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「猫と狐が仲が良いって話は結構ありましてね。一緒に酒盛りしたり踊ったり、って民話はわりと見ますよ。一説には〝猫も狐も陰獣《いんじゅう》なので仲が良い〟なんて言いますね」
「いんじゅう? ですか……」
「江戸川乱歩じゃありませんけどね」
各務さんは珍しく快活に口を開けて笑った。お客さんがびっくりして注目している。
「いや、失敬……。猫や狐、蛇などが陰獣と呼ばれることがあるようですが、詳しいことは僕もわかりません。陰陽五行説に基づいて、なんて話もありますが、なんとなく陰険な感じがする動物、くらいでいいんじゃないですかね。ほら、猫も狐も蛇もお話の中ではよく化けたり祟ったり騙したりするじゃありませんか」
「別に猫を陰険だと思ったことないけどなあ」
「そこはまあ、あくまでお話ですから」
不満を露わにした僕に、抑えて抑えて、と各務さんは手ぶりをまじえて示した。
「で、まあ本題ですが、お江戸日本橋玄治店《げんやだな》の三光稲荷や大阪浪花西長堀の稲荷、その名もストレートに〝猫稲荷〟などはいなくなった猫が帰ってくるように、と願かけする有名な祠だったらしいですよ。帰ってくるとお礼に油揚げを一枚奉納するのが習わしだったそうで」
「あ、それやってなかったから……!」
やっぱり各務さんに相談して良かった! パッと目の前に光明が差したような気がした。
「ええまあ、願解《がんほど》きはすべき……だったかもしれませんね。お婆さんも。ただ僕にはどうもそれで解決、能力がなくなるとは思えないんですが」
「えっ?」
「そもそもお婆さんは何を願掛けしていたのか、わかりませんからねえ」
僕はあ、と小さく声を上げた。各務さんの奥深い瞳がちらりと僕を覗き込んだ気がした。
そうだ。各務さんには黙っていたのだ。
ただ、これは婆ちゃんの話ではなく本当は僕の話だ。
そして僕は各務さんの稲荷の話のように、まさに〝猫が帰ってきますように〟とお願いしたのだ。
辻褄は合う!