「ア! アッチーーーー!!」
花々が全て蕾に戻る頃には、気温が上昇しまくり体感温度が100度くらいになった感じになった。真夏の太陽光線を楽に超える凄い暑さで、ぶっ倒れそうになっていると、隣にいる音星が、素早く古びた手鏡を布袋から取り出し。こっちへ向けた。
「火端さん! すいません! 八天街へ戻ります!」
音星がこちらの返事も待たずに、手鏡に俺を映した。
もしかしたら、弥生は既にここにはいなくて、阿弥陀如来が菩薩の救済で地獄から救われているのかも知れない。だって、往生っていうのは、地獄から極楽浄土に往《い》 って生まれ変わることだと思うからだ。多分な……。
来迎図の絵のように地獄に花々が咲いていたのは、阿弥陀如来が菩薩が地獄を彷徨っている魂を極楽浄土へ生まれ変わらしてくれていたのかも知れない。
俺はいきなり照射された音星の手鏡からの光の中で、そう思った。
地獄にも救いがある。
俺は切にそう思っているんだ。
ーーーー
「どっわー、ここもあっついなあ!」
「ええ……良かった……間一髪でしたね。危うく熱でやられてしまうところでしたね」
真夏の八天街のちょうど昼下がりに、交差点の電信柱の傍に俺たちはいた。
赤信号の交差点から八天駅前のロータリーは、何故か自動車で混雑している。大通りを行く通行人の雑踏も殊の外いそいそとしているような錯覚を覚えた。
何もかも夏のうだるような暑さが包んでいた。
「火端さん? さすがにこうも暑さが続くと辛くなりますよね。アイスでも食べませんか?」
「お、おう」
音星の誘いで、俺は交差点を突き進み裏通りにある民宿の近くにあるコンビニへと向かった。街路樹の日陰ばかりを歩いて、コンビニでアイスクリームを買ってレジを済ましていると、店のガラス製の自動扉前にシロが座っていた。
「お! シロ!」
「私たちを、わざわざ迎えに来てくれたようですね」
ニャー……?
シロは俺たちの周囲を嗅ぎ回してきた。フンフンと鼻を鳴らして、小首をかしげる。それから、シロはフーッ、と威嚇した。
「うん? シロ?」
「どうしたのでしょう?」
シロの行動を疑問に思っていると、後ろにいるコンビニの店員もこちらを怪訝に見ていた。
うん??
……クンクン。
俺は自分の腕の臭いをかいだ。
「あー!!」
そういえば、俺たちは地獄で血の池に頭から突っ込んだんだった。そのせいで、身体中から血の臭いが強烈になっているんだろう。
「音星! おじさんとおばさんの民宿まで全力ダッシュだ!」
「はい?」
俺はシロを抱えると、買ったばかりのアイスをクーラーバッグに入れ、音星の手を引っ張って全速力で民宿まで走った。
裏通りをグングンと走ると、民宿の玄関で霧木さんがガムを噛んでいた。なんだか、その姿はタバコを外で吸っている不良みたいだった。でも、どこか霧木さんはなんだか学校の先生なんだよな。
「あ。お帰りなさい」
「ただいま!」
「ただいま戻りました!」
俺は急いで民宿の玄関先で靴を脱いだ。隣の音星も草履を脱いでいた。
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