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12. 江口拓也への嫉妬
その日、事務所の休憩室に入野自由がふらりと足を踏み入れると、目の前で一幕が繰り広げられていた。江口拓也が、笑顔で女性スタッフと話しているのが見えた。特に気にすることはなかったが、その時、女性スタッフが突然、赤面しながら一歩踏み出し、江口に向かって言った。
ス「江口さん、実はずっと前からお話ししたいことがあって…」
女性スタッフは少し戸惑いながら、江口を見つめている。
江口は優しく微笑みながら答える。
江口「なんだ、急に?どうした?」
その瞬間、入野の胸が何か重く、ぎゅっと締め付けられた。ふとした違和感と共に、入野はそのやり取りを見守っていた。女性スタッフは少し恥ずかしそうに言葉を続ける。
ス「私、江口さんのことが…好きです。」
女性スタッフの言葉に、入野は思わず立ち止まってしまう。胸の中に湧き上がる感情に、入野は驚いた。自分でも分からない感情が胸を締め付けて、目の前の光景がじわじわと嫌なものに感じられた。
江口は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにその優しい笑顔を見せて言った。
江口「ありがとう。でも、僕はそういう関係は…」
江口は軽く頭を振り、言葉を続ける。
江口「スタッフとして、仲間としてすごく頼りにしてるよ。でも、それ以上は…」
その言葉に、女性スタッフは恥ずかしそうに顔を赤くして、少し下を向いていた。しかし、江口はそれをやんわりと受け入れたようだった。
入野はその光景を目にして、心の中で何かが爆発しそうになる。江口の優しさ、そしてその場を和やかに収める姿を見ていると、胸の中で何かが暴れるような感覚が強くなった。どうしてこんなに気になるのか、自分でも分からなかった。だが、確かに嫉妬していた。
江口はその後、女性スタッフに優しく微笑みながら言った。
江口「ありがとう、でも気持ちには応えられないんだ。申し訳ない。」
その言葉に女性スタッフは少ししょんぼりしながらも、笑顔でうなずく。
ス「わかりました、江口さん。」
そして、女性スタッフはそっとその場を離れて行った。
その直後、入野は気づかれないように、足音を忍ばせて部屋を出ようとした。しかし、江口は入野が見ていたことに気づいたようで、すぐに声をかけた。
江口「おい、自由くん、どこ行くの?」
江口の声に、入野はびくっと肩を震わせ、振り返った。
入野「あ、いや、ちょっと…用事があって。」
入野は無理に笑顔を作るが、その顔に無理があるのは江口にもわかる。
江口「なんか、顔色悪いよ?」
江口は心配そうに近づき、入野の顔を覗き込む。その優しい目に、入野はどうしても目を合わせられず、少しだけ顔を背けた。
入野「別に…なんでもないよ。」
入野は一瞬強がってみせたが、心の中では自分が今、どうしてこんなにイライラしているのかを理解できなかった。江口が他の女性に優しくすることが、どうしてこんなに胸に突き刺さるのか。その理由が分からなかった。
江口「自由くん、無理しないで。なんかあったら話せよ。」
江口は優しく言いながら、入野の肩に手を置いた。その手が、何故か入野をさらに焦らせ、心を乱す。まるで他の誰かに優しくされるのが嫌だとでも言っているように、胸の奥で小さな火花が散った。
入野はその手をすぐに振り払うように、少し強めに肩をすくめた。
入野「うるさい!別に、なんでもないから!」
その声が、少し大きく響いてしまった。
江口は驚いたように少し後ろに引いたが、すぐに笑顔で「ごめん、つい心配しちゃって。」と言った。入野はその言葉に少しだけ胸が痛くなるが、何も言わずにそのまま歩き出す。
入野「…俺、なんでこんなに怒ってるんだろ。」
入野は心の中で呟きながら、足を早める。江口が他の女性に優しくすることがどうしてこんなに気になるのか、その理由はまだ分からない。だが、胸の中に湧き上がる感情は、もう隠せないほど大きくなっていた。