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「先輩ってなんで不動産業に就こうと思ったんですか?」
ルビアが伊織に聞く。2人は午前の仕事を終え
いつものチェーン店の中華ファミレスでお昼ご飯を食べていた。
「…あん(なに)…急に」
口の中のものを食べ終えてから喋る伊織。
「いや、ふと気になって」
と言った後、死んだ顔の伊織と目が合い
「いや!あれですよ!こんな悪魔みたいな人がなんで不動産とかいう
人を相手にする職業に就こうと思うだなんて。なんて思ってませんからね!」
と本音が口から漏れるルビア。死んだ目で
本音は隠せや
と思いながらルビアを見る伊織。
「なんで?…あぁ〜…。社長に誘われてなんとなく?」
「社長にですか?」
「そ」
〜
それは伊織が大学4年生のとき。就職活動に次ぐ就職活動、インターンに次ぐインターン。
ご存知の通りの、自在の笑顔の仮面の持ち主である伊織は
どこの会社に行っても先輩やいろんな人からそこそこ気に入られていた。
なので、面接さえ通れば、どこの会社でも馴染め、それなりに出世し
それなりの人生を歩めることが容易に想像がつくほどだった。
「…ヤバい…。就活の意味がわかんなくなってきた…」
居酒屋で愚痴をこぼす伊織。
「意味?」
高校からの同級生で同じ大学、そして親友である父野(ふの)最上(せいじ)が聞く。
「意味」
「どゆこと?」
「いや、なんかインターン行って社内とか見てると、全員同じに見えて」
「…はあ」
「なんかスーツ着てイスに座ってデスクに向かってパソコンを操作して。
なんか、クローンに見える。みんな。それ見てたら就職する意味とか仕事する意味がわかんなくなった」
「あぁ〜。…。ま、それはあるかもな」
「…最上はいいよな。バイトからそのまま正社員になるんだから」
「あざす」
と笑う最上。
「オレ酒頼むけど、最上なんか頼む?」
「んん〜…。枝豆」
「枝豆ね」
と死んだ顔で言った後、笑顔の仮面を被り
「すいませーん」
と1トーン高い声で店員さんを呼ぶ。
「はい」
「ハイボールと枝豆を。お願いします」
と笑顔で言う伊織。
「ハイボールと枝豆ですねぇ〜。あ」
と店員さんがグラスに視線をやったので
「あ。ありがとうございます」
とグラスを渡す。
「ありがとうございます」
店員さんがいなくなると、スッっと笑顔の仮面が溶けたように死んだ顔になる伊織。
「いや、怖ぇって」
「なにが」
「切り替えが。笑顔もそうだけど「すいませーん」って声変わるのも。電話出るときのおかんかよ」
「んだその例え」
なんてくだらない話をし続け、お酒を飲んで愚痴もこぼし、居酒屋を出て、ステージ1に移動し
カラオケで歌を歌ってそのままカラオケで寝て、始発で帰った。しかし愚痴をこぼしても日常は変わらない。
就職活動に次ぐ就職活動、インターンに次ぐインターン。そんな日々。
そして最上と居酒屋で愚痴こぼし飲み。しかしある日
最上「わり。遅れる。先飲んでて」
とLIMEが来ており、伊織は1人で先に飲んでいた。
「和大(わひろ)さん、不動産のほうはどうなんすか?もう建ちました?店」
と居酒屋の店員とお客さんの話す声が聞こえる。
「あぁ〜。うん。外観は完璧。あとは内装と家具の搬入かな」
「おぉ〜。できたら遊び行ってもいいっすか?」
「いいよぉ〜。ついでに新しいお店のテナントについても話してく?」
「いやぁ〜…それはちょっとまだ」
と笑う店員さん。そんな会話を側に、ちびちび酒を飲みながらスマホを眺めていた。
特に興味もない他人の投稿を眺めてスワイプして。
最上がいないとつまらんな…
と思っていた。すると
「あの。よかったらこれ食べませんか?」
と聞こえた。それが自分に向けられた声だと思った伊織は、死んだ顔から笑顔の仮面にパッっと切り替えて
「あ、いいんですか?」
と言った。相手はメガネをかけたシルバーの髪と髭のふくよかな中年男性。
「お酒を飲んでるとお腹いっぱいなんだかなんだかわかんなくて」
「あ。わかります。お腹は空くんですけど、お酒飲むからお腹膨れちゃって
頼んだ料理1品だけで長時間居座る、みたいなことになりますよね」
「お。若いのによくわかるね。何歳?」
「22です」
「あ、若いねぇ〜。22歳ってことは社会人1年目?」
「あぁ、いえ。今絶賛就活中の大学4年生です」
「あ、そうなんだ。じゃ今まさに大変な時期だ」
「大変ですね。悩みばっかりで」
「おじさんでよければ聞くよ?」
と微笑むメガネのふくよかなおじさん。伊織はお得意の笑顔の仮面の下で
悩みを?5分前に会ったばっかりの見ず知らずの人に?
