テラーノベル
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小鳥遊ひより《たかなしひより》は、学校の中で、限りなく**背景に近い存在**だった。
黒髪はいつもひとつ結び、制服は規則どうり。
声も小さく、自己主張はしない。クラスで名前を呼ばれることなんて、出席確認ぐらいしかない。
その日も放課後、ひよりは図書室の隅にいた。
委員会の引き継ぎ資料を探していたのだか、古い棚の上段に挟まって取れず、背伸びをしても指先が空をきる。
「……あ」
バランスをくずした瞬間、後ろからすっと腕が伸びた。
ひよりが落としかけたファイルは、軽々とその手に収まる。
「これ? 」
低く落ち着いた声。
振り返った先にいたのは、校内で知らない人はいない生徒会長、一之瀬玲《いちのせれい》だった。
「す、すみません……」
慌てて顔を下げると、一之瀬は少しだけ困ったように笑った。
「謝ることじゃないよ。君のじゃない?」
差し出されたファイルを受け取ると、確かに探していた資料だった。
ひよりは胸の前でぎゅっと抱え、小さくうなずく。
「あの……ありがとうございました 」
それだけ言って立ち去ろうとした、その時。
「待って」
名前も知らない相手に呼び止められ、ひよりの肩がびくっと跳ねる。
「君、3年の小鳥遊さんだよね」
「……っ」
なぜ知っているのかもわからず、言葉が詰まる。
一之瀬は、気にした様子もなく続けた。
「さっきの資料、少し見えたんだけど。字がすごく読みやすかった。」
ただそれだけの言葉なのに、胸の奥がざわついた。
褒められた記憶なんて、ほとんどない。
「良かったら――生徒会、手伝ってみない?」
あまりにも自然に言われて、理解が追いつかない。
「え…わ、私が、ですか?」
「うん、向いてると思う」
理由はそれだけだった。
イケメン生徒会はそう言って、当たり前のように微笑んだ。
ひよりの静かな平穏な日常は、この瞬間から、静かに形を変え始めていた。
コメント
3件
はいきたーーー(゚∀゚ 三 ゚∀゚)神作楽しみにしています!