テラーノベル
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街の人間は皆、完璧な立方体の硬貨をポケットに入れ、左右対称の美しい家に住んでいた。
整ったものだけが正しく、価値があるとされる世界。
調律師の青年は、その中でただ一人、歪みを愛していた。
彼が古いガラクタを集めて作り出す機械人形たちは、どれも手足の長さが揃わず、不格好に傾いて歩く。
「そんな出来損ない、誰も買いやしないよ」
隣人はいつも彼を笑った。
青年もまた、自分の作るものが社会に馴染まないことを知っていた。
けれど、左右対称の美しい彫刻を見ても、彼の心は1ミリも動かなかった。そこには呼吸が感じられなかったからだ。
ある夜、青年は最高に不格好な小さな人形を作り上げた。
頭部が大きく、右足が極端に短い。
青年はネジを巻き、それを床に置いた。
人形はカチカチと不規則な音を立てて歩き出し、すぐにバランスを崩して転んだ。
何度も、何度も、倒れては起き上がろうとする。
その無様な姿を見た瞬間、青年の胸に冷たい嵐のような感情が吹き荒れた。
これは、自分だ。
正しさに当てはまろうとしては転び、誰の役にも立てない自分そのものだった。
青年は人形を拾い上げ、その歪な胸にそっと耳を当てた。
規則正しい時計の刻みではない。
ドク、ドク、と、不規則で、激しく、今にも壊れそうな心音が聞こえた気がした。
「お前は、そのままでいい」
青年は、部屋の棚に飾られていた「世間から褒められた過去の賞状」や「正しい設計図」をすべて破り捨てた。
誰かに認められるための形は、もういらない。
彼は人形を抱きしめた。
明日、この街から追い出されるかもしれない。
それでも、この不完全な鼓動だけが、彼にとって唯一の本物の命だった。