〜side伊波〜
「伊波、ご飯出来たけど食べれそうか?」
お盆にご飯を乗せ小柳が俺の所まで運んでくれる
枕元にお盆を置き、小柳が俺に笑いかけた
「食べるか?」
「‥‥一口だけなら」
「分かった」
背中にクッションを当て、小柳が更に手で支えてくれる
お椀に入った重湯をレンゲに掬い、2、3度冷まして俺の口元に運ぶ
「‥‥ありがとう」
「水も飲んで」
水差しで水を貰い、再度布団に横になった
片付けを終えた小柳が俺の隣に胡座をかき、座る
俺の手を探し、握りしめながらマッサージをはじめた
「お前今日仕事は?」
「今のところ入って無いよ。伊波も眠かったら寝れば?」
小柳は俺の髪を手で梳しながらおでこにキスをする
「やめろよ。こんなジジイにキスなんて」
「毎日してるのに今更だろ」
「まさか小柳に介護してもらうなんて‥‥」
「別に?俺はお前と一緒にいるだけだから」
なんだか今日はいつもより頭がスッキリしている
いつもは寝てばかりなのに何故なんだろうか
いや、でもそうなのかもしれない‥‥
「あれからどのくらい経ったかな」
「ん?なにが? 」
「小柳が長く家を空けた時。お前の分身を俺の中に置いて行ってからの事」
「そう言えばまだ返してもらってないな」
「‥‥返さないよ。あの時イマジナリー小柳って命名したんだから」
「良いよ。もう50年以上お前の中にいるんだから。どっちにしろ俺はお前のものなんだ」
「もうそんなに経つのか。時間が経つのは早いな」
握る小柳の手が暖かい
昔はよく冷たく感じていたのに‥‥
俺の体温が低くなっているのかもしれない
「俺の血を分けてお前が100年位生きれたら良いのにな」
「大丈夫、俺の心の中のお前が生まれ変わってもお前を探し出して見せるから」
「俺ってそんなに有能だったかな?」
「まぁ、不安ではある」
不服そうな顔で俺を見る小柳の手を少しだけ強く握る
「もし、俺がいなくなったらまた誰か良い人と巡り合って欲しいよ」
「‥‥俺はお前だけで良いよ」
「そんな事言うなよ」
「俺がずっと生きてきた中でそう思えたのはお前だけだよ。今までは全ていらないと思ってたけど、今はライだけで良い。お前との思い出だけで生きていけるよ」
「思い出だけで生きていくのは‥‥‥‥いつか、ずっと後で良いからまた一緒に歩きたいと思える人に出会って欲しいよ」
「‥‥分かったよ。気が向いたらな」
「‥‥‥‥ロウ」
「ん?」
「ありがとう」
「ライ?」
おでこに暖かさを感じる
でももう目を開けてられないんだ
ロウ
出会ってくれてありがとう
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