テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

『忘れてまった君へ』

一覧ページ

「『忘れてまった君へ』」のメインビジュアル

『忘れてまった君へ』

21 - 第21話  『遊園地の中 ― “記憶のない懐かしさ”の中で』

♥

3

2025年06月11日

シェアするシェアする
報告する

ゲートをくぐると、ふわりと甘いキャラメルポップコーンの匂いが鼻をかすめた。


ロボロは立ち止まって深呼吸する。


「……変な話やけど、ここも初めてやない気がする」


ゾムは笑った。


「たぶん、正解やで。何回も来たもんな」


2人で乗ったジェットコースター、ぐるぐる回るティーカップ。


昔は「怖い」と駄々をこねたロボロを、ゾムが励ましながら並んだ列。


そのすべてが、ゾムの胸の中には鮮やかに残っていた。


だが今、隣にいるロボロは、

どれにも「新鮮なリアクション」で驚いて、笑って、首をかしげる。


「前もここ来たんよな? 俺、ぜんっぜん覚えてへんのが、なんか……悔しいな」


「……しゃあないよ。無理に思い出すもんやないし。今 、楽しいって思えるなら、それでええやん」


「うん、まぁな。でも――なんかズルいわ」


「え?」


「ゾムがこんなに“知ってる”のに、俺だけ置いてかれてる感じ。悔しい。 俺、思い出せへんことで、あんたを傷つけてへんかな……とか、考えてまう」


その言葉に、ゾムの心がぐらりと揺れた。


ロボロの無意識の言葉で傷付かなかった訳じゃない。


それは、ロボロの“記憶”でもない。


でも、“心”がちゃんと動いていた。


「……大丈夫やって。 ロボロはロボロのままでいてくれたら、それで十分や」


言葉にしてしまえば、簡単すぎるほどの建前の本音。

本当は記憶を戻してほしい。思い出して欲しいってのが建前じゃない本音。


でも、それはずっと胸の奥で握りしめてた想いだった。


──忘れられても、変わってしまっても、

“今”のロボロが俺の隣にいてくれること。それだけで、意味がある。


ふたりは、観覧車に乗った。

最後に乗ったのは、小学生の頃。


ロボロは知らないけど、ゾムは覚えてる。

その記憶の続きを、今の2人で上書きされていく。


ゴンドラがゆっくりと空に昇っていく間、

言葉は少なかった。けど、沈黙がつらくはなかった。


ロボロは窓の外を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「なんか……夢で見た気がする。この角度、この空。 たぶん……昔も、こうして上がったんやろ?」


ゾムは返事をしなかった。

できなかった。

ただ、心のどこかが、確かに報われていく音がした。


その日の思い出が、“記憶”になるかはわからない。

でも、「何かを残せた」気がした。


それだけで、少しだけ前に進めた。


そう思うと安心して泣いてしまった。


『忘れてまった君へ』

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

3

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