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「あの日さあ、本当に同僚のとこ泊まったの?」
定時退社し
予感していた純也の在宅を確認出来た
気になっていた
知りたかった
満たされたのはその欲求だけ
帰宅するなり
開口一番
一番触れて欲しくない事を聞かれた
やはり
——純也は私の事を疑っている
「……うん」
「今までそんな事一度も無かったのに?」
「急にそんな事あり得なくね?」
矢継ぎ早に
責め立てられてしまう
次の言葉を考える余裕が無い
でも……
責め立てられ焦る気持ちと同時に
湧き上がる感情もあった
自分の意見も
自分の意志も
持たなかった私には無かった事
私は変わったのだろうか
湧き上がる感情のままに私は
ありのままの意見を口にしていた
「あの日……私に何したか覚えてる?」
「だいぶ酔っ払ってたみたいだけど……」
「無理矢理暴力振るったんだよ」
言葉を選ぶ間もなく
脊髄反射で
思ったままの言葉が出てしまった
「暴力って……大袈裟過ぎだろ」
「夫婦なんだから別にそれ位たまにはいいだろ」
純也には
謝る素振りもなく
悪い事をした認識もないのだろう
そして
泥酔していたとはいえ
純也は
あの日の記憶はあるのだろう
自分のした事を
覚えているのだろう
それを理解し
更に感情が湧き上がり
私も感情的になってしまった
「そんな程度の認識なの?……酷過ぎるよ」
「たまたま酔ってての一回だろ?被害者面し過ぎだろ」
純也の
あまりに心無い言葉の数々に
つい感情的になってしまった
普段は
押し黙り
言い合いにすらならないのに
この時は
溜まっていた物が噴出してしまい
言い合いになってしまった
普段は然程言い返さない私が
純也の横暴を糾弾したのが癇に障ったのか
純也も引かずに私を責める
#大人ロマンス
煉彩
248
#異世界転移
新城かいり
688
みかん大福
17
#シングルマザー
水羽凛
250
言い合いの論点は
純也の言う通り
あの日のただ一回の出来事
やがて言い合いは堂々巡りの様相を呈する
互いの意見の不一致
互いの感情の不一致
それらを浮き彫りにして
私達二人の間に横たわる
溝も浮き彫りになる
そして
これ以上話しても無駄だとの結論に行き着く
やがて
言い合いもトーンダウンし
終着地へと向かう
それ以上言い合う事も無くなり
いつもと同じ沈黙へ辿り着いてしまった
純也と居るといつもそうだ
結局はここに戻って来てしまう
色無きモノトーンの世界
室内に響く包丁がまな板を叩く音
無言でキッチンに立ち
無言で夕飯の支度に勤しみ
食べるかどうかも尋ねずに
作った料理を
作り置きにする
私は
それ以上純也と言葉は交わさずに
リビングを出て
シャワーを浴びて
床に就いた
私は
変わったかもしれない
以前は委縮してしまい
純也と言い合う事など出来なかった
いつからだろうか
リュカと出会ったからだろうか
それとも
妊娠により情緒が不安定だからだろうか
純也は
本気であんな風に思っているのだろうか
どうして私の気持ちを解ってくれないのだろうか
どうして私の気持ちを解ろうとしてくれないのだろうか
きっと
私の事など都合の良い存在としか見てない
労わってくれない
大切にしてくれない
癒されぬ心の傷
哀しみに暮れながら
脳裏に浮かぶのはリュカの事
比較するのは良くない事と知りながらも
脳裏に過ってしまうリュカの事
最近は情緒が不安定
メンタルの振れ幅が大きい
それが
体調にも影響する
悪化する前に寝てしまおうと
巡る思考を
湧き立つ感情を
無理矢理鎮め
無理矢理目を閉じ
早めの就寝に就いた
***
昨日は
純也と言い合いになってしまった
今までそんな事はなかった
日が明けて冷静になると
自身のした事に罪悪感を覚える
でもそれは
今まで自分を犠牲にして
今まで自分が被る事で成り立っていただけ
今の私は
そう客観的に俯瞰して思える
揉めてしまったのは良くないが
揉めてしまった事で
私があの日実家に帰っていなかった嘘は
結果的に有耶無耶になった
それが
良かったのか
悪かったのか
良く分からないが
結果としては窮地を脱する格好となった
再び純也と顔を合わせるのは
気が重い
妊娠による体調不良も重なり
体が重く気だるい
無情にも時計の針は止まる事なく進み続け
妊娠は進行し続ける
今後を見据えて
出来る限りの仕事を先へ進めておこう
自分に言い訳をする様に
自宅から逃げ
仕事に没頭し
その日以降は定時退社を控え
少し遅めの退社時刻まで仕事に励んだ
***
ガチャ……
——純也がいる
明くる日も
私よりも早く
純也は帰宅していた