちと玄関の前に用意されていた車に乗り込み伽々里が所有する研究所へと向かった。
車の中での会話などほとんど無く、重苦しい雰囲気だけが漂っていたが、研究所に着いてからは研究員の話に集中していたためそんなことは気にならずに済んだことは助かった。
視察がおわり、兄たちをそれぞれ配属されている会社へ届け一人になるとようやく一息つくことができた。
(やっと学園へ行ける……やっと息ができる……やっと開放される……早くあの場所へ……)
「申し訳ございません。遅れました」
学園につき生徒会室に入るとそこには会長の他に書記である華園 翔(はなぞの かける)と会計の空閑 雅人(くが まさと)、それから庶務の西崎 春馬(にしざき はるま)がそれぞれの机につき、割り当てられた業務をしてくれていた。
この学園の生徒会は私を含め五人でつまり今の生徒会室にいるのがフルメンバーだ。
ちなみに私と会長、華園は二年、空閑先輩は三年、西崎は一年。
西崎は一年だが中等部の頃から生徒会に入っていたのもあり高等部進学とともに生徒会に勧誘され今に至る。
そういえば役員について説明していなかったが会長の志藤 大輝は誰が見てもイケメンと言うであろう容姿で前髪の一部に赤メッシュを入れている。目は切れ長でその目に見つめられると一瞬で惚れるだとか何とか。そこら辺は一切興味無いので省略するが……
志藤グループは幅広い経営により常に業界トップを走る家であり、志藤グループが潰れたら社会経済は一切回らなくなるだろうと言われているほど重要な位置にある。
私の家もそれなりに重要な位置にはあるが志藤グループに比べると医療において秀でているだけで全体を見ると志藤グループには敵わない。
次に華園の家は名前の通り華道の家元で代々続く名家だそうだ。
そんな家柄でありながら当の本人はとても可愛らしい容姿をしており、髪を花のピンで留め彼の友だちからは翔の読み方を変えて「しょうちゃん」と呼ばれている。
空閑先輩の家は業界トップの警備会社で政治家やハリウッドスターの警護などによく見かけている。そんな空閑先輩も幼い頃から武術を習っていたのだとか。
体が大きく美丈夫で硬派な一面が人気で今は弓道部と生徒会を掛け持ちにやってくれており、弓道をしている時の眼差しで見つめられたいと熱狂的なファンがいる。
西崎は黒縁メガネをかけており、いかにも勉強一筋の容姿をしているにも関わず元が美人な容姿なのでそこも素敵と噂されている人物だ。家は世界に進出しているブランドの家具メーカーで世界的なセレブなら誰しもが西崎ブランドの家具を持っているとまで言われているほどだ。
そんな凄いメンバーの集う生徒会だけに一般生徒からの人気が桁違いでありイベントや集会では大騒ぎになるのが悩みどころなんだが、それでも慕ってくれているのは素直に嬉しいことだ。
長々とした説明になっていたが私が部屋に入ると一番手前に座っていた西崎がこっちに目線を向けてくれた。
「おはようございます。いやこの時間だとこんにちはですね、伽々里副会長。」
「こんにちは、西崎。休みを頂いて申し訳ございません」
「家の用事ですから気にしないでください」
「ありがとうございます」
本当に西崎はいい子だ。それに比べてあそこでポカーンと座っているうちの会長は馬鹿なんだろうか?
「着替えたいので仮眠室借りますね?」
私は着ていたスーツから持ってきていた制服に着替え生徒会室に戻った。
自分の席に座ると目の前の空閑先輩が書類を渡してきた。
「できる所まではやったがどうしてもわからない所があって全部出来なかった。すまないな」
「いえ、お気遣い頂いてありがとうございます」
「みっちゃん、無理に来なくても良かったのに……」
空閑先輩は午前中に私が来れないからと書類をやってくれていたらしく私がやることが少しで済んだのはとても有難かった。
華園も私を心配しているのか家の用事がある時は無理に来なくてもいいと言ってくれるが「学園に来るのは私の楽しみなので」といつも言葉だけ頂いている。「みっちゃん」という呼び名はともかくですが……
「ところで会長。本日、お迎えを頼んでおいた転校生の件はいかがでしたか?」
「……」
「あの、会長?」
「……」
「会長!」
「……」
このバカは私が怒らないとでも思っているのだろうか?
私は椅子から立ち上がり会長の傍へ近寄るとその頭を……
「っっ!?いってぇぇ!!」
「お目覚めのようで何よりです会長」
「おまえ……よりにもよってそんな分厚い本で叩く奴がどこにいる!?!?」
「どこにって会長の目の前にいますが?」
そんな私の返答に会長は唖然としながら私を見ていた。
まぁ簡単に言うと椅子から立ち上がった私はたまたま机の上にあった辞書で会長の頭を思いっきり叩いたのだった。その光景を一部始終見ていた他の役員は顔を青ざめ二度と怒らせてはいけないと心に誓ったそうな……
「で?なんだよ?」
頭を叩かれた会長は不機嫌そうに私に問いかけてきた。
「なんだよではなく先程から声をかけているのですが気づいて頂けないようでしたので最終手段に出たまでですが?」
「それは分かったよ!悪かったって!そうじゃなくて聞きたかったことだよ」
「ああ、会長に迎えを頼んでいた転校生のことですよ?いかがでしたか?」
先程から何回この問いをしているのかと考えたらイライラしたが話が進まないので一旦、置いておくことにした。
「転校生……転校生か……」
「会長?」
これは……またか。再び、何かを考えはじめた会長をみて私はまだ手に待っていた辞書を振り上げた。
しかし、残念ながらその手を振り下ろす前に会長の意識は戻り私に視線を向けてきた。
「おまえは運命って信じるか?」
というアホみたいな問いとともに…………