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「あぁ、それと……。コマンドがわからないって言ってた件ですが塩田と奈々さんの誕生日を順に入れていったら恐らく解けると思いますよ。一度試して見てください」
そう言って、数字の羅列された紙をそっと蓮に差し出してくる。
「……キミは……。僕が思っていた以上に出来る人だったんだね」
「ちょっ!? 酷くないですか!?」
二人の誕生日なんて一体どうやって調べたのか。蓮が思わず本音を漏らすと、東雲は大げさにショックを受けた素振りを見せた。その様子がおかしくて思わず吹き出してしまう。
「ごめん、ごめん。冗談だよ。ありがとう、東雲君。引き続きよろしく頼むよ」
蓮がそう言って笑うと、東雲は不服そうにしながらも渋々と言った様子で納得してくれた。
「……なんだか、御堂さん。雰囲気変わりましたね。前はもっとこう、何処か冷たい印象が強かったんですが……」
「えっ? そう、かい?」
そんな事を言われたのは初めてで、少し戸惑ってしまう。
「彼氏君効果ですかねぇ」
「そ、そう……?」
東雲のニヤついた笑みを見て、なんだか妙に恥ずかしい気持ちに襲われポリポリと頬を掻いた。
「そう言えば、プレゼント選びに悩んでるって言ってましたよね? 俺で良ければ相談に乗りましょうか? と言っても百戦錬磨の御堂さんに出来るアドバイスなんてたかが知れてますけど」
「ちょ、百戦錬磨って。僕はそんなんじゃないよ。初めてのことだらけで悪戦苦闘してるんだ。……付き合うって言う事も初めてでイマイチよくわかってないくらいなのに……。だから、どんな物を贈ったら喜んでくれるとか、デートするなら何処がいいかとか、そう言ったのが知りたいんだ」
そう告げると、東雲は意外そうに大きな目を丸くした。
「まったまたぁ~。そんな、中学生じゃあるまいし。謙遜も過ぎれば嫌味になっちゃいますよ」
そう言いながらも東雲は蓮の言葉を真に受けてはいないようで、クスリと微笑んだ。
「その中学生レベルがわからないから困ってるんだよ」
「……ガチ?」
「こんな恥ずかしい冗談言わないだろ」
蓮がムッとしたように口を尖らせぼそりと呟けば、東雲は一瞬ポカンとしてからプハッと噴き出した。
そんなに面白いことを言ったつもりはないのだが、ツボに入ったのか、肩をプルプルと震わせて表情筋が可笑しなことになっている。
「笑いたかったら笑いなよ」
促してやると、東雲は目に涙まで浮かべながら本当に笑い出した。中々笑い止まない所をみると、相当可笑しかったのだろう。
東雲は暫くの間肩を震わせ笑い続け、ようやく収まった頃には目に涙まで浮かべていた。
「……ちょっと、笑いすぎじゃないか?」
「す、すみませ……っ、ちょっと意外過ぎて。ププっ、だって、どう見たって経験豊富そうな顔してるのに……っ」
東雲は何度か深呼吸をして息を整えると、目に浮かんだ涙を指先で拭った。
失礼な奴だとは思うが、女にモテそうだとか、遊んでいるように見えると言われるのには慣れている。
実際、昔から男女関係なくモテてはいたし、身体の関係だけはそれなりにあった。
けれど、本気で人を好きになった事はなかったし、誰かの為に何かをしてやりたいと思った事は一度もない。
「わっかりました。俺がとびっきりのデートプラン教えてあげます」
東雲はそう言うと、得意気に胸を張った。
。東雲との話し合いを終えて帰宅すると、既に時刻は22時を回っていた。
誰も居ない玄関を開け、薄暗い部屋に明かりを灯しながらリビングへと向かう。
住み慣れている自分の部屋のはずなのに、たった数日居なかっただけで妙に
懐かしく感じてしまう。
電気も付けずにソファに腰を下ろすと、蓮は天井を見上げて大きく息を吐いた。
まさか今回の失踪事件に、自分を怪我させた相手が絡んでいるなんて思いもしなかった。
自分を恨んでいるのなら、自分に仕掛けてくればいいものを。そしたら返り討ちにしてやるのに。
正直顔も覚えていない相手だが、スタッフやキャスト迄巻き込んで、色々な人に迷惑を掛けてまで目的を追行しようとする相手に強い嫌悪感を覚える。
もしかしたら、兄は塩田が関係していると気付いていたのかもしれない。
以前何か言いかけて辞めたのはこのことだったのでは?
ふとそんな考えが頭を過る。無口な兄の事だ、確証はないがなんとなくそう思えた。
なんにせよ、一度兄とはきちんと話をする必要があるだろう。失踪事件のカギを握っている男が塩田だとするのなら、ヤツの目的は自分の降板か、獅子レンジャー自体の消滅。
このまま撮影を続けていれば、きっと再び何かアクションを起こしてくるはずだ。
折角ナギが主演の座を手に入れたと言うのに、こんな事で台無しにされてたまるか。あの子の初主演作品だ。なんとしても成功させて、これを足掛かりに俳優としての道を歩んで行って貰いたい。
そう思ってから、蓮はフッと自嘲気味に笑って首を横に振った。
自分がここまで他人に思い入れする日が来るなんて。昔の自分からは想像できない事だと思う。
今までは自分以外の人間に興味などなかったし、誰に嫌われようが何を言われようが構わなかった。
自分さえ良ければそれで良かったのだ。
それなのに今は違う。ナギはもちろんの事だが、他のキャスト陣達も個性的で中々面白い奴らが揃っていて、毎日飽きる事がない。
何より、ナギの存在が自分の中でどんどん大きなものになって来ていること今更ながらに気付かされた。
――これが、好きって事なのか……。
シンプルな答えに行きついて、じわじわと顔が熱くなるのを感じた。
手の甲で口元を押さえ、顔を隠すようにしてクッションに顔を埋める。
心臓がドキドキと早鐘を打って、全身が火照っているような感覚に襲われ、落ち着けと、何度も言い聞かせるように心で唱えるが、一向に治まる気配はなく、寧ろ酷くなっていく一方だった。
――参ったな……。
いま、この場に誰も居なくて良かった。もしこんな顔を見られたりしたら、絶対に揶揄われるに決まっている。
蓮はもう一度小さく溜息を吐き出すと、ソファーに背を預けて心を落ち着けるために深呼吸を繰り返した。
ふと、ナギの声が聞きたいと思ったが流石にこの時間だ。もしかしたら寝ているかもしれないと思いなおしソファに凭れて目を閉じた。