1,プロローグ
小学校を卒業し、4月には入学を迎える。私の中学校は隣町の小学校と合併するため、人が多い。
合併し隣町の人々と初めて対面する日。皆がだるそうにしている中、明るい輪ができていた。おそらく隣町の子達だろう。 そんな中一際目立った女の子がいた。
天使の輪が浮かぶ絹の様な黒い髪、雪のような白い肌、周りとは違い美しく伸びた背筋。見た目は特徴的ではないがどこか周りと違って見える。なんというか気品のあるお嬢様、みたいな。
そんな事を考えていても入学式は終わらなかった。
そんな中私はその子の名が呼ばれるのを待った。
やっと次があの子の番そう考える間もなく名が呼ばれる「白波優描」、しらなみゆうか。自分と似た名前に驚きつつも胸にその名を刻む。
いつか、あの子と仲良くなれたら、なんて…
この時はその子のことばかり考えていたけれど、学級の活動等で1週間もすればすべて忘れていた。
2,新学年
3年生が卒業し、1年生が入学する。私達は進級。1年から2年へと進級する。
私達、新2、3年生は前のクラスへ集まり、1人1枚クラス表が配られる。その紙にさっと目を通す。
1組、2組、3組、見ていく中で一つの名前が光って見えた。【白波優描】入学式以来、総務の活動や部活動で忘れていたが今思い出す。その下を見ると自分の名前がある。1年のときに忘れていたあの子と2年になり同じクラスになれるとは考えもしていなかったことだ。
噂から聞くに、以前の私と同じタイプらしい。いつもは静かだが、リーダーシップがあり、総務など責任の重い役割を受け持つらしい。
「皆さん移動してください」
今の今までクラス表を凝視していたが、以前の担任の呼びかけで現実に引き戻される。
みんながぞろぞろと各教室へ向かう中、1人足が竦む。何かあったわけじゃない。ただ、人混みに入るのが嫌なだけ。
「…何組?行かないの?」
少し廊下に立っていると背後から繊細で透き通った声が耳を撫でる。振り向くとそこには白波優描、さんがいた。やはり美しい髪に白い肌。同性の私でも見ているだけで胸が高鳴る。
「ぁ、3組です。ちょっと人多くてびっくりしちゃって(笑)」
悩んだ末絞り出した言葉は当たり障りない普通の言葉
「ふふっ、そうだね。小学校に比べたら凄く多いよね、3組なら一緒に行かない?」
「ぇいいんですか?」
憧れ、尊敬、綺麗な人と一緒に歩いていく教室より楽しみになるものはない。同じクラスの人の特権だ。
「もちろん、私鈴色さんと話してみたいと思ってたんだ〜」
「え、なんで名前、」
「苗字くらい名札見ればわかるし、入学式の時から気になってたの。少し自分ににている気がするって」
「名札…でも、白波さんと似てるなんて、そんなっ」
尊敬している人からの似ていると言う言葉ほど驚くものはないのではないだろうか。
戸惑いつつも生死を彷徨いながら話しながら人混みをかき分けていく。
「そうかな、雰囲気とかにてる気がしたんだけど、あと、お互いタメで大丈夫?私ばかりタメ口で…」
「はい、じゃなくて、うん」
こんな何気ない会話を交わしながら少し進むと教室に着く。そこには今年の担任と半分以上のクラスメイトが揃っていた。
ザワザワとした雰囲気の中、中学生とは思えない大人びた様子で外を眺める優描。さっき、話している時にお互い呼び捨てにするようになってしまった。嫌ではない、もはや嬉しいまであるが、今日会って今日話した人とここまで親しくなれるものなんだ、と驚いているのが今。
「…ねぇ優音、入学式、部活で何かやるの?」
「ぇ?」
「さっき吹奏楽部って言ってたから何かやるのかなって思ったんだけど、やらないの?」
私が少しだと思っていた会話も全て覚えてくれている。優しすぎる、
「吹部は演奏するよ。入退場の演奏と写真撮影時の盛り上げ要員」
「ふふっ、楽しそうだね。」
「…美術部も何かするの?」
自分だけ話しかけてもらって何も聞かないのは失礼なのかと思って、私も同じ質問を返す。
「入学式中は何もやらないけど、応援幕見たいな感じに1年生に向けた絵を横に飾るよ。」
「そっか、じっくり見てみるね」
実を言うと私には絵の良さが分からない。
綺麗、とか上手、とか簡単なことはわかるけど、作者がどんな思いで描いたのか、とか、この絵は何を表しているのか、とかそんな難しいことは考えられないから、私は音楽に進んだ。
「そろそろ1校時目始まるね、」
「そだね」
「そろそろ静かに座ってよっか」
「うん」
3,自己紹介・学級委員
1校時目が終わり、2校時目に移る。1校時目の休み時間は優描は友達に囲まれ、私も有り難いことに友達になれそうな子と喋ることができた。
2校時目は自己紹介だ。
「では、名簿順に自己紹介をしていきましょう。」
担任の声に私達の えーっ と言う声が重なる。
