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20
あまね🍡💠
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翌日。
育成プログラムのメンバーは、いつもの訓練場ではなく、屋外のグラウンドに集められていた。
目の前には、救助用の人形。
その先には、いくつもの障害物が並べられている。
日下部が全員を見渡した。
「今日の訓練は、負傷者の搬送だ。」
「救助現場では、能力を使えば全てが解決するわけではない。」
「負傷者の状態。」
「周囲の状況。」
「自分自身の体力。」
「全てを考えながら、安全な場所まで搬送しろ。」
日下部は救助用の人形へ視線を向ける。
「人を見つけることが救助じゃない。」
「安全な場所へ送り届けるまでが救助だ。」
全員の表情が引き締まる。
「始めろ。」
号令と同時に、訓練が始まった。
――――――――
湊は救助用の人形を背負い、走っていた。
「はぁ……はぁ……。」
想像していた以上に重い。
足が思うように前へ出ない。
能力者たちは、それぞれ自分の能力を活かしながら進んでいく。
障害物を避ける者。
瓦礫を動かす者。
足場を作る者。
しかし、湊には能力がない。
自分の身体だけで進むしかなかった。
「はぁ……はぁ……。」
額から汗が流れる。
呼吸が苦しい。
それでも、湊は人形を下ろさなかった。
一歩。
また一歩。
少しずつ前へ進む。
「朝霧。」
少し離れた場所から九条の声が聞こえた。
「無理をするな。」
湊は息を切らしながら答える。
「大丈夫……です。」
しかし、明らかに他のメンバーより遅れていた。
その様子を、蒼井源太が黙って見ていた。
「……。」
何も言わない。
ただ、湊の姿を見つめていた。
――――――――
訓練が終わった。
湊はその場に座り込み、大きく息を吐いた。
「はぁ……。」
腕が重い。
足にも力が入らない。
昨日の課題では、九条より早く人形を救出することができた。
だが今日は違った。
能力のない自分と、能力者たちとの差。
それを嫌というほど感じた。
「分かったか。」
声が聞こえる。
顔を上げる。
蒼井が立っていた。
「……蒼井さん。」
蒼井は湊を見下ろす。
「昨日は上手くいった。」
「能力を使わない方が早かった。」
「それは認める。」
湊は黙って聞いていた。
「だが、今日はどうだ。」
「お前は誰よりも遅かった。」
蒼井の言葉に、湊は何も返せない。
事実だった。
蒼井は続ける。
「物流事故のことも知っている。」
湊が顔を上げる。
「……えっ?」
「あの事故で、お前は女の子を助けた。」
「能力者でもないのに、迷わず飛び込んだ。」
少しだけ間が空く。
「だが、あの時はたまたま助かっただけだ。」
湊は黙って蒼井を見る。
「お前も。」
「あの女の子も。」
「毎回、絵に描いたように上手くいくわけじゃない。」
蒼井の声は冷たかった。
だが、怒っているようには聞こえなかった。
「そんな綺麗事だけじゃ、人は助けられない。」
「守れないんだ。」
静かな風が二人の間を通り抜ける。
湊は何も言わなかった。
蒼井の言っていることは間違っていない。
あの事故で、自分は何も考えていなかった。
ただ身体が動いただけだった。
もし、あの時。
少しでも何かが違っていたら。
自分も。
あの女の子も。
助からなかったかもしれない。
「……そうかもしれません。」
蒼井が湊を見る。
湊はゆっくりと立ち上がった。
「僕は、まだ何も知りません。」
「今日だって、みんなについていくので精一杯でした。」
拳を握る。
「でも。」
湊は蒼井を真っ直ぐ見る。
「目の前で困っている人がいたら。」
「僕は、やっぱり助けたいです。」
蒼井の表情がわずかに変わる。
「助けられるか分からなくてもか?」
「……はい。」
「自分まで死ぬかもしれなくても?」
湊はすぐには答えなかった。
少し考える。
そして、静かに口を開いた。
「怖いです。」
蒼井が黙る。
「死ぬのは怖いです。」
「助けられないのも怖いです。」
「だから、ちゃんと学びたいと思っています。」
湊はグラウンドを見渡した。
「何も知らないまま飛び込むんじゃなくて。」
「一人でも多く助けられるようになるために。」
「だから僕は、ここに来ました。」
蒼井は何も言わなかった。
二人の間に沈黙が流れる。
やがて、蒼井は湊から視線を逸らした。
「……俺は認めない。」
「はい。」
「まだ、お前を認めたわけじゃない。」
「分かっています。」
蒼井はそれ以上何も言わず、歩き去っていった。
湊はその後ろ姿を静かに見つめていた。
――――――――
「蒼井の言ったことは、間違ってはいない。」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、九条が立っていた。
「九条さん。」
九条は蒼井が去っていった方向を見る。
「現場では、全員を助けられるとは限らない。」
「どれだけ力があっても。」
「どれだけ訓練をしても。」
「助けられないことはある。」
湊は黙って聞いていた。
「……はい。」
少しだけ間が空く。
九条が静かに続ける。
「あいつも昔、人を守れなかったことがある。」
湊が顔を上げる。
「えっ……。」
「詳しいことは、俺から話すことじゃない。」
九条はそれ以上、何も話さなかった。
ただ一言。
「あいつは、誰よりも失敗を恐れている。」
湊はもう一度、蒼井が去っていった方向を見る。
無能力者を見下している。
そう思っていた。
でも。
もしかすると、違うのかもしれない。
「蒼井さん……。」
小さく名前を呟く。
その時だった。
「全員、集まれ。」
日下部の声が響いた。
メンバーたちが一斉に集まる。
日下部は全員の顔を見渡した。
「今日の訓練はここまでだ。」
「そして、次の課題を発表する。」
訓練場の空気が変わる。
日下部は静かに告げた。
「次は――現場実習だ。」
湊は思わず顔を上げた。
訓練ではない。
本当の現場。
育成プログラムに入ってから初めての実習が、始まろうとしていた。
第18話 譲らないもの 完
コメント
1件
第18話、めっちゃグッときたわ…。蒼井さんがぶつけてくる「綺麗事だけじゃ人は助けられない」って言葉、重いけど正論で。でも湊くんが「怖いけど、それでも助けたい」って学ぶために来たって言い返すシーン、熱すぎる🔥 そして九条さんの「あいつも昔、人を守れなかった」で蒼井さんの背景がチラ見せされたのも気になる…。次回、初の現場実習ってことで緊張するわ!