テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
入学式の日から数日が経った。
僕とすいせいさんは同じクラスになった。
だけど、すいせいさんの態度は相変わらずだった。
「おはよう、すいせいさん!」
「……おはよう。」
「今日も屋上行く?」
「別に。」
どう見ても冷たい。
それでも僕は気にしなかった。
むしろ話せるだけで嬉しい。
そんな僕を見て、クラスメイトたちは不思議そうな顔をしていた。
「けるりってさ、なんであんなに星街に話しかけるの?」
「さあ?」
「星街、結構冷たいのに。」
すいせいさん本人も不思議そうだった。
それでも僕は毎日話しかけ続けた。
だって好きだから。
それだけだ。
放課後。
僕はバスケ部に入部した。
練習が終わる頃には、体中が汗だくだった。
だけど僕は休憩もそこそこに体育館を飛び出す。
向かう先は決まっていた。
屋上だ。
階段を駆け上がり、扉を開ける。
そこにはいつものように、フェンスにもたれながら空を見上げるすいせいさんの姿があった。
「すいせいさん!」
「……また来た。」
「来た。」
僕が隣に立つと、すいせいさんは呆れたようにため息をついた。
しばらく沈黙が流れる。
夕日が校舎を赤く染めていた。
やがて、すいせいさんがぽつりと呟く。
「ねえ。」
「ん?」
「なんでそんなに私に構うの?」
僕は少しだけ笑った。
「すいせいさんは覚えてないと思うけどさ。」
「?」
「中学の頃、僕と君、会ったことあるんだよ。」
すいせいさんが首を傾げる。
「公園で歌ってたでしょ?」
その瞬間、すいせいさんの目が少し見開かれた。
「……あ。」
「そこで一目惚れしたんだ〜。」
僕が笑いながら言うと、すいせいさんの顔がみるみる赤くなった。
「なっ……!」
慌てたように顔を背ける。
「顔赤いよ?」
「夕日のせいだよ!」
「へぇ〜。」
思わず笑ってしまう。
でも、次の瞬間。
すいせいさんの表情が曇った。
「……私さ。」
その声はどこか寂しそうだった。
「心因性発声障害なんだ。」
僕は何も言わずに聞く。
「歌のオーディション、何回も受けた。」
夕日に照らされた横顔は、とても苦しそうだった。
「何回も落ちた。」
「……。」
「それでも諦められなくて、また受けて。」
すいせいさんは小さく笑う。
だけど、その笑顔は悲しかった。
「最後にはさ。」
少し震える声で続ける。
「審査員に、向いてないって言われたんだ。」
沈黙。
風だけが吹いていた。
すいせいさんは俯いている。
僕はその姿を見ていられなかった。
気づけば身体が動いていた。
そっと、すいせいさんを抱きしめる。
「……え?」
驚いた声が聞こえる。
それでも僕は離さなかった。
「向いてるとか向いてないとか、関係ないだろ。」
声が震える。
「すいせいさんが歌うの好きなら、それでいいじゃん。」
涙が溢れそうになる。
「そんなクソみたいな審査員の言葉で、歌を諦めないでくれよ。」
僕は強く拳を握った。
「僕は……。」
あの日の光景が頭に浮かぶ。
夕日に照らされながら歌う少女。
僕を救ってくれた歌声。
「僕は、あの日のすいせいさんの歌が大好きなんだ。」
屋上に静寂が落ちる。
夕日だけが、二人を優しく照らしていた。
コメント
3件
第2話、めちゃくちゃ良かったです……!中学の公園で歌ってたエピソードが明かされて、主人公の一途さに胸が熱くなりました。すいせいさんの「心因性発声障害」の告白は切なくて、それでも「向いてるとか関係ない」って抱きしめるシーン、優しすぎて泣きそうになりました。夕日が照らす屋上の静けさも素敵で、続きが気になります🌷
しょうまる
52
#リクエスト募集中
蒼上奏
23
NGS_ヘビーなしっぽ
2,288