クラスメイトたちは自己紹介を赤羅様に嫌うが私は余り嫌いじゃない。クラスメイト一人一人の個性や特技、好きなことなどが聞けて友達を作ったり、クラスを良いものにしていくときに役立つ。
「ーーーー。」
「ーーーー。」
「ーーーー。」
暫く自己紹介が続く、そしてようやく優描の番になる。
「こんちには、白波優描です。好きなことは絵を描くことで、苦手なことは音楽です。美術部に所属し、去年は有り難いことに風景画コンテストで最優秀を頂きました。このクラスで沢山のいい思い出を作って行けたらな、と思います。これからよろしくお願いします!」
…音楽が苦手、か。
そんな事を考えていると私の番になる。
「こんにちは、鈴色優音です。好きなことは音楽で、苦手な事、は絵、です。吹奏楽部に所属し、楽器はクラリネットを担当しています。小学校ではトロンボーンを経験し、現在のクラリネットでは、去年ソロコンテストで全国大会にまで出場させて頂きました。ピアノも習っています。音楽のことには何でも任せてください!1年間仲良くしてください!よろしくお願いします。」
…絵が苦手と言ってしまった。優描の方を見ると、捨てられた子犬の様な潤んだ瞳をしていた。美しく優しすぎる彼女にそんな表情をさせてしまった事に罪悪感が押し寄せてくる。自分以降の人の自己紹介は耳に入らず、ずっとぼぅーっとしていた。
全員の自己紹介が終わった頃だろうか、担任は
「時間が余りすぎているから学級委員を決めよう」
そういい出した。
同じ委員になりたい人もいるだろうに打ち合わせっと物があるのに、急に言われても困るのではないか、
「今日は学級総務を決めて解散にしようかな」
委員会より、学級委員のほうが責任は重く、やることも多い。私は1年のときにそれを経験しているからこそわかる。
「誰か推薦や立候補者はいないかな?」
担任はそう問いかけるが誰も手を挙げるはずもなくただ時計の秒針だけが進んでいく。
「じゃぁ、私と優音さんがやります」
そう言いながら手を挙げたのは前の席、そう優描だ。
「そうか、じゃあ2人、任せていいか?」
「ぇ、は?でも、」
「はい、もちろんです」
半ば強引に成らされたが、これがクラスの総意なら問題ないだろう。余り私は賛成しないけどね、
4,部活
帰りのホームルーム、吹奏楽部と美術部は必要なものを持って体育館に集まるよう指示された。
若干気まずくなっている優描と私だが、恐らく誘われるであろう体育館に向かう。
「…優音良かったら一緒に体育館行かない?」
どこか不安そうに声をかけてくる高嶺の花に顔を顰めそうになるのを抑え、笑顔で明るい声で「うん!一緒に行こう!」と、答える。
「良かった、さっき絵が苦手って言ってたし、私も音楽苦手って言っちゃったから嫌われちゃったのかと思った、」
人に、得意、苦手、好き、嫌いはあるがその人の好みで友達の有無を決めるような人と私は友達になりたくはない。
「ふっそんなことで嫌いにならないよ。でも、何で音楽が苦手なのかだけは理解できないけどな、」
「なんか、音が並んでゴチャゴチャしてるだけの雑音に聞こえちゃうんだよね〜(笑)」
笑いながらサラッと吹奏楽部の地雷を踏んで行く優描に私も相手の地雷を踏みに行く。
「そうなんだ~、私も絵はただ色が塗ってあるだけって感じがして苦手なんだよね〜。絵って何を伝えたいのかイマイチよくわかんないし、(笑)」
自分でも幼児のようなことをしているなぁ、とは思うものの、荒らされた畑は荒らし返さないと気が済まないタチ。だけど、さすがに言い過ぎたか?と思っていると、顔を歪めて笑っている優描が目に入る。
「絵ってよくわかんない?そっか~、そんなに薄い人間だったのか〜。知らなかったな〜私。優音なら分かってくれると思ってたけどね。」
「音楽ってよくわかんない?そっか~。そんなに薄情な人間だったのか〜。知りたくなかったな〜私。優描なら分かってくれると思ったんだけどね〜。」
お互い、穏やかな性格の欠片もない言葉が飛び交う。そんな中私は名案を思いつく。
「じゃあ今日の演奏でその考え全部塗り替えるからちゃんと聴いててね?」
「もちろん。今日の私が描いた横断幕も見てね?覆すから優音の考え。」
2人でバチって居ると、あっという間に体育館に着いた。集まっている場所は吹奏楽が舞台袖、美術部が2階窓側。
「そしたら、また明日!」
「明日。」
優描の変わりように驚く自分と言い過ぎてしまった反省する私が居る。明日、謝ろう。
更衣室で楽器を準備していると更衣室の外から「おー」と言う歓声が聞こえてくる。恐らく横断幕が掲げられたのだろう。
急いで楽器を用意し、外へと向かう。更衣室からでた瞬間、絵を見て初めての感覚に襲われた。
藍色と桃色の綺麗なグラデーション。薄く綺麗な雲の白。新入生を迎えるように、桜まで散りばめられている。初めて絵をこんなにも美しいと思ったことはなかった。
その絵を眺めているとあっという間に時間は過ぎた。