…ま、もう会わないだろうし、全部洗いざらい話してもいいかもな
と思っていた。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」
「もちろん。僕でよければ」
「じゃあ、すいません。なんか最近、就活してる意味がわかんなくなってきたんですよ」
「就活してる意味」
「はい。就活もそうですけど、仕事をする意味もわかんなくなって。インターンで会社にお邪魔するんです。
で、実際にお邪魔にならない程度にお仕事に触れさせてもらったり
実際に就職されている方に、仕事のことなどを聞いたりするんです。
でも、どこも同じな気がして。もちろんどこも職場環境は素晴らしかったです。
皆さん生き生きしてらっしゃって、仕事を楽しんでる感じがしました。
ただ、側から見たら、全員同じに見えて。ここに自分が入っても入らなくても変わらないんだろうなって。
入っても、自分と同じようにインターンで来た子から見たら、誰かもわからない。
誰でも同じ、その中の1人になるんだろうなって」
「なるほどね。仕事は?仕事する意味がわかんないってのは?」
「はい。仕事って、もちろんお金のためにするじゃないですか。
いや、中にはお金じゃなくて人のためにだったり、自己満足のためとかもあるかもしれないんですけど。
でも、その稼ぐお金って、なんのためかっていったら自分のためじゃないですか。
自分の好きなもののため、自分の人生を豊かにするため、はたまた人のために使いたいお金
たとえば推し活のためとか親のため、家族のため恋人のためとか、人のために使いたいお金だって
結局は“自分が”相手に使いたいお金なわけだから、自分のために稼ぐお金じゃないですか。
でも仕事をして疲れて帰って、寝て、家でも仕事をするかもしれない。
たまに帰る途中、居酒屋とかに寄ってお酒を飲んで、酔っ払って家帰って即寝て
土日はゆっくり寝れる。昼過ぎまで寝て、でも仕事で疲れてるから家からは出たくなくて
ゲームとかなんてことない日を過ごして、夜お酒飲んで寝て、次の日も昼まで寝て
なんなら二日酔いで、月曜の仕事こととか考えたりしてまともに休めなくて
そんなこんなで土日が終わってまた仕事。それの繰り返し。
それで稼ぐお金って、老後の貯蓄以外になんの意味があるんですか?
