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指輪の代わりに歯型付けるの 超超好きです🥹💗💗 普通じゃ有り得ない雰囲気が 滲み出てて素敵すぎます🫶🏻 他にはないような共依存感 超絶最高でした🫣🫣
熱に浮かされたままの足取りでイザナに引っ張られるような形で家へと帰る。鍵を開けて、靴を抜いて、部屋へあがって。
ようやくどこか落ち着きを取り戻した途端、彼の目が不思議と怪しさを混ぜたような色を持って光ったような気がした。息を呑むほど綺麗なその輝きに目を奪われているその隙にイザナは私の薬指を優しい手つきで自身の口元に持ってくると、突然、なんの躊躇いもなくがぶりと噛みついてきた。焼かれるような苦痛が薬指を中心とした体の中を目まぐるしく駆け巡り、干からびたようにガラガラとした悲鳴じみた声が喉から押し出される。
『いたっ…』
そんな声を上げる私を気に留めることなく、イザナは私の薬指を噛み続ける。
遠慮も躊躇いも一切なく、このまま骨を折ってしまんじゃないだろうかという恐怖が背を流れ、無理やり引き剝がして抵抗するなんてことも出来なかった。
─…彼がその行為に満足し、指 から口を離したのはそれから数秒後のことだった。
痛痒い鈍痛を放つ自身の薬指の根元を覗くと、赤紫色に変色してしまった肌に“指輪”のようなリング状の細い歯型がくっきりと食い込んでいた。幸い、血は出ていないがしばらくは治らないだろうということが分かるほどの濃い痣の色にぎょっとする。
なんでこんなことと疑問の言葉を吐こうと顔を上げたその瞬間、伸びてきた褐色の腕に顎を掴まれ、舌に溜まっていた声が喉へと流れていくのを感じる。
そのまま呆然としていると、今度はイザナの薬指が唇に押し付けられ、困惑が脳を染める。
「噛め」
その言葉とともに口をこじ開けられそうなほどに押し付ける力が強くなり、反射的に私も自身の唇に込める力を強めてしまう。
何故こんなことをするのかという意図は分からないがイザナが自分のせいで痛がる姿を見たくない。そう心に刻み込んで耐えようとするが、細い影のように長く白い睫毛に覆われた紫陽花のような紫色の瞳がジッとこちらを見つめてきくる様子にどこか居心地の悪さを感じ、無意識に口を開けてしまう。
「…ン、イイ子」
そう言って私の額にキスを落として、柔らかく目を細めて笑うイザナの甘い表情に胸がドクドクと激しく暴れまわり、どこか酔いのような苦しさが体を動かしていく。
もっと褒めてほしい。もっと愛してほしい。
そんな思いばかりが沸き上がって、先ほどまで胸に刻み込んでいたことがすべて嘘なのではないかと思ってしまうほどあっさりと私の口には力が入り、彼の細い指に噛みついてしまう。その間もいまだにジクジクと鈍い痛みを放つ薬指の痛みすらどうでもよく感じてしまうほどに心臓はドッドッドッとただ事ではない速さで脈を刻み始める。
数秒経ち、もうそろそろ離してもいいだろうかと口を離して恐る恐る彼の表情を伺うと、一瞬で勢いよく押し倒され、視界全体に大好きな人の顔が映る。
「…これでオマエもオレも不安になるなんてことなくなったな」
自身の薬指と私の薬指を重ねながらそう言うイザナはにっこりと笑った。
心臓が止まるかと思ってしまうほど美しいその笑みに、こんな状況だということも関わらず、私以外の人に見せたくないという黒い独占欲が雲のように湧いてくる。
『イザナ、だいすき』
本能がそう告げた。どろどろとした重い言葉たちが舌に流れてくるのを必死に飲み込み、激しく高ぶってくる“好き”という気持ちに蝕まれていきそうな心を必死に抑える。
「オレも」
だけどそんな甘い抵抗はイザナの言葉一つであっさりと解けてしまい、愛しさに溺れ、胸がいっぱいになる。
『…どれくらい好き?』
わたしのばか。素直にありがとうって言えばいいのに。
そんな思いとは反対に面倒くさい言葉は舌の上を跳ねて、イザナの耳へと流れてしまう。
反省したばかりなのにどうしていつもこんな捻くれたことばかり言ってしまうのだろう。そんな自己嫌悪の海に浸かっていると、不意に私を抱きしめるイザナの腕の力が強まったような気がした。臓器がギュッと締め付けられ、そんな痛みすらも好意に変わる。
「あー?…オマエにGPS仕組んだり、わざと他の女の匂いバラまいてめちゃくちゃにしたりしたいくらいには」
カランというピアスの澄んだ音ともにいつもどおりの口ぶりで告げられるその言葉に驚きで目を見開く。そんな私をうっとりとしながら見つめるイザナの不気味な雰囲気を宿した青紫色の瞳がどんよりと濁っていくのが分かった。そのまま首筋に顔を埋められ、彼の存在をすぐ近くで感じる。
「オマエに言い寄ってくるヤツは潰してきたし、オマエが今まで付き合ってきた男全員ボコした。…てかオマエ無防備すぎ。今日みたいなことがまた起きたらどうすんだよ。」
今日食べたものを話すような自然さで紡がれ続ける物騒な言葉たちにぎょっとしながら自身の首筋に顔を預けるイザナを見つめる。
『え?……え!?ボコしたの!?』
「殺した方がよかったか?」
きょとんとした声で聞き返してくるイザナの姿に驚きのあまり言葉が出てこない。だがイザナが告げる言葉の色は至っていつも通りで、彼にとっては本当に何てことないのだろう。
そんなリミッターの狂った彼のことが大好きだから特に何も言わないが。
「…オレは嫉妬して、泣いて、怒って、オレのせいでぐちゃぐちゃになるオマエが世界で一番大好き。愛してる。」
突然、イザナの顔があがり、私を映した。
綺麗な瞳。かっこよくて綺麗な顔。低くて耳に心地よい声。
ぜんぶがだいすき。わたしもあいしてる。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶだいすき。
彼の私と同じと考えると、息が詰まってしまうほど胸が幸福感にいっぱいになった。
「…でも次勝手に出て行ったりしたら足折るから」
私の膝から太ももを撫でるイザナの手から感じる圧と愛の重さにすら喜びを感じてしまう私はもう後戻りできないのかもしれない。…いや出来ないんだ。
『…うん、絶対出ていかない。』
そんな愛とも依存とも言い難い“毒”が体の中に深く染み込んでいった。