「何見てんの、合奏始まるよ?」
「ぁ、すみません。今行きます。」
先輩に声をかけられなかったら恐らく気づいていなかったでしょう。絵に釘付けになるなんて、6歳の私には考えられなかったはずだ。
合奏が終わり、入学式が始まる。私は、今までで1番感情を込めて演奏した。
優描の心に音を灯すよう
5,ごめん
入学式の次の日、私は今までで1番早く登校した。どうしても、早く優描に謝りたかった。
学校に着いたのは私が最初だったようだ。自分の準備をして学級総務の準備を終わらせる。丁度終わったころにドアが開く。そこにいたのは、いつも通り、美しい黒髪を靡かせた高嶺の花、優描が立っていた。
「ッ優描、おはよう」
「優音、おはよ」
暫く沈黙が流れる。どちらから口を開いていいのかわからずただ立ちすくむ私達。この空気感に耐えられなくて、口を開いたのは
「昨日は、ごめん。」
私
「絵なんてくだらない、みたいなこと言って。私初めて絵を見てあんな感覚になったの。心がスゥッと軽くなる感じ。優描は、凄いんだね」
「そんな事ないよ、」
少し興奮気味な優描が前のめりになって答える。
「私だって音楽聴いてあんな気持ちになったの初めて。音がちゃんと線になってるっていうか。初めて音楽聴いて心地良いって感じた。優音も、凄い」
お互い少し涙目になり、笑う。
「これからもずっと仲良くしてね、音楽のことも教えてね」
「もちろん。優描も、絵の事教えてね?たまには私にも描いてくれるとうれしい。」
6,体育祭
体育祭は8月。真夏日にある。入学式から約4ヶ月。優描とは変わりなく過ごしていたけれど、最近妙に優しい。そして、優描と喋ると心臓が煩い。恋、無わけないもんね!同性だから。
「ゆーね!今日体育祭本番だね〜」
「そーだね。暑いから体調不良者増えそう。」
今日は本当に暑い。それに加え、私は朝から体調が少し悪い。休むに休みきれなくて、今ここにいる。
「次、私達だよね?」
「へ?」
「リレー!」
「あっ、うん。行こっか。」
何やら不審な顔をする優描。何を思っているのかコロコロと表情が変わる。
「優描?どうしたの?」
「優音今体調悪い?」
?!っとなってるのは今の私の心臓。最近、優描と居るとこういう事が多い。
「大丈夫。さ、行こ」
「…うん」
リレーはクラス対抗の男女別。男子対男子、女子対女子で競う。私は優描のあと。優描は文化系の物なら何でも出来るけど運動は点でだめ。そこがまた可愛いんだけどね。だけど私は、吹奏楽部で少し筋トレをしているからか、運動はできる。だから足には自信がある。
「3組女子速いです、1組頑張ってください」
放送委員が放送をする。次は優描の番だ。
「白波さんにバントンが渡りました。」
バトンが渡ると差が開いていたけれど、優描の脚力で1人にこされてしまった。
「ごめん、越されちゃった、」
悲しそうに言う優描の顔は見たくないから、全力で走る!!
「越された!」
「大丈夫私早いから」
「3組、2組に越されてしまいましたがまた追い越しました。2組とのさがどんどん開いていきます。 」
私は、最終ランナー。最終ランナーは2週は知らないといけないけれど、そんな事関係ない。軽々とゴール。最下位の人とは1周差を付けてゴールテープを切った。
リレーを全学年終わり、3組は女子1位、男子2位と高順位。次は借り物競争で優描も出るし、私も出る。先に出るのは私だ。
「借り物競争に出る選手は待機場所に集まってください」
優描はとても楽しそうで、心做しか汗ばんでいるのがえっちい、と思うのが男なのであろう。
「これって待機してる選手も借りていいんだっけ?」
「多分、」
優描は本当に何の競技よりも楽しみにしていた競技なので、最高の本番になってほしいと思う。
「第一ランナーの人は並んでください」
よーいパーン
銃がなり、みんなお題へ走る。私がゲットしたお題は
【クラスの高嶺の花】
私はこの人しかいないっと優描の元へ走っていく。
「優描来てー!!」
「何でー??」
「お題!!優描!!!」
おけ!そう言いながら走る姿はニッコニコで天使のようだった。結果はまたまた1位!
ゴールしたあとに
「お題は?」
と聞かれたので「高嶺の花」と答えたらうれしい!と跳ねんばかりに喜んでいた。
そして次は優描が走る番。私も優描もワクワクしお題を引く。すると目を見開き、覚悟を決めたようにこちらに走ってくる優描。
「ごめん優音!!私も優音!!!」
「今行くー」
そう言いながら優描のものに走り、またまた1位!
「お題は?」
「えっと…」
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6054字お疲れ様でした。 こちら百合作品となっておりまして、@くく様との合作となっております。続きは@くく様のページに明日(2025/05/08)投稿されます。どうぞお楽しみに