まったくとは言いませんけど、今の自分の人生の充実のために稼ぐお金じゃないですよね。
ただ日々を生き抜くためのお金ですよね?それを少し多くもらってるだけ。
それを思うと仕事をする意味がわからないんですよ。
定職に就いて、多めのお金をもらって人生を無駄にするより
たまにバイトして食い繋ぎながら好きなことやってた方がいいんじゃないかとか。
でもそれだと好きなことへ注ぎ込むお金がないから
やっぱ定職に就くほうがいいのかな。とか。保険とか有給もありますし」
「一理あるね」
と頷くメガネのふくよかなおじさん。
「ありがとうございます。あと就活時に聞かれる自分の長所と短所もわかんなくて」
「それは悩む子多いだろうね」
「それが、周りに聞くと、割とテキトーに書いてる人が多くて」
「あ、そうなの?」
「はい。正直嘘書いてもわからないじゃないですか。
探偵雇って周りからの評判とか調べるわけでもないですし」
「たしかにそうだね」
「だから親友にも、「テキトー書いときゃいいだろ」って言われてるんですけど」
「テキトーに書くのは抵抗がある?」
「ま、それもなくはないんですけど、ま、テキトー書いても後々先輩とかに
「長所とか短所、テキトーに書いたんすよね」って笑い話にできるかもしれないし。
でも、長所と短所を考えたときに、果たして社会で役に立つ
会社にとって取りたくなる自分の長所ってなんだろう。
って考えたとき、よくわかんなくて。短所なら引くほど出てくるんですけどね」
と笑いながらお酒を飲む伊織。
「うぅ〜ん。今日会ったばっかりだから長所をポンポン言えるわけではないけど。ごめんね?」
「あ、いえいえ。当然のことなので」
「でも1つだけ僕がいいなぁ〜って思う所はあるよ」
と言うメガネのふくよかなおじさん。伊織は「?」と思いながら聞く。
「このお店来てからずっと、店員さんに笑顔で接してたでしょ?」
「…。…あぁ〜…。そうかも?ですね」
「僕が話しかけたときも笑顔で対応してくれたし、今も笑顔でいてくれる。
接客業においてこれ以上ないくらいの長所だよ」
と笑顔で言うメガネのふくよかなおじさん。そう言われて
…。無自覚だったけどそうなのか…
と思う伊織。するとメガネのふくよかなおじさんが名刺を取り出して
店員さんにペンがあるかどうかを聞いてペンを借り、名刺になにか書いてから
「これ僕の名刺」
と伊織に渡してくれた。伊織は少しかしこまり、しっかり両手で
「すいません。頂戴します」
と言いながら受け取った。そこには「和大 楽界」と書かれていた。
すげぇ名前。なんて読むんだ?
と思っていると
「和大(わひろ)楽界(がっかい)って読みます。よろしくね」
心を見透かしたように言う楽界。
「あ、よろしくお願いします」
と言いながら名刺を眺めていると
…株式会社 おおらか不動産 代表取締役社長
と書かれていることに気づいた。
…社長?
と思った。
「社、長さんなんですか?」
「あぁ。うん。小さい会社のだけどね」
「いやいや。すごいです。社長さんとお話しできるなんて」
「いやいや、そんな大層なことじゃないよ。でさ?1つ提案なんだけど、聞いてくれる?」
「?はい」
「うちで働いてみない?」
「…」
一瞬なに言ってるかわからず固まるが、飲み込み、咀嚼し、理解して
「え。僕がですか?」
と戸惑う。
「もちろん」
「さっきまで仕事をする意味とか自分の長所がわからないって言ってた僕をですか?」
「そ。名刺に書いてあるからわかると思うんだけど、僕、不動産の社長なのね?
不動産業って対人スキルが重要だとな仕事なの。第一印象で「この人にならまかせられる」
「この人ならわかってもらえる」って思ってもらって、お客様の本当の要望とかを聞いて
一緒にお部屋を探して、っていう仕事なのね?だから…」
「あ、すいません。名刺とかないんですけど、汐田です。汐田伊織です」
「汐田くん。汐田くんのその笑顔で接するスキル。不動産業では抜群に活きると思うよ。
それに仕事をする意味。インターンに行った会社でデスクに向かってる人たち見たら
みんな同じに見えるって言ってたでしょ?」
「はい」
「自分がその会社入って働いたら、次にインターンに来る子からは同じように見える。
誰が誰かわかんないくらい同じに見える。でも不動産業はね?その人だからこそ、ってのがあるんだよ。
お部屋探しをあなたにまかせて良かった。って言ってもらって
次の更新時とか、新しい部屋に移り住むってときもう一度まかせてもらえる。
誰かじゃなくてあなたがいい。って言ってもらえる。そんな仕事なんだ。
だからよかったら選択肢に入れてみて?もちろんちょっと働いて違うなと思ったら辞めてくれても全然いいし」
「はあ」
「まだ会社自体はできてないんだけどね」
と笑う楽界。
「あ、そうなんですか」
「うん。建物自体はできたんだけどね。まだ内装と家具の搬入が残ってて」
「そうなんですね」
「うん。だから、…ま、年内には完成するから、汐田くんの就職時期には間に合うはずだから
候補として頭の片隅にでも入れといてくれたら嬉しいかな」
「あ、はい。もちろんです。こちらこそありがとうございます」
「ううん」
と言った後、楽界はグラスの残りを飲み
「お会計。お願いします」
と店員さんに言ってお会計を済ませて
「じゃ、機会があったらまた」
という楽界に、立ち上がり
「はい」
と軽く会釈をする伊織。楽界はお店を出て行った。入り口で楽界と入れ違いで最上が入ってきて
「わりわり遅れた」
伊織を見つけて、伊織の隣に座る。
「いやぁ〜、新作が入ってきてさ。レイアウトとかコーディネート決めてて遅くなった」
「お疲れ」
「あ、レモンサワーお願いします。オレいなくてつまんなかったろ」
「ん?あぁ。…つまんなかったけど、おもしろかったよ」
と微笑む伊織。
「伊織が笑った…。世界崩壊の合図か!?」
「失礼すぎるだろ」
なんて話して楽しく飲んだ。次の日も伊織は就職活動に勤しんだ。インターンにも行った。
楽界と出会った日から、ずっと楽界のことが頭にあった。
就職活動をするも、インターンに行くも、やはりどの会社も同じように感じられ
「…来ちゃったな」
つい来てしまった伊織。楽界からもらった名刺の住所を地図アプリに入れ
ナビゲーションを頼りにたどり着いた。
「…「ただいま準備中」か」
入り口の上にかけられたカバーに書かれた文字を読む伊織。
しばらく店の前で入るか入らないか迷っていた伊織。
そもそもまだ完成してないみたいだし、事前に行くという連絡もしていない。
やっぱり今日はルートの確認だけで、後日連絡してから来ようか。でも。と考えていたら
「…。汐田くん?」
と声が聞こえて、パッっと入り口を見ると楽界がいた。
「あ、どうも」
と笑顔の仮面をつけて頭を下げる伊織。
「来てくれたんだ?あ、まだ家具とか搬入されてないんだけど…。良かったら入って」
と言われて
「あ…、じゃあ」
とお邪魔することにした。入るとたしかに家具は搬入されておらず
床も養生シートがある状態で、家具が搬入されてないどころか、まだ内装も途中だった。
「ちょっとね。内装が長引いちゃって」
「あ、そうなんですね」
「あぁ〜…」
と楽界が止まって周りを見渡して
「えぇ〜…。どうしようかな…」
と言って壁にクラフト用紙がテープで貼られ、保護されている部屋に入り
「…。汐田くん、ちょっとここで待っててもらっていい?すぐ戻るから」
と言う楽界。
「あ、はい」
小走りに出ていく楽界。笑顔の仮面を外し、その場から動かず部屋の中を見る伊織。
なかなか内装途中の建物に入ることはないので新鮮だった。しばらくすると
「ごめんごめんお待たせ」
と楽界が折りたたみのイスとレジ袋を持って帰ってきた。なので伊織も笑顔の仮面に戻した。
「イスもないからさ」
と言いながら折りたたみイスを広げる楽界。
「よかったら座って。あ、新品だから大丈夫よ」
「あ、すいません。ありがとうございます」
と言って座る伊織。
「いや、内装屋さんとか皆さんのためにホン・キオーテでこの折りたたみのイスいっぱい買ったから
そこらへんにもあるんだけど、皆さん作業着で汚れた状態で座ってるからね。
伊織くんのスーツ汚れちゃうと思って、使ってない新品持ってきたから」
「あ。お気遣いいただきありがとうございます」
「いーえー。で、今日はどうしたの?」
「あ、すいません。連絡もせずにいきなり来てしまって」
「ん?ううん。全然大丈夫よ」
「和大さんに愚痴聞いてもらった後も就職活動したんです。インターンにも行って」
伊織の話を頷きながら聞く楽界。
「でもやっぱり同じに見えて。で、就職活動のときも、インターンのときも
和大さんの言葉がずっと頭の片隅にあって、来て、しまいました」
「そっかそっか。ありがとう」
と頭を下げる楽界。
「いえいえ。こちらこそ。ありがとうございます」
伊織も頭を下げる。
「どお?…とはいってもまだ内装もできてないし、家具もないからあれだけど」
「はい。素敵です」
「あ、うん。ありがとう。それもそうだけど、汐田くんの働く場所って考えると」
「あぁ…」
と言ってから周りを見る。しかし周りを見ながら、ここで自分が働くんなら。と考えているわけではなかった。
不動産業って、素人でもできるもんなのか?
と考えていた。楽界に言われた
「誰かじゃなくてあなたがいいって言ってもらえる仕事」ということに惹かれてはいた。
「…あの。質問よろしいでしょうか」
「ん?もちろん」
「調べろって話ですし、無知でお恥ずかしいんですけど
不動産業って、なにか資格とか持ってなくても大丈夫なんでしょうか?僕なにも持ってなくて」
「あぁ〜…。うん。とりあえず大丈夫だよ。
本当は宅地建物取引士っていう資格を持ってるほうがいいんだけど…。うん。とりあえずは大丈夫なはず」
と言う楽界に
な、はず?
と思う伊織。そんな伊織の思いを見透かしたように
「一応うちに来てくれることがほぼ決定してる子がその資格持ってるから」
と言ってくれる楽界。
「あ、いらっしゃ」
るよなそりゃ
「るんですね」
「そうそう。だから、うん、大丈夫だと思う」
「…もし大丈夫じゃなかった場合は…」
「ま、僕も持ってるから大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど
その場合は一応誰かには取ってもらいたいなと思ってる」
「…。ちなみに難しいですか?」
「そんなに難しくはないんじゃないかな。大丈夫大丈夫」
「…じゃいいですけど」
「大丈夫大丈夫」
「…。あと和大さん、僕のこと、笑顔がいいって言ってくれてましたけど
普段は全然笑顔じゃないんですよ。性格も良くないですし」
という伊織の言葉を「へぇ〜」と言わんばかりに頷きながら聞く楽界。
「僕は無意識だったんですけど、親友に笑顔との切り替えがヤバいって言われてて。怖いって言われるほどで。
親友からは「悪魔に魂抜かれたくらい死んだ顔」とか「悪魔みたいな顔」って言われてますし。
たぶん、こういう言い方をすると和大さんに申し訳ない言い方になってしまうんですが
あまり親しくない人と接するときは、笑顔でいるようにしてて
1人のときとか、心を許した人とかには笑顔じゃなくなるんです」
「きっと表情筋が疲れるんだろうね」
「そうかもしれないです。だから、性格悪いんですよ。
外面良くして嫌われないようにして、親友とか親い人には嫌われないってあぐらをかいてるんですよ。
そんなやつに人の家を決める仕事なんて務まるんでしょうか…」
と瓦解しそうな笑顔で言う伊織。そんな伊織に
「だいたいの人がそうじゃない?」
と和大が言う。
「だいたいの人がそうだよ。なるべくなら嫌われずに生きていきたい。
親友や家族なんかにも嫌われたくないけど、親友や家族の前ですら取り繕う必要はないわけで。
汐田くん、あぐらをかいてるって言ってたけど、僕はいいんじゃないかなって思うよ。
だって心を許してない人の前では、笑顔で行儀良く正座してる。
でも自分のことを親友って言ってくれてる相手が正座してたら、なんか嫌じゃない?
まだ心許してくれてないのかな?って思わない?足崩して、あぐらをかき合える相手だからこそ、心許せるし
なんでも、…なんでもってことはないかもしれないけど、いろんなこと話せる。
汐田くんだって、親友とか家族に横暴ってわけじゃないでしょ?」
「ま、はい。それは」
「じゃあ、僕もそうだよ。僕だっていろんな人と接するけど、だいたい良い顔するよ。
ま、汐田くんの、その悪魔みたいな顔とか悪魔に魂抜かれたくらい死んだ顔ほどではないけど
割と家庭と外では落差はあるはずだよ。そんなもんだよ。だから汐田くんが性格悪いなんて、僕は思わないし
その、パッっと笑顔に切り替えられる能力は不動産業向きだし
嫌われたくないっていう気持ちも向いてると思うよ。
嫌われたくないってことは相手の気持ちを汲めるってことだからね。だからその点は安心して大丈夫」
そう笑顔で言う楽界に、心の壁は完全に崩れた伊織。
「じゃあ…。お世話になってもいいんでしょうか?」
「お!ほんと!?」
「いや、こちらこそこれってほんとなのかな。現実なのかなって思ってますよ」
「つねってあげようか?」
「丁重にお断りします」
「じゃ」
と言って和大がレジ袋から缶ビールを取り出して、1本を伊織に渡し
「とりあえず一旦、うち(オーライ おおらか不動産)に来てくれるということで」
と言ってプルタブを開ける。伊織もプルタブを開ける。
「記念に」
と言って缶ビールを軽く上げる和大。伊織も缶ビールを軽く上げ
「乾杯」
と言う和大に応じて
「乾杯」
と言って2人で缶ビールを軽くぶつけ乾杯し、缶ビールを飲んだ。
「ちなみに聞きたいんだけどさ?」
「はい」
「悪魔に魂抜かれた顔ってのはなんとなくわかるけど、悪魔みたいな表情って
悪魔って無表情なの?」
「いや、知らないです」
〜
という和大との出会いを思い出していた伊織。
「ま。さほど覚えてないけど」
「何年前ですか?」
「んん〜…オレが就活してた頃…高校じゃなくて、大学4年?だから…4年?3年?前くらい」
「あ、意外とそんな前じゃないんですね」
「そうだな。てかルビアこそ社長といつ出会ったんだよ。
どんなキッカケでうち(オーライ おおらか不動産)来たんだよ」
「あぁ、オレですか。気になります?」
「気になるわ。悪魔がどーゆーキッカケで職につくとかも気になるし」
と聞こうとしたが、伊織がスマホの画面をつけると
「ヤバ。新山さんもう来たって社長からLIMEきた。戻るぞ」
と立ち上がる伊織。
「はい!」
伊織とルビアはオーライ おおらか不動産業に戻った。
ゆうき あきや
1,130
祖国様&三重推し
54
烏丸鳥丸
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コメント
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第18話、読み終えました。伊織の就活時代の回想、すごく良かったです。居酒屋で楽界さんに自分の本音をぶつけるシーン、特に「仕事する意味がわからない」って言い切るのは勇気がいることだと思うんですけど、そこで笑顔の仮面の下の等身大の伊織が見えた気がしました。あと、楽界さんの「お客様に『あなたじゃなきゃダメ』と言ってもらえる仕事」という言葉、すごく響きました。伊織がこの会社に決めた理由がじわっと伝わってくる回でした。