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🎧短編「それ、俺の」
ライブハウス。
対バンの日。
楽屋は、少しだけ騒がしい。
他のバンドの声。
スタッフの出入り。
その中で。
いつも通り、隣にいる。
琉夏「……うるさ」
冬星「まあ」
短いやり取り。
そのとき。
「ねえ」
対バンのボーカルが、冬星に声をかける。
「ギターさ、さっきのフレーズどうやってんの?」
冬星「あれ?」
普通に答える。
少しだけ、距離ができる。
ほんの数歩分。
(……別に)
気にすることじゃない。
そう思う。
でも。
会話が、続く。
少し長い。
笑ってる。
(……あいつ、あんな顔すんのかよ)
見たことあるはずなのに。
なぜか、引っかかる。
琉夏「……」
視線を逸らす。
ギターの音が、遠く感じる。
(……なんだよこれ)
理由が分からない。
ただ、少しだけ。
面白くない。
気づけば、足が動く。
距離を、詰める。
自然な顔で。
二人の間に、立つ。
琉夏「それ」
会話に割り込む。
二人が、少しだけこっちを見る。
琉夏「違うだろ」
ギターの話に対して言う。
冬星「どこ」
琉夏「そこ」
指で軽く示す。
冬星が弾き直す。
少し変わる。
琉夏「ほら」
それだけ。
会話、終了。
対バンのボーカルが、少しだけ笑う。
「……なるほどね」
意味ありげに。
(なんだよ)
少しだけムッとする。
それから。
冬星の方を見る。
距離は、元に戻ってる。
でも。
さっきより、近い。
無意識に。
袖を軽く掴む。
(……あ)
自分で気づく。
でも。
離さない。
冬星「……なに」
小さく聞かれる。
琉夏「別に」
即答。
でも。
手は、そのまま。
少しだけ、握る。
(……なんでだよ)
理由が、分からない。
ただ。
離したくない。
それだけ。
冬星は、少しだけこちらを見る。
でも。
何も言わない。
その代わり。
ほんの少しだけ、体を寄せる。
距離が、ゼロになる。
それで、満足する。
(……は)
やっと気づく。
さっきの感情。
“取られたくない”
その一言で、全部説明がつく。
(……は?)
自分で、自分に引く。
でも。
否定できない。
「ねえ」
また、さっきのボーカルが声をかける。
「ほんとに付き合ってないの?」
ニヤニヤしながら。
琉夏「違う」
即答。
でも。
さっきより、少しだけ強い。
「ふーん」
また、笑われる。
冬星は、何も言わない。
ただ。
袖を掴まれてるのに、気づいてるくせに。
何も言わない。
そのまま、少しだけ近くにいる。
それでいい、みたいに。
ライブが始まる。
音を鳴らす。
いつも通り。
でも。
さっきより、少しだけ。
意識が強い。
目が合う。
逸らさない。
そのまま、合わせる。
音が、重なる。
(……離さねえ)
言葉にはしない。
でも。
確実に、そこにある。
名前のない独占。