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エデンの塔へと続く長い階段。
元貴の体はさらに透き通り、
今や彼の黒い猫耳も、まるで薄い陽炎のように向こう側の景色を透かしていた。
「……あ、あれ……足に、力が入らないや……」
元貴の膝が崩れそうになった瞬間、若井がその体を背負い、涼ちゃんが横から支える。
「しっかりしろ元貴! もうすぐ、お前の親父さんが眠る『聖なる墓標』だ!」
塔の中層にある、青い光に包まれた静かな広場。
そこには、かつてエデンを統治し、幼い元貴を外の世界へ逃がした先代の王の意識が、ホログラムのような姿で残っていた。
「……よく戻った、我が息子よ。
そして、その傍らにいる二人の人間よ」
「父さん……!」
元貴が震える声で呼びかける。
王の魂は、元貴の透き通った体を見て、悲しげに目を細めた。
「エデンは、世界中の『負の音』を吸い込み、浄化することで楽園を保っている。
その浄化の装置こそが、王家の血を引く獣人の肉体なのだ。
……元貴、お前の透明化は、お前が一人で世界の毒を吸い込みすぎた証。
このままでは、お前は消えて『音の精霊』そのものになってしまう」
「そんなの、嘘だろ……。止める方法はないのか!?」
若井が叫ぶ。王の魂は静かに、元貴が持つノートを見つめた。
「方法は一つ。
……そのノートにある二十の音符を、『逆唱(ぎゃくしょう)』することだ。……ただし、それは王一人の歌では叶わぬ」
王は続けた。
「元貴が吸い込んだ絶望を、誰かが『音』として分担し、地上へと逃がさねばならぬ。……若井、お前の不自由な右腕は、絶望を『力』に変えるための器だ。
涼架、お前の聞こえぬ左耳は、世界の『静寂』を受け止めるための器だ」
つまり、元貴の透明化を止めるには、彼が吸い込んだ負担を、若井と涼ちゃんが自分たちの「欠落」した部分で受け取り直す必要があった。
「なんだ、そんなことかよ」
若井が不敵に笑った。
「俺たちのこの体は、元貴を救うためにあったってわけだ。最高じゃねえか」
「僕も、準備はできてるよ。……元貴の痛みなら、いくらでも半分こしよう」
涼ちゃんが元貴の手を握る。
今度は、二人の強い意志が指先に宿り、透けかけていた元貴の手をしっかりと掴み止めた。
王の魂が微笑み、最後の手がかりを授ける。
「三人の魂を一つに繋ぎ、二十の音符を完成させよ。
……そうすれば、エデンは生贄を必要としない、本当の楽園に変わるだろう。
……元貴、お前のその『黒い耳』は、仲間を、そして世界を愛するためにあるのだ」
王の姿が光の中に消える。
その時、ノートに十二個目の音符が刻まれた。
『継承』。
「……若井、涼ちゃん。
……ありがとう。僕、もう怖くない」
元貴の体に、少しだけ色が戻ってきた。
まだ完全ではない。けれど、三人が「運命」を共有したことで、消滅へのカウントダウンは一瞬だけ停止した。
「よし、行こう。……現統治者の野郎をぶっ飛ばして、完璧なハッピーエンドを書き換えてやる!」