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「なんで……どうして、私は……」
「参ったな……まさかここまで驚かれるとは思わなかった。そんなに私が君に好意を持つのは不思議なことかな」
本人の口から言われたのに信じられなかった。私にとってはそれくらいあり得ない事だったから。
だって….…あれだけ数多の女性を虜にした初恋泥棒が? 良家からの縁談話だって山のように来ているだろうに……なんでよりにもよって私なんだ。
「きっと……一目惚れに近かったと思う。あの日、妹を見失って焦っていた私の前に君は現れた。女の子が襲われているとがむしゃらに訴えかけて……私をその場まで誘導してくれた」
「えっ……あの時の護衛兵って、バージル様だったんですか!?」
「そうだよ。やっぱり気付いてなかったんだね」
ステラが暴漢に襲われそうになって……私はとにかく必死だった。運良くジョゼット家の護衛兵を見つけた時は心の底から安堵したのだ。私があの時助けを求めた兵士がバージル様だったなんて……今の今まで全く気付かなかった。
「それほど一生懸命だったということだな。兵士の顔なんて記憶に残らないくらい。でも、私の方は妹の命を救ってくれたその女の子の姿が頭から離れなくなった。後にアルメーズ家の令嬢だという事が分かって、ステラと仲良くなって……私とも僅かだけど言葉を交わすようになる頃には、はっきりと自覚するほど君に惹かれていた」
淡々と……まるで報告書の続きでも読み上げるように、バージル様は私への想いを語る。これが、彼が今まで隠してきた……DP事件を解決へ導くに至った動機なのだと——————
「我ながら酷いと思うよ。リナの気持ちなんてお構いなしに婚約相手を失墜させようとしたんだ。アルメーズ家を救ったというが、それは結果論でしかない。君が私に恩を感じる必要なんてないんだよ。全部……私が一方的に拗らせた感情を暴走させたがゆえの副産物なんだから」
バージル様はまたしても項垂れてしまった。こんな告白を聞いて、私は彼にどんな言葉をかけたらいいのだろうか。
レシュー家が犯罪を犯していたのが発覚したのは偶然だった。バージル様はそれを都合良く利用したのだと主張する。
結果論……か。
例えそうだとしても、それはレシュー家の末路に関してであって、マルクと私の婚約においては違うと思う。なぜなら、私とマルクの仲はレシュー家の悪事とは関係なく、とっくに破綻していたのだから。
マルクへの親愛の情は薄れており、契約上の繋がりだけを維持していたに過ぎない。無理だと諦めつつも、私は婚約解消を望んでいた。
バージル様は私の気持ちを無視したと言っているが、決してそんなことはないと思う。以前うちに来た時にも婚約についてどう思っているか確認してくれたじゃないか。あれは、レシュー家が近いうちに破滅することが確定していたからこそ、私を気遣って出た言葉ではないのか。
彼の言う通り……始まりは独りよがりだったのかもしれない。でも、やはり私はバージル様に感謝しているし、彼の気持ちを知っても嫌だとは感じなかった。今の私はとにかくバージル様に落ち込んで欲しくなかった。彼の辛そうな顔を見るのが嫌。ただ……それだけだった。
「……バージル様」
「うん……」
「あまりのことで……私、貴方になんと言葉をかけるべきか分かりません」
「……だろうな」
「で、でも……これだけは言いたい。私はバージル様に感謝しています。うちの家を救って頂き、本当にありがとうございました」
「だからそれはっ……もう、礼はいいって……」
「それで……できたら……その、バージル様さえ良ければですが、今後も私と時々会ってお話しをしてくれませんか?」
「えっ……?」
これはまた初めて見る表情だ。ぽかんとして、何が起きたのか分からないような……バージル様もこんな顔できるんだな。一瞬だけど状況を忘れて笑みが溢れそうになってしまう。
「私のことが気味悪くないのか。無理はしなくていい。恩があるからとか……そういう気遣いは不要だ」
「そんなんじゃありません。そりゃ、驚きはしましたけど……ふたりきりが嫌でしたら、ステラと一緒でも構いませんから」
いつのまにか私は必死にバージル様に縋っていた。だってこのままだと、彼は私の前からいなくなってしまいそうな気がしたから————
#創作
ゆずき
192
#恋愛
もな
302
38
ジョゼット家の跡取りである彼が失踪などするはずがない。そんなことは分かっている……だけど、この時私が感じた予感は当たっていたと思う。失踪はさすがにないにせよ、彼と私がこれまでのように気安く会話をすることは出来なくなっていたに違いない。今回のことでバージル様は私から距離を置く……それは確信に近かった。
「……貴方の気持ちに対して今すぐ答えを出すことはできません。でも……だからこそ、私はバージル様のことがもっと知りたいんです。勝手なことを言っているのは分かっていますが……」
彼との関係がここで終わってしまう……それだけは絶対に嫌だった。
「お人好しだね、リナは。こんな男……ここで切り捨てておけば良かったって後悔するかもしれないのに」
「今ここで貴方との縁を断ってしまう方が後悔します」
関係を終わらせたくないのだと伝えた。
私の訴えを聞いたバージル様は、目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。そして……次第にその表情は、とても苦しそうな……まるで、今にも泣きだしてしまいそうなものへと変化した————
「君は私にチャンスをくれるのか……」
ここまでの話を聞いても、やはり私はバージル様に対して嫌悪感のようなものは湧かないのだ。今私の心の内を支配しているのは驚きと戸惑いと……あとは、彼が私へ向ける熱烈な想いを聞かされたがゆえの羞恥のみだった。
「私たちに必要なのは穏やかに会話をする時間ではないでしょうか。もう少し落ち着いたらお茶会を開こうかなと思っているんです。そうしたら……是非、バージル様とステラを招待させて下さい」
酷く混乱している頭で出した精一杯の提案だった。今後、彼と私の関係がどうなるかはわからないが、決して悪いものにはならないだろう。だって——————
「……ああ、必ず行かせて貰うよ」
「約束ですよ」
だって……今ですら必死に彼を繋ぎ止めようとしている。その時点で私の答えは決まっているようなものだったから。
バージル様のおかげというと、また本人に否定されてしまうだろうけど、今の私は自分の意思で選択ができるのだ。だからもう、決して後悔はしたくない。
貴方の側にいたい。それを直接彼に伝える勇気はまだないけれど……私の偽りない本心であり、願いだった。