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soli
『風が、君の名前を連れてきた』
放課後のチャイムが鳴り終わっても、教室はまだ少しだけ温度を残していた。
ざわめきが消えて、外の風の音だけが響いてる。
机の上のノートがふわりとめくれて、夕陽の色が差し込んだ。
「……らいと、帰らないの?」
前の席の彼は、ペンをくるくる回したまま顔を上げない。
「んー、帰る気せん。なんか今日、風が気持ちええやん?」
「お前、いつもそんな理由だよな。」
「そりゃそうやろ。風が気持ちええ日は、無理して帰らんでよか。」
その言葉に、心音は小さく笑った。
何でもないように見えるのに、らいとの言葉は、いつも不思議と胸の奥に残る。
そんな言葉を、何度も拾い集めてきた。
気づいたら、屋上にいた。
誰もいない放課後の屋上。
夕焼けの色が校舎の白を染めて、風がシャツをなでていく。
「風、冷たくなってきたな。」
「秋やけんね。心音、寒いと?」
「少しだけ。」
「じゃあ、俺ん隣おいで。ここ、風通らんけん。」
そう言って笑ったらいとが、柵の向こうを見上げる。
空は透き通るみたいに綺麗だった。
でも、それよりもその横顔のほうが、ずっと綺麗で――俺は目が離せなかった。
「……なぁ、心音。」
「ん?」
「こうやって屋上で風感じよる時間、好きやけん。」
「……俺も。」
「……それと、」
「?」
「お前とおる時間も、もっと好きやけん。」
言葉が風に溶けて消える前に、鼓動の音だけがはっきり聞こえた。
ふたりの間にあった空気が、少しだけ震える。
「……今の、反則。」
「え、なんで?」
「そんな言い方されたら、返せないだろ。」
「返さんでもよか。俺は言いたかっただけやけん。」
らいとは笑って、ポケットに手を突っ込んだ。
その指先が、そっと俺の指に触れる。
繋ぐわけでもなく、ただ、確かめるように。
「ほら、ちゃんと伝わっとるけん。」
沈む夕陽の光が、らいとの髪を透かした。
赤くて、眩しくて、切なくて。
何も言えないまま、俺はただその手を握り返す。
風が吹いた。
制服の袖が重なって、
心臓の音が、少しだけ近づいた気がした。
――この時間が、終わらなければいいのに。
屋上の隅に残る陽だまりの中、
ふたりの影がゆっくりと重なっていく。
世界はもう、少しずつ夜に変わろうとしていた。
でも俺の胸の中だけは、まだ夕焼けのままだった。
いりす 様 のリクエストでした‼️
ありがとうございます🙇♀️🙇♀️
1人何個でも良いのでリクエスト下さい‼️