コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第17話
朝。目を覚ました瞬間、全身がだるくて動けなかった。
「……うぅ、熱……出たかも……。」
昨日まで頑張りすぎた。
黒瀬に勝つために、寝る間も惜しんで勉強して。
(まさか本当に倒れるなんて……っ)
スマホを見ても、誰からも連絡はなし。
(そりゃそうだよね……言ってないし。)
そのまま布団にもぐりこんで目を閉じた、そのとき——
ピンポーン。
(え、宅配? 今ムリ……。)
もう一度、ピンポーン。
しぶしぶ玄関へ。
ドアを少し開けると——
「お前、なんで出んの。風邪ひいてんだろ。」
「え……く、黒瀬!?」
「担任が言ってた。体調崩したって。プリント届けろって言われた。」
「な、なんであんたが!?」
「近かったんだよ。……ほら、早く戻れ。」
(な、なにこの展開!?少女漫画!?)
黒瀬はため息をつきながら、部屋に入る。
「マスクしろ。つーか、顔真っ赤じゃん。」
「し、してるもん!ほら!」
「鼻出てる。」
「う、うるさい!!」
テーブルにプリントを置いて、冷蔵庫を勝手に開ける黒瀬。
「ちょ、勝手に!?」
「水ぐらい飲め。あとこれ、冷やす。」
タオルを冷やして、そっと額に乗せる。
「……ほら。」
「……っ!」
(近い、近い近い!!心臓バクバクするんですけど!?)
「熱、結構あるな。」
「だ、大丈夫……。」
「嘘つけ。無理しすぎ。」
黒瀬の声が、少しだけ優しい。
それが余計に、ずるい。
「……最近、お前変だった。」
「へ、変ってなにが!」
「やけに真面目で、テンション変だった。」
「な、なんでそんな見てるの!?」
「……見りゃ分かる。」
(ど、どういう意味よそれぇ!?)
黒瀬は少し黙って、ぽつり。
「……駅のこと、気にしてたろ。」
「っ!」
(や、やっぱりバレてた!?)
「この前の子、バイトの仲間。忘れ物渡してただけ。」
「……そ、そうなんだ。」
「てか、お前、勝手に誤解して勝手に落ち込むなよ。」
「お、落ち込んでないしっ!!」
「顔に“落ち込みました”って書いてある。」
「うるさい!!」
黒瀬がふっと笑う。
「ま、熱のせいかもな。」
「ち、違うし!」
(この人、ほんとにズルい……!)
「……ありがと。」
「何が。」
「……いろいろ。」
「別に。早く治せよ。テスト勝負、まだ終わってねぇから。」
「っ……覚えてたの?」
「そりゃ、言い出したのお前だろ。」
ドアの前で振り返る黒瀬。
「じゃ、寝ろ。倒れんなよ。」
「……うん。」
ドアが閉まる音がして、静かになった。
枕に顔をうずめながら、小さく呟く。
「……熱より厄介なのは、あなたなんだから